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川島恭介の受難  作者: ゆきち
第四章:二つの祭りと二人

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第27話 椎名真琴と焼きそば




 さて、暇になってしまった。

 鯉は返してしまったし、川島は電話中だ。

 川島には大人しく待っていろと言われたが、ここで黙って大人しくするのはあたしのポリシーに反する。

 だけど、これ以上勝手なことをしたら川島に本当に怒られかねないので、今回は川島のために何かを買ってきてあげよう。

 思い立ったが吉日。あたしはすぐに行動へと移した。

 向かうのは、先程から良い香りをさせてる焼きそばの屋台だ。

 人はそれなりにいるが、川島が電話を終えるまでには買えるだろうと判断して、うきうきとしながら並ぶ。

 次々と焼きたての焼きそばを詰めたパックを持っていく客を呆然と眺めながら、あたしは川島の喜んだ顔を思い浮かべていた。

 焼きそばを買ってきてあげたら、彼は喜んでくれるだろうか?

 もし喜んでくれたら、嬉しいなぁ。

 そんなことを思いながらついにあたしの番が回ってきた。


「嬢ちゃん。焼きそばいくつ欲しい?」


 真っ白なタオルを頭に巻いた、なかなか筋肉質なおじさんが外見にあった太い声で聞いてきた。

 あたしは人差し指と中指の二本を立てて口を開いた。


「焼きそば二つで!」


「はいよ。元気が良い嬢ちゃんにはサービス。二つで六百円だ!」


「良いの!? ありがとぉ、おじさん!」


 と言いつつ、右の値段表がふと目に入った。

 そこには焼きそば一つ三百円とかかれている。


「全然まけてなーい!」


 そう言って残念そうに肩を落とすと、ガハハとワイルドに笑った。


「うちも商売なんでね、簡単にはまけないよ?」


「いいもんいいもん。そんなケチなおじさんなんて嫌われれば良いんだ!」


 あたしはそう言って財布から六百円出す。するとおじさんの太い手が、そのうちの四百円だけを掴んだ。


「え?」


 あたしが目を丸くして、おじさんの行動にはてなを浮かべていると、またおじさんはガハハと笑った。


「嬢ちゃん、さっきも言ったろ? 一応商売だって」


 そう言ってニカッと笑う。

 つまり、サービスすると言ったのは本当で、彼は他の客にはバレないようにこういうことをしたのだ。

 あたしは満面の笑みを浮かべて。


「ガハハ! おじさんありがとね!」


 そう言って、おじさんと同じ笑い方をして焼きそばをもらった。

 それから少し離れて、チラリと一度おじさんの方を見ると、おじさんはもうこちらに目も向けず、次々と来る客をさばいている。

 なかなかの職人だ。

 あたしはほくほくとしながら、川島と別れたところまで戻ってきた。


「あれ? いない?」


 場所は間違っていない。だがそこに、川島の姿はなかった。

 おそらく、あたしが居ないことに気づいて探しに行ってしまったのだろう。

 あたしは一つため息をついた。


「まったく、しょうがない川島君だな!」


 そう呟いて、迷いのない足取りで出口へと向かう。

 彼ならきっと、他のメンバーに電話を掛けて集合場所を最初の場所……つまり祭りの入り口に設定するはず。

 現に今さっきかけたときは通話中で繋がらなかった。まだ電話を掛け回ってる最中なんだろう。

 あたしはスルスルと人と人の間を通っていく。

 そしてようやく人混みから抜けて、祭りの入り口へと着いた。

 すぐさま周りを見渡して。


「え……」


 そこであたしは川島を確かに見つけた。

 でも、その目の前に広がる光景に、思わず声を洩らす。

 でもそれは薄々分かっていたことで、今更だ。

 だけど、実際にその光景を前にして、あたしはずっと胸の奥にしまっていたモヤモヤとしたものが溢れるのを感じた。

 自覚してしまった。

 でも、もう間に合わない。

 それは、今まであたしがもたついていた結果で、当然と言えるものだった。

 あたしは目の前の光景から目を逸らすように、再び人混みの中へと紛れていった。


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