13.私のハートが爆破されちゃったかも?
キャサリンは、決戦の地 帝都ナードハートの公爵家別邸で、一人アフタヌーンティーを楽しんでいた。
別邸とは、ノーベル公爵家の帝都滞在用のお屋敷だ。
ここには、キャサリンの母も住んでいる。
母と言っても、血のつながりは無い。
キャサリンの産みの母は、彼女が5才の頃に流行り病で亡くなってしまった。
公爵になったばかりの父は、とてもショックを受けて、
「一生再婚はしない」
と、のたまっていたそうだが、独身の公爵など許されない。
無理やり、貴族の令嬢と結婚させられた。
それが、帝都に住む母である。
キャサリンはすでに物心ついていて、新しい母に懐くことも無かった。
父がキャサリンの母のことを忘れられなかったためなのか、新しい継母は、帝都の別宅に住んだまま放置状態になった。
キャサリンは、父と共にパーライトに住んでいたので、ほとんど顔も合わせていない。
そのため、母と彼女の関係は微妙なものだった。
(こういう複雑な家庭環境が、悪役令嬢を生んだのだろうな)
などと、他人事の様に考えていた。
公爵と長女キャサリンが来るという事で、邸内の滞在予定の部屋も、きれいに掃除されていた。
キャサリンたちは帝都に着いてすぐ、用意された食事を食べることが出来た。
ただし、2人だけの食事だった。
(お母さまの方も私達を避けているのかしら?)
キャサリンは、心に引っ掛かりを感じていた。
食事の後、父は翌日からの段取りのために慌ただしく出かけて行った。
キャサリンは、翌日の皇帝陛下への謁見まで、用事は無い。
のんびりと、旅の疲れを癒しつつ、作戦を練った。
ファルマイト公国から付いてきているお側付きの者達は、雇用主のキャサリンや本人たちの荷物の荷解きに、時間を取られている。
さすがに、ソフィアだけは自分の荷物がほとんど無く、キャサリンがお茶を飲みながらくつろいでいると、いつの間にか後ろに控えていた。
今なら、ソフィアはいるが単独行動が出来る。
お屋敷から出るのは、拙いだろうけど。
ソフィアは完全に、キャサリンに忠誠を誓っている。
セメンタイトでの騒ぎで、そのことを確信できていた。
ソフィアは口が堅いので、彼女の行動は父にすら報告される心配はない。
公爵令嬢の権限を活用して、こちらの執事さんに頼んだ。
色々と調査するための人たちを、邸に呼んでもらったのだ。
普通、10才の女の子が呼び出したところで、行政の責任者が訪ねてきたりはしない。
しかし、公爵令嬢なら話は別だ。
相手が子供だからこそ、取り入ってしまえば後々得をする。
彼女が呼び出した行政官たちは、次々と彼女の元にやって来た。
まず、ゲーム上の主人公クララを徹底的に調査する。
何に対しても、一直線に物事を解決しようとする弾丸娘。
それが、主人公クララだ。
ゲームの設定上の話とは言え、可愛くて周りを味方に引き入れる容姿。
何でも一直線に突き進むことで解決できる、その突破力。
主人公である以上、彼女の有利な方に有利な方に物語は流れるはず。
基本は、いじめない、絡まない、近付かない、の3ないだ。
調べてみたが、間に合ったようだ。
帝都で、クララという娘の話は全く聞こえない。
まだ、森に住む平民の娘のはずだ。
平民の娘クララ親子は、この帝都で帝国騎士団の兵士に絡まれる。
それが原因の騒ぎで、クララが伯爵の娘であることが発覚して伯爵令嬢になるのだ。
今のうちに上手く立ち回れば、クララは伯爵令嬢になれない未来もある。
クララの母にからんだ帝国騎士団の兵士の名前は、分かっている。
彼を先に、辺境の地に飛ばしてやる。
公爵令嬢に非礼を働いたことにすれば、一発だろう。
重罪にならないように、気を付けてあげないといけないが。
さらに、城塞都市ナードハートに入るためには門を通らないといけない。
全ての門の警備隊長に、クララとビアンカという親子が入門したら知らせるように、手配した。
騎士団の精鋭部隊を護衛に付けて、彼女達親子が入門から出門まで何のトラブルも起きないようにしてやる。
これで、主人公が伯爵の隠し子であることも公にならずに、終わってしまう。
主人公親子がトラブルに巻き込まれることを、防いであげる。
良いことをする、悪だくみだ。
次は、皇子たちだ。
ここがゲームの世界なら、シナリオライター(神)がいる可能性が高い。
物語は、修正しても『神の力』で揺り戻されるかも知れない。
そうなると、主人公はやはり皇子たちに出会うだろう。
出会わないのがベストだが。
揺り戻しの場合でも、皇子たちの主人公への好感度向上を防げば良い。
没落は避けられなくても、殺されることは避けられる。
ゲーム上の素のキャサリン・ノーベルは、自分の魅力で皇子たちを振り向かせようとして、失敗している。
明神さくらには、元々それは無理だと分かっている。
男性に媚を売ったりするのは、彼女には無理だ。
男性とは、ほぼ無縁の生活を送ってきたのだから。
もしかしたら、話しかけることすらできないかも知れない。
ただ彼女は、ゲーム『愛の弾丸娘』をやり尽くしていた。
彼女は、主人公クララと皇子たちが親密度を高めるイベントを、知り尽くしている。
そのイベントが起こらないように、あるいはイベント内で親密度が高まる選択が出来ないように誘導する作戦だ。
ゲーム中ではほとんどの場合、キャサリンの意地悪が皇子たちの主人公への好感度を高めるトリガーになっている。
意地悪しなければ良いなんて、楽勝である。
少なくともエドワードとの婚約を画策しなければ、ストーリーの流れは大きく変わるはずだ。
これも、アニメやゲームで美形キャラを愛でるだけだった明神さくらには、楽勝に思えた。
最後に、卒業までに戦力を充実させて、絶対に負けて殺されないようにする。
そのために、父にはダイナマイトを売って、大儲けしてもらう。
強大な資金で強化した公爵軍に、対抗できる軍隊など帝国には存在しないようにしてしまえば良い。
この基本戦略に則って進めれば、大きな破綻は起きないはずだ。
だが、いきなり破綻の兆候が見えてきた。
キャサリンは、度肝を抜かれた。
「な、な、な、何というイケメン」
公爵親子が帝都に来たのである。
皇帝陛下に挨拶するために、親子二人で城に出向いた。
そこにいたエドワードは金髪碧眼、映画でも見たことが無いような美少年だった。
「こ、こんな美少年と婚約できる権利を捨てるなんて……
無理ッ、絶対に無理!」
そしてもう一人、皇子ゲオルグも美しい。
まるでギリシャの神殿に飾られていそうな、彫像のように整った顔だ。
ゲームのグラフィックでも二人とも美しかったが、これほどとは。
「こんなイケメン二人に囲まれて暮らせるなら、それだけで幸せじゃない。
主人公クララは、何が不満だって言うの?
戦う必要なんて、ないじゃない。
私は、こんな美しい人たちから恨まれて、殺されてしまう運命なの?」
キャサリンは、目に泪がたまっていくのが分かった。
キャサリンは、しばらくの間皇子たちに見とれてしまった。
「ああ、二人とも素敵。
私の心が爆破されちゃったかも?」
キャサリンは、つぶやいてしまっていたが、声は出していない。
皇子たちの美しさにトリップしてしまったが、最後の一線は守っていた。
これを一目惚れというのだろうか?
しかし、二人に同時に一目惚れって、それはありなのだろうか?




