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ばくやく令嬢しか勝たん  作者: 御堂 騎士
第5章 食事は貧相で不自由だけど、ちょっとうれしい森での共同生活
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100.人生に必要なもの

 キャサリンのスイーツが食べたいという一言で、みな朝から何も食べていないことを思い出してしまった。


 見張り台は破壊したものの、バベルの塔は健在だ。

 次は、いつ食事にありつけるか分からない。


 キャサリンたちは、見張り台崩壊の騒ぎに乗じて、まさに滑り込むようにこの地下に潜り込んでいた。


 この地下には、以前にとらわれていた時も、ほとんど警備の兵はいなかった。


 キャサリンたちが脱走したことで、その意味を失ったのだろう。

 滑り込んだ時、地下は無人だった。




 これ幸いとキャサリンたちは休憩に入ったのだが、夜通し働いての朝だ。

 交代で2,3時間の仮眠を取ったら、お腹が空いてきた。


 極度の緊張で気付いていなかったのだが、キャサリンの一言で気持ちが落ち着いたのだろう。


「この建物の地上階に、厨房ちゅうぼうがあったよな」

 エドワードが、軽くつぶやく。


「いや、さすがに地上をウロウロするのは危険すぎるでしょう」

 ララが、いましめるように言う。


「調理まですると、煙が出たりして拙いから、材料だけでも取って来れないかな?」

 エドワードが、考えなしに言ったんじゃないぞと言う顔で付け足した。


「6人分ですからね。

 塩や小麦粉も、それなりの量を運ぶ必要があります。

 敏捷で、力の強い私が行って来ましょう」


「あたいも付いて行ってあげたいけど、地上に出ると結界の影響で隠密魔法が不安定なんだよね。

 もう少しここで休んで、魔力を回復するよ」

 ララは、そう言うとエドワードの膝の上で寝てしまった。


「おいおい、そこで寝られたら俺も行けないじゃないか」


「お兄ちゃんは、休んでおいて。

 僕が行ってくるよ。

 すばしっこさなら、自信があるから」




 キャサリンも行くと言いたかったが、足手まといになることが明白だったので黙っていた。


 結局、ソフィアとヴェンデリンが地上階の厨房ちゅうぼうに忍び込むために、階段を登っていった。




 二人は、30分ほどで戻ってきた。

「かなり気をつけて行ってきましたが、この建物自体に人の気配がしません。

 恐らく、お嬢さまのアナウンスで避難したのではないかと思います」


 ソフィアの報告を聞いて、キャサリンは作戦が一段階進んだことを確信した。

「つまり、この建物は地下共々爆破しても、被害者は発生しないという事ですわね」


 兵士たちを避難させるための方策を何段階か考えていたが、アナウンスだけで済んだことに、少しホッとしていた。




 ヴェンデリンが、取ってきた水の入った鍋に小麦粉を溶かして、塩と砂糖を混ぜる。


 火炎魔法で出来た火の中に材料を通すと、鶏の唐揚げのようなものが出来た。


 キャサリンが食べてみると、あまり甘くないサーターアンダギーのような食感だ。


※サーターアンダギー

 沖縄の揚げ菓子。

 強力な火炎魔法で加熱すると、油無しでも揚げたような調理が出来るようだ。




「美味しいわ。

 ヴェン、すごいわね。

 こんな料理、いつ作れるようになりましたの?」


「一人旅をする中で覚えたんだ。

 お姉ちゃんが喜んでくれるなら、とても嬉しいよ」


 キャサリンがパクパク食べながら、しみじみと言う。

「ああ、人生は素晴らしいわ。

 人生に必要なものは、勇気と想像力、そして少しの『塩』ね」


「塩? 砂糖じゃ無いの?

 あたいは、もう少し甘い方が好みだし」

 ララは、少し不満そうだ。


「そうやって、もう少しもう少しと多くを望むから、幸せになれないのですわ。

 本当に幸せな人生に必要なものは、沢山じゃないことを知る。

 それが大切なんですわよ」

 キャサリンがサーターアンダギーもどきを頬張りながら、さとすように言う。


「何だそれ?

 俺の婚約者は詩人になってしまったのか?」

 エドワードが、からかう。


「もお、馬鹿にして。

 こんな空腹のときに、美味しいものを食べて感動出来ないなら、人生を半分以上損していますわよ」

 キャサリンが怒って見せて、雰囲気はさらに和やかになった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 さて、前線から100キロほどの所に陣を敷いていた、ノルド公ことズラタン・コルネリウス公爵のもとに、早馬の報告が来たのは夜が明けて1時間後の事だった。


 朝食の場に、少しでも早く知らせるためと伝令兵が駆け込んできた。


「大変です。

 国境沿いの見張り台が、半分以上壊滅しました」


「そうか、ついに敵の総攻撃が始まったか。

 しかし、半分以上壊滅とはえらい猛攻を仕掛けてきたものだな」


 この事態は予想していたのだろう。

 公爵は、落ち着いて受け答えをする。


「いえ、帝国軍は国境の向こうに張り付いたままです」


「何い、どういうことだ?」


「ばくやく令嬢に、全て吹っ飛ばされた模様です」


「ばくやく令嬢?

 ファルマイト公の長女キャサリンのことか?

 いくら爆薬を使うと言っても、国境線の守りの要となる無数の砦が、10才やそこらの少女にふっ飛ばされるわけが無かろう。

 情報は、きちんと調べてから伝えに参れ!」


 公爵は、ちょっと怒った様子で伝令兵を下がらせた。


 だが、傍に居た側近が下がろうとした伝令兵を引き留める。

「ちょっと待て。

 まさか見張り台が壊滅したという事は、我が軍は撤退を始めたのか?」


「はい、そのように指令を受けておりましたから」


「まずいな。

 帝国軍が、あの見張り台に大きな被害を与えるような攻勢をかけたなら、それなりの被害が出ている前提での撤退命令だったのだが」

 公爵の顔が、苦虫を噛み潰したようにゆがむ。


「バベルの塔と巨人の王たちが健在とは言え、帝国軍も戦後にそれなりの戦力が残ってしまいますね。

 帝国軍は3分割された上に、巨人を含む強固な砦を攻めることで大損害を出して、ノルド公国軍の主力部隊抜きでは平和が維持できないからこそ、和平交渉せざるを得ないはずだったのですが」

 側近が、戦後処理の今後の作戦を反芻はんすうするように口にした。


「うむ、早くこちらから停戦協定を出さないと、国境を抜けられたら勢いに乗って攻め込んでくるやも知れん。

 ただでさえ帝国軍の方が、数が多いのだ。

 面倒なことにならんうちに、停戦だ!」


 公爵は、急いで大臣たちを集める。

 少しでも有利になるような、停戦申し入れの準備に取り掛かった。


ついに100回まで到達いたしました。


ここまで続けられたのは、読者の皆様のおかげです。


これからも読んで下さいね。

次回更新は、12月19日(土)の予定です。

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