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川島恭介の受難  作者: ゆきち
第四章:二つの祭りと二人

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第26話 望月明日香と冷たい記憶




 はぐれた。

 最後に椎名がすごい勢いで人混みを駆け抜けていくのを川島が追いかけていくのは見えたが、それを追いかけようと思ったときには既に見失っていた。

 あたしはふと九頭の方を向くと、いつの間にか買っていたたこ焼きを口に一杯頬張っていた。


「九頭さんそれ、いつ買ったの?」


「ん? ついさっきだよ? もっちーが恭介君たちに熱い視線向けてる間に買ったの」


「そう、なんだ……って、別にそんな視線送ってないよ!」


 遅れてあたしは気づき反論する。

 だが九頭は特に興味はないのか、それ以上深く突っ込むことはなく「おいし」と言いながら、幸せそうな顔をしてたこ焼きをパクパクと食べている。

 熱くないのだろうか。

 あたしが見てると九頭は視線に気がついたのか、つまようじにたこ焼きを刺してこちらに「んっ」といって差し出した。

 別に食べたかったわけじゃない。


「えっと……くれるの?」


 一応確認すると、うんと頷いた。

 どうやら口にたこ焼きを詰めすぎて喋れないらしい。

 あたしは顔に掛かる髪を耳に掛けながらたこ焼きを食べようとした寸前でたこ焼きは九頭の口の中へと吸い込まれた。


「あ……」


 まさか取り上げられるとは思っていなかったので、思わず変な声が出てしまった。

 それを九頭は見逃すことはなく、目を輝かせながらたこ焼きを再びつまようじに刺して、見せつけるようにあたしの目の前で揺らした。


「ほれほれ、これが欲しいのかね? この欲しがりめっ!」


「くっ……そんなことない!」


 あたしは目を逸らして必死に視線を外すも、その度にたこ焼きは目の前に現れる。

 何だろうかこの状況は。

 あたしはいっそ食べてしまえばこれも終わるかと思い、隙を見ては何度もかぶりつく。だが、そのことごとくをかわされてしまう。


「ふっふっふ、口ではそんなことを言っていても、体は正直みたいだね」


 いやらしい顔で笑う九頭はもう一つたこ焼きにつまようじを刺そうとして。


「……あれっ、ないっ、ないよ! 食べすぎてまったぁ!」


 空になったパックをツンツンとつまようじで刺しながら、本気で落ち込む。

 そんな九頭の様子を見てため息をつきながら、ふと周りに視線をやると、周りの人にすごい注目されていた。


「く、九頭さん! 一旦ここから離れよ? すっごい注目されてるから」


「だって、たこ焼きがぁ……」


「そんなのまた買えばいいでしょ!」


 そうこうしているうちに、あたし達が注目されていると気付いたことに気がついた周りの人たちが各々の祭りを楽しむために散らばっていく。

 もうここから急いで離れる必要もなくなってしまったが、九頭がいまだにうだうだとしていて少しうざい。

 そう思っていたときだった。

 茶色のバッグの中にあるスマホが音を鳴らした。

 もしかしたら、他のメンバーの誰かが連絡してきてくれたのかもしれない。

 あたしはバッグからスマホを取り出した。画面には川島恭介の名前がある。


「九頭さん、ちょっと恭介君から電話が……」


「あ、あっちの綿菓子美味しそう!」


 さっきまで落ち込んでいた態度とは一転して、いきなり目を輝かせた九頭がそう言うなり、走り出した。


「えっ、ちょっと九頭さん!?」


 あたしは咄嗟に追いかけようとするも、手の中のスマホもなかなか鳴りやむ気配もなく、九頭とスマホを交互に見ているうちに、九頭の姿が見えなくなってしまった。

 あたしは深くため息をついて、電話に出た。

 すると向こうもどこか疲れたような声音で、同じく振り回されたのであろうことは用意に想像できたのだった。




 あたしは川島に言われた集合場所である祭りの入り口で、皆の到着を待っていた。

 皆とは言っても、連絡がとれたのはまだあたしだけのようなので、他のメンバーも来るのかはかなり怪しい。


「はぁ……」


 あたしは彼の到着を待ちながら、ため息をついた。

 それは今日の祭りへの不安ではない。場所の問題だった。

 この場所に来ると、嫌でも思い出してしまう。

 あたしが彼、桐島恭介と最後に会った場所だからだ。

 この祭りの入り口で、あたしは桐島と待ち合わせをして、そこで事故に遭った。

 彼は何故か屋台の並ぶ祭りの中からではなく、祭りの外から来た。だから彼は一度道路を横断しなければならない。そこで彼は轢かれたのだ。

 そして今のこの状況は、あの時とかなり似ている。

 桐島似の川島恭介。

 場所。

 時間。

 そのほとんどがあの時の状況と似すぎていた。違うのはあたし達の関係のみ。

 だからあたしの足は自然と事故現場の交差点前へと向かっていた。

 もしこの状況が、神様の用意したあの日の再現なら、今度こそ乗り越えて見せよということなのだろう。

 あたしは信号前で立ち止まり、呆然と車が行き交う反対側の歩道を眺める。

 そして――

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