09話 死んでも私は倒しきる
壁沿いに3人で固まりオークをみる
「これを1人ずつもって」
リンドから柔らかい玉を渡される
ミホに渡しながら何かを聞く
「これは?」
「ここのオークは耳はあまり良くない、しかし暗闇でも見える目とよく効く鼻が厄介だ、この玉で臭いを消せる」
よく調べてあることで
「焼き切らなくていいか?」
「セーラの火はこのダンジョンでは煙的に最終手段にしたい、ここだと煙は留まるんだ」
「ふむ、わかった」
煙はそんなに出ないと思うけど
パーティーを設定した時リーダーはリンドになっている、形だけでもリーダーの言うことは聞くべきだろう
何よりよく調べてある
初心者とは思えないほどに
「このまま壁沿いを移動すればいいのか?」
「あぁ、付いてきてくれ」
3人で固まりながら壁沿いを移動する
絶対見られてると思う目線だが襲いかかったりはしてこない
バレてないのか...?
その後も二、三匹同じように通り過ぎて行った
「次の階層が最奥のはずだ」
階段を降りている時にリンドがそう言ってきた
途中で宝箱を見つけることができ赤と青の宝石を手に入れている
大きさ的に金額はあまり期待はできないそうだが
「このダンジョンにボスは?」
「いる、オークだ」
「倒しましょうっ」
オーク...道中からボスまでオークか
別に弱い魔物ではないのだが
ここのオークは光るアイテムで視界を潰せるらしい
森にいるオークよりも対策が進んでいるらしい
「ボスを倒したあとは冒険者カードで入り口に帰るから遠慮なくやってくれ」
私の火を使ってもいいということだろう
「俺がやつに向かって走る、セーラはその後ろを、ミホは魔法の準備をしていてくれ」
「わかったわ」
「ん」
「向こうが攻撃をする、まぁ棍棒で振り下ろすだろう、をしてくる時に俺は左に跳ぶ、セーラは右に跳んで切る、それでもオークが体制を崩さなかったら距離を取ろう」
「了解」
事前に組んできた作戦だろう、を伝えるリンド
「もう、最下層だ、...いくぞっ」
「はいっ」「...よし」
まさか初めてのダンジョン攻略でボスまで行けるとは
案外ダンジョンも対策すればどうってことないな
最下層を降りると階段から通路が伸び、少し先に広くなっている部屋がある
間に扉などはなく、降りたところからでかいオークが見えている
座り込んで下を向いているオーク
距離があるが...少なくともこちらの通路には来れない大きさだ
通路からひたすら遠距離攻撃すれば勝てそうじゃない?
「いくぞっ!」
少し通路を歩いたところでリンドが走り出す
オークに対して真正面だ
遅れないようにリンドの後をつける
慎重だったのにここに来て急に走り出すなんて...
とか思いながらついて行く
通路を抜け部屋に入る
速度を落とさずにそのまま走るリンド
部屋に入り少し進んだところでオークが動き出す
立ち上がり、私たちの後ろ、ミホを見ている...
順調に近づく、まるでオークは私たちに気がついてないようで
というかデカイなボスだからか
「今だっ!」
リンドが左に跳びあがり剣を抜く
私も右に跳び剣を構える
「ぐもぉっ!?」
まるで急に私が現れたかのような反応をするオーク
構わない、斬られろ
剣に魔力を込める、火の刃が伸び部屋が明るくなる
オークはこちらを睨みながら、眩しそうにしながらも棍棒を構える
眩しいのだろう、しかしそれでも殴りかかろうとする、流石はボスと言ったところか
「燃えろっ!」
速度の勢いも使い、オークの構えてる右手、とは逆の眩しそうにかざしている左手を切る
いや、切り落とす
シュゴォッ...
「グモォォオオッ!」
力任せに棍棒が襲いかかってくる、しかしその大きさは丸太のようで...!
咄嗟に手を、腕を構えて防御の姿勢をとる
「はぁっ!」
オークの反対側、背中側からリンドの声がする、ズシャッという音がするので斬りつけたのだろう
しかしオークは止まらない
ゴスっ
ミシミシと腕から音がする
斬る時の勢いでジャンプ斬りをしていた
そして着地したばかりのため踏ん張りが効かずに勢いのまま殴られる
宙に浮き壁に飛ばされ、めり込む
ズドンッ
「がハッ...」
馬鹿力がすぎるだろう...!?
壁への勢いが無くなり床に落ちる
ドサッガラガラ...
ボスだけ別格すぎるんじゃないか?
部屋の周りには人の骨が多くありこいつを前に敗れた冒険者なのだろう、と予測できる
皮装備多めだし
落下ダメージとかはおかげでなかった
「セーラさんっ!」
ミホが直ぐに駆け寄ってきて回復魔法をかけてくれる
痛みが引いていく
まぁ痛すぎて痛くないという謎現象が起きてたんだけどさ
起き上がりオークを見るとリンドが棍棒を躱しながら斬っていた
おお、凄いな...
まるでそこにいないような躱し方だ
部屋の周りには同じような皮装備を着た骨が沢山転がっている
全身の感覚が戻ってくる
「ミホ、大丈夫だ」
ゆらりと立ち上がる、髪は乱れ、服もボロボロだが再生もあってか体は回復済みだ
「えっ、もう?」
ミホが驚いているが...
今、オークが後ろを向いている、斬りかかるなら今だ
走り出し、構え、魔力を込める
狙うは足の付け根
「でやぁっ!」
「グモアッ!」
左足の付け根を深く斬り、そのまま抜ける
直ぐに振り返り短剣を構える
「セーラっ大丈夫なのか?」
オークが後ろによろめいたことですぐさま追撃出来なくなる
その隙にリンドが話しかけてきた
「あぁ、当たりどころが良かった」
なんせ全身だからな、大当たりだ
「すまねぇ、見誤ってた、ボスがここまで強いとは」
なんだ、躱してたから数回目かと、見切った訳では無いのか
「グオォォォオオッ!」
オークが叫ぶ
「ひっ...」
「くっ...」
それは狩る対象から恐怖の対象になるのに変わるのには充分だった
頭では冷静に、たいしたことないと言っているが体が震え、後ろに後ずさりする
リンドがこっちを向いて叫んでいる
何か言っているが...
オークが不格好ながら近づいてくる
足へのダメージは効いている、追撃を仕掛けれる
しかし体は動かない
なんで...?
「ひっ...いや...」
その場にヘタリ込み、後ろに後ずさる
必死に話しかけていたリンドが殴りとばされる
私ほど大当たりでは無いが重症だ
「ぐぉおぉ...」
横に薙ぎ払う構え方
そのまま殴りとばされる
「きゃっ...」
壁まで吹き飛ばされる
めり込むほどでは無いが骨が折れるには充分な一撃だ
諦めてない思考とは別に
心を折るのにも充分な程に
何も考えられずにただぼーっと見ていた
こちらに近づこうとするオークにミホが光の...ビーム?光線?をうっていた
回復と攻撃、優秀な魔法使いだ
体は順調に回復している
もう、動くことは出来るだろう
視界の端でリンドが何か投げ捨てた
あれはいわゆる回復薬では?
投げたのは空の瓶だろうか
ミホの攻撃は効きが悪いのかオークは攻撃されながらも振り回し始めた
当たるっという所でリンドが庇う
男前だな...
「きゃあっ!」
ミホと共に吹き飛ばされるリンド
ふと我に返る
思考が追いつきサボっている場合じゃないと叫び出す
しかし...
2人の姿をオークが隠す
オークが棍棒を上に構え振り下ろそうとする
何処かで見たことがあるような攻撃だ
オークの向こう側が光ってオークが半歩後ろに下がる
直ぐに振り下ろされる棍棒
オークがこちらを向いた時、リンドとミホはいなかった
その時、バチバチと雷魔法を受けたような感覚に陥った
項垂れている場合じゃないと
まるで何かから解かれたように
オークがキョロキョロと探す
少しずつこちらに近づいている
見当たらないのか逃げ出したと見ているのか油断しているようにも見える
私の目の前まできて、臭いを嗅ぎ出す
いないと判断したのか背を向ける
あぁ、油断しているな?
骨の山から飛びだす
剣に魔力を込め
構える
ガラガラと骨が音を立てる、オークが気が付きこちらを向こうとする
目が悪いってのは本当らしいな?
「ぅうぉぉおおおっっ!」
がら空きの背中に斬り込む
こちらを向く途中の側面にも斬り込む
こちらを向いた時すら構わずに斬り込む
短剣をめちゃくちゃに振り回し
斬る
どちゃっ...
「...あ、が?」
視界がブレて片目だけになる
左手の感覚、いや、左側の感覚が無く、右手で触る
左目のあるはずのところを
右手は空を切り視界が歪む
右手に握っている短剣が何かに当たっている気がするが...
オークが棍棒を持ち上げる
棍棒には肉片のようなものが...
...死んだか、体の左側を全部持ってかれた、と
だからなんだ
残った体が火に包まれる
右半身から火が溢れ形取る
それは左足となり左手となり
左目となった
「グモ...」
オークの表情がニヤケヅラから驚愕に変わった
気がした
何度も棍棒を振るわれ
体が散っていく
その度に炎が溢れ形取りオークを襲う
炎の剣は攻撃をやめない
オークが後ずさりをし始める
火は刃を形取り、二本目、三本目の刃となり斬り込む
その刃は私の力が尽きるまでオークを斬っていった
修羅です