第23話 祭りの事前準備と浴衣
◇
「それで、恭介君は何をやらかしたの?」
「…………」
午後六時。
俺は店の片付けをしながら、望月に尋問されていた。
内容はもちろん先程のギャル二人のことについてだろう。
あれは確かに自分でもどうかしていたように思う。まるでこの喫茶店の変人的な何かに取り憑かれたような感じだ。
俺は何か上手い言い訳がないか考え、そして……諦めた。
「いや、その……実はギャルのお冷やを勝手に飲んじゃって……」
「え?」
「後は相談を無理矢理聞いてもらおうとしたかな、うん」
俺があの二人にしたことをあらかた話すと、望月は俺に話を聞く前と変わらない表情で首を捻っていた。
「ごめん。よく分かんないんだけど……何でお客さんのお冷や飲んだの?」
「むしゃくしゃしてやった。反省はちょっとしている」
「あ、一応してるんだね。もうやっちゃ駄目だよ。ただでさえ客の入りが悪いのに、もっと悪くなるよ」
「面目ない……」
何故か従業員でもないのに、従業員以上に店の心配をしている。
もう望月に店長の肩書きを丸投げしたくなってきた。
そんな気持ちを俺は抑え込み、さっきから疑問に思っていたことを口にする。
「そういえば、何か用だったのか? 集合までにはまだ大分時間あるけど」
集合時間は確か七時だったはずだ。今から待とうと思えばまだ一時間も時間がある。
だが望月は「え?」と返してきた。
「え? ……てお前、え?」
「集合って六時だよね? そうやって昨日椎名先輩からメールが来たんだけど」
そう言って「ほら」とスマホのメッセージアプリを表示させた。
そこには確かに集合時刻が六時と記されている。
「俺は七時と聞かされてたはずなんだけどな……」
俺も確認しようとポケットに手を突っ込むも、俺は口頭で伝えられたので確認のしようがない。
「まあいいか。店も閉めたし、居間の方に行こうぜ。まだ先輩達来てないけど、約束の時間が六時ならもうそろそろ集まってくるだろ」
「そうだね。なら待たせてもらおうかな」
そうして俺達は店内の電気を消して居間へと向かう。
するとそこには、小林以外の全員が既に揃っていた。
「いつの間に集まったんだよ……。つか、居るなら店の片付けくらい手伝ってくれませんかね!」
「それはできないよ川島君! 今からあたし達は乙女の準備があるからね!」
「旅行じゃないんですから……そんなに準備することなんてないんじゃないですか?」
そう言うと椎名はちっち、と舌を鳴らすと指を振った。若干ムカつく。
「川島君は分かってないなぁ。浴衣は結構着るのに時間がかかるんだよ!」
「えっ、結局着るんですか? 昨日は何か流れた感じだったから、てっきり着ないのかと思ってたんですけど」
俺は確認のため、椎名の後ろにいる九頭と御島の方に視線向けると首を振り、次に隣の望月の方を向くと同じく首を振った。
「誰も知らないみたいなんですけど……」
「そりゃあ誰にも言ってないからね。サプラーイズ!」
「おい」
珍しく昨日は話がスムーズに進んでたからおかしいとは思っていたが、やっぱりというかなんというか、俺の知らないところで話は変な方向へと進行していたようだ。
「じゃあ俺はとりあえず自分の部屋に戻ってますよ。着替えたら教えて下さい」
「待たせるのは悪いし。せっかくだから恭介君も着なよ? 一着余るし」
「そうだよ。恭介君、結構似合うと思うよ」
九頭の提案に望月がそれは名案だとばかりに両手を合わせると、便乗してきた。
「いや、俺は良いよ。男の浴衣って地味だし」
男の浴衣といったら、地味な色に柄も何もないようなイメージがある。それだったら別に私服でも良い気がする。
「それは大丈夫だと思う。むしろ悪目立ちすると思うから」
「え?」
御島がいつの間にか取り出した本を読みながら、意味深なことを言い出した。
そしてその言葉を始め、御島以外の全員の目が光った気がした。
その妙な空気に僅かに後退ると、望月に両手を後ろで拘束された。
「あの、望月さん? 何ゆえ私の手を……ていうか何で皆、手をわきわきさせてるんですか!?」
気がつけば、九頭と椎名が手を開いたり閉じたりしながらジリジリとにじり寄ってきた。
「恭介君、もう諦めてよ。あたしだってやりたくないけど、先輩の命令だからさ。だから、後で叩いたりしないでね。あたし悪くないから」
「このクズが! お、おい御島! 本読んでないで助けてくれ!」
「今良いところだから無理。七時までには区切りつけるから待ってて」
「そんなに待てるか! その時にはもう、俺は色々と失って……ひっ!」
助けを求めてる間に目の前を影が覆った。
ギギギとぎこちない動きで顔を上げると、そこには嫌な笑顔で笑った二人が俺を見下ろしていた。
「川島君……」
「恭介君……」
「…………」
俺の頬に嫌な汗が伝う。
このとき俺は、浴衣が余ってるからって聞いたときに何で逃げなかったのかと後悔していた。女の子だけが集められた場で浴衣が余ると言ったら女物の浴衣以外あり得ないだろ。
俺が激しく後悔していると、椎名は腰を下ろして俺に視線を合わせると、肩に手を置いた。
「じゃあ脱ごっか? ね?」
「ね、じゃねーよ! ふざけんな! だいたい着れるわけねーだろ、女物の浴衣なんて」
「大丈夫だよきっと。恭介君結構華奢だし」
「望月、お前まで何言ってんだ! そういうこと言ってんじゃないんだよ」
「覚悟!」
椎名の言ったその言葉を始め、九頭と椎名の手が俺の服を掴む。
「ち、ちょっと待て! 本気かお前ら!」
「あたしが嘘をついたことがあるかい!?」
「なかったね! こういうことで嘘をついたことは確かになかったね!」
「椎名先輩、ホントにやるんですか? 正直恭介君の浴衣姿とか見たくないんですけど」
九頭は若干嫌そうな顔をしながらも、俺の服を脱がそうとする動作は緩めない。
「嫌なら止めろよ! 言ってることとやってることが違うじゃねぇか!」
「わっかんないかな……やめろと言われるとやりたくなるんだよね」
「何だよそれ! あークッソめんどくせぇめんどくせぇ!」
「恭介君、何かキャラ変わってるよ?」
俺はバタバタと身体を振り回すが、望月の拘束がなかなか振りほどけない。さすがソフトボールをやってることだけはあるな。て言ってる場合じゃなかった。
「……なかなかしぶといね」
「椎名先輩、いい加減本気出しませんか? 隠してるんでしょ? まだ何か」
「……気付いていたのかい、あかりん。でも……」
「あかりんて……」
「馬鹿野郎!」
九頭は目を伏せる椎名に……ではなく俺の頬を思いきり叩いた。
「痛って……何で俺なんだよ!」
「椎名ちゃんは、恭介君の浴衣姿が見たくないの!? あたしは見たい!」
「椎名ちゃんて……一応先輩だぞ。つか、さっき見たくないって言ったよね!?」
「あかりん……そう、だよね……。あたし、恭介君の浴衣姿が見たい!」
拳を握って立ち上がって言う椎名に、俺は呆れたような視線を向ける。
「あんたも何言ってんだ」
「ありがとう、あかりん。あたし、目が覚めたよ!」
「礼には及ばないよ椎名ちゃん。だってあたし達は」
そこで言葉を区切ると、二人は顔を見合わして一度頷き。
「「ソウルメイトなんだから!」」
「何だその茶番は!」
訳の分からない茶番に思わず叫ぶ。
もういい加減離して欲しい。
俺が叫びすぎてぐったりしていると、また俺の服を掴んでいた二人の手に力が込もる。
「さあいくよあかりん!」
「任せて椎名ちゃん!」
「え? ちょ、やめて」
またも脱がそうとしてくる二人に俺は必死で抵抗する。
それでも両手が塞がっていることもあり、なかなか抵抗らしいことができない。どうすれば。
「うぃーっす。皆集まって……る、な?」
「「「「あ……」」」」
俺達はピタリと固まり、声の方を一斉に振り向くと、そこにはマジでドン引きしている小林の姿があった。
「何かすまん……ゆっくりしてくれ」
そう言ってまた、外に出ていってしまった。
「お、おおい! ヘルプミィィィィィィィィィィィィッ!」
本日二度目の叫び声が建物内に響き渡った。
もう俺は本当にお婿にいけないかもしれない。




