ある農民の娘とさるお方の会話
初めて手を出すジャンルです。
時代考証とかあまり深く考えずにお読み下さい。
なつは軽い足取りで家へ向かっていた。
今日の町はいつもより活気が良く、日が高い内に野菜が全部売れたのだ。
彼女の家は小さな村の外れにある。
急いで帰れば両親の畑仕事も手伝えるだろう。
「あら、珍しい」
普段は人通りが少ない道の途中で、数人の男が話し込んでいた。
身分の高そうな男性が倒木に腰かけ、家臣らしきお侍が二人、脇に立っている。
なつは関わらないように会釈だけして、少し離れた所を通ろうとした。
しかしその行動も虚しく、座っていた男はなつを呼び止めた。
「そこ行く者、少し宜しいか」
「は、はい……」
戸惑いながら、なつは足を止める。
無礼を働けば、二度と家には帰れないかもしれない。
「な、何のご用でしょうか?」
なつの振り絞る声に、男は小さく「女子か」と呟いた。
見れば男は、笠を深く被り顔を隠している。
恐らく目が見えないのだろう。
「まぁ良い。少し、話に付き合うてくれぬか」
「はい……」
断る事など出来る筈もない。
なつは恐る恐る男に近寄った。
家臣らしき二人の視線を感じながら、彼女は地に膝をつく。
一体何を言われるのかと身構えていると、男は深い溜め息を吐いた。
「……時に娘よ」
「は、はい」
「もし、親しき者が二人、争い始めたとしたら、そなたは如何な理由を以て片方に付く?」
「し、親しき者、ですか」
咄嗟に両親が喧嘩した時の事を思い出し、なつは小さく答える。
「どちらにも付かず、仲直りするよう働くか、見守ります」
「……では仲直りは不可能とし、必ずどちらかに付かねばならぬとしたら?」
「それは……」
男は急かす事もなく、彼女の言葉を待った。
なつは両親ではなく、今度は友人を思い浮かべた。
「……事情にもよりますが、友人なら、味方の少ない方に付きます」
「それは何故か」
表情は見えないが、なつは男の声に熱が入ったのを感じた。
「味方が多い友人に付いてしまったら、もう片方の友人は、本当に一人ぼっちになってしまうかもしれません。……それは、悲しい事です」
「……成る程」
男は「やはり……」と呟いた後、何かを考え込んでしまった。
「良い話を聞かせて貰った。礼を言う。……もう行って良いぞ」
「は、はい。ありがとうございます。……失礼します」
なつは頭を深々と下げ、立ち上がる。
一瞬だけ見えた男の口元は笑っているように見えた。
結局男の話が何だったのか、彼は何者だったのか、ただの農民であるなつには知る由もない。
ただ無事に帰れる喜びを胸に、彼女は鼻歌を歌いながら帰路についた。
その後、後に関ヶ原の戦いと呼ばれる合戦にて、勝つ見込みのない石田三成に加担した大谷吉継が敗北、自害した事など、なつの知った事では無かった。
元は一服一銭の娘が主人公でした。
しかし一服一銭は室町時代……まだ無い時代のようだったので、急遽農民の娘になりました。
大谷吉継好きです。