stage1-5 決意のWizard
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▶️氷狩映
逢沢雅影
渇川ツバメ
油藤智歌
九野涙
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2252年7月22日木曜日。午後6時数分前。
悪趣味なほど黄金に輝く大きな屋敷を一望しながら、怪盗団KETOSのリーダー、ゼロは右手の愛銃をくるりと一回転させた。
「立派なおうちだね~。敷地面積だけでいくらになるんだろこれ」
「この辺りは土地の値段も高いからね。さすがは資産家兼実業家、大濠善一郎」
隣のクラウンが解説すると、後ろに立っていたカグヤが毒づいた。
「こんな家のなにがいいんだか、私には分からないな。目がチカチカする」
「それは言えてる。俺もこんな家には住みたくないね」
「じゃあなんで立派だなんて感心したんだ」
「それはこれだよ~」
人差し指と親指をくっつけて、手の甲を地面に向ける。そのハンドサインを見たカグヤが大きくため息を吐き出した。
その隣で、ファルコがキョロキョロと周囲を気にしている。
「どうしたのファルコちゃん?」
クラウンが訊ねる。ファルコが不安げな瞳を上げた。
「ルイルイがまだ来てないよ……先に行っててって言ったのに」
「……あいつが来るのか?」
カグヤが眉をしかめた。鋭い視線を向けられたクラウンは、静かに首を横に振った。
「ううん、涙ちゃんは来ないよ……もう会うこともない」
「え……どうして?」
そうファルコが問うたとき、ピピピと電子音がした。ゼロの腕時計が十九時を報せたのだ。
「さ、時間だ。お宝いただきにいきますか」
「……本当にこの作戦でいくのか?」
クラウンが難色を見せる。
トーゼン、とだけ応え、ビル屋上のフェンスに寄りかかって紫色の愛銃【BA-CUNE】を黄金の屋敷に向ける。
狙うは三階の東の角部屋、美術品保管室。玄関から入れば一番遠く、侵入にも脱出にも時間がかかる。怪盗を迎え撃つにはうってつけの部屋だろう。
だから正面突破はしない。裏側から突破する。
「デッドエンドシュート」
呟き、引き金を引く。銃口に溜まっていた膨大な紫色のエネルギーが一つの弾丸となり、まっすぐに角部屋へ飛んでいった。
巨大なエネルギー弾が屋敷に着弾する。ドッゴーン、という大きな破壊音が響き、キラキラ輝く壁が崩れ落ちる。煙が晴れたとき見えたのは、真っ赤なカーペットに腰を抜かして倒れ込む、小太りの男だった。
「なっ、何事だ!? 何が起きた!?」
「やっほー大濠ちゃん。直接会うのは初めてだよね。ケトスでーす」
フェンスを飛び越え、破壊した壁から美術品保管室に乗り込む。続けて三人の仲間が入ってくると、大濠は這うようにして美術品ケースの裏に隠れた。
美術品ケースの中に入っていたのは、表面にノイズを走らせた無色透明な氷の塊だった。あれこそがお目当てのレリックアイテム【絶対氷塊】に違いなかった。
「お、やっぱりここにあるじゃん」
「予想通りだな」
ゼロとカグヤが一歩近づく。すると今までずっと怯むばかりだった大濠が、ケースを開けて絶対氷塊をつかみ取った。
「こ、これは渡すものか。お前らみたいな盗っ人に!」
「おいおい、自分だって違法ルートで手に入れたくせに、ずいぶんな言い草だな」
「うるさい、黙れ!」
そのとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「旦那様!」「大丈夫ですか!」
ぞろぞろとなだれ込んできたのは、この屋敷の使用人らしき男たちだった。ゼロたちを見て誰もが敵意を露にする。
「お前たち、こいつを捕えろ! 私は特殊財産を持って逃げる!」
「御意!」
一番背の高い男が返事をした。その直後、大濠が脱兎のごとく部屋を飛び出していく。
「あ、待て~!」
追いかけようとしたファルコの行く手に、先ほどの長身の使用人が立ち塞がる。スーツの上からでもわかるほど筋肉質で、ファルコとの体格差は計り知れない。
「ここは通さんぞ、チビ」
「誰がチビだぁぁぁ!!」
ファルコが拳を振りかぶる。男は余裕綽々に片手の平をつき出す。
手の平と拳がぶつかる。次の瞬間、男の身体が大きく後方に吹き飛んだ。
廊下の壁に激突した男は気を失って倒れた。それを見た他の使用人たちがざわつき始める。
「よっわ。見かけ倒しにもほどがあるでしょ」
「いや、たぶんファルコの攻撃力が異常なんだよ」
言いながらクラウンは両手に剣を構えた。真っ赤な宝石の剣【ドロル・カロル】を右手に、漆黒の宝石の剣【ブラックコメット】を左手に持ち、残る使用人たちに言葉を投げかける。
「俺たちは君たちと戦う意思はない。なるべく傷つけたくもない。大人しく道を開けてくれないか」
しかし使用人たちの態度に変化はない。あくまで主人の命令を優先するようだった。
「……残念だよ」
その言葉を合図にするかのように、四人が一斉に駆け出した。
身構える使用人たちだが遅い。
「おりゃー」
「ワチャー!」
乱闘、とも呼べないほど一瞬だった。四人の一方的な攻撃が使用人たちを伸びさせる。筋肉はあったが戦闘は不馴れだったらしい。
「なーんか手応えないなー。ラウンド2ないの?」
「そんなこと言ってる場合か。やつを追うぞ」
カグヤが廊下へ出る。角部屋なので廊下は一方向にしか伸びていない。
「行くぞ」
「はいはーい」
カグヤに続いてゼロたち三人も廊下を駆ける。金の燭台に金のシャンデリア、どこもかしこも金ぴかで嫌気がさしてくるが、唯一床だけは真っ赤な絨毯がしかれていた。おかげで大濠の足跡がバッチリだ。
階段で一階まで下りたところで、ようやく大濠の姿をとらえることができた。
「みぃつけた!」
叫ぶと大濠がこちらへ振り返る。まだ距離はあるが、走力差を考えればすぐに詰められる距離だ。
しかし大濠はニヤリと笑うと、壁につけてあったレバーを力いっぱい下ろした。
「死ね!!」
「は?」
ゼロたちの頭上でガチャリと音がした。見上げれば天井が開き、中からトゲだらけの天井が降ってこようとしていた。
「あーなるほど、こういうタイプか」
「みんな、下がって」
クラウンが右手の剣を身体の左側に構える。一拍おいて、刀身が燃え盛る炎に包まれた。
「コールスフランマ!」
叫び、燃える剣を頭上に振り抜いた。落ちてきたトゲ天井を斬り裂く──というより破壊する。バラバラに崩れたトゲ天井は地面に落ちる前に全て粒子と化して消滅した。
「さっすがクラウン」
肩をポンと叩き、大濠に向かって全速力。あわあわしながら玄関ホールまで逃げた大濠の頭上を飛び越すと、大きな玄関扉の前で通せんぼをしてみせる。
「はーい捕まえた。ゲームオーバー。おとなしくそいつを渡しな」
後からやって来た三人で大濠の四方を取り囲む。もうどこにも逃げ場はない。
「……ふふふ、はははは、はっはっはっは!!」
絶体絶命だというのに大濠は突如として笑い出した。カグヤが露骨に嫌な顔をする。
「……何? 気でも触れた?」
「はっはっはっは!! これで私を追い詰めたつもりか!! まだあるんだよ、奥の手が!!!」
「奥の手……?」
大濠は右手に握った絶対氷塊を高々と掲げると、左手でメニュー画面を開いた。
その時点で、その場にいる全員が大濠が何をしようとしているのかを悟った。
一番に声をあげたのはクラウンだった。
「やめろ!! そんなことをしたらお前は……」
「アイテムホルダーに入れれば手出しはできまい!! お前たちに特殊財産は渡さん!!」
それは、特殊財産管理法で禁止されている行為。そして一般的には知られていないが、自らの命を消し去る危険な行為でもある。
絶対氷塊が大濠のディスプレイに吸い込まれていく。完全に飲み込んだディスプレイは自動的に消滅し、勝ち誇った顔の大濠だけが残る。
「ははははは…………これで私の勝ちだ!! お前たちはなにもできない!! 私の勝ちっ……勝ち、かち、かちかちかちかちカチカチカチカチカチカチカ」
突然、大濠が壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返し始めた。発語だけではない。視点も合わず、身体もガクガクと震え始めている。
「まずい……」
クラウンが呟いた。その直後。
大濠の身体が大量のノイズに包まれた。たちまち大濠の姿は見えなくなる。彼を包むノイズはだんだんと形と大きさを変え、巨大化していく。
てっぺんがシャンデリアにぶつかった。バランスを崩したシャンデリアが地面に落ちて崩壊する。
形を変えていたノイズが晴れる。中が見えたとき、そこにもう大濠の姿はなかった。
上半身は鎧を身に付け、槍と盾を構えた男。下半身は双頭馬。そして全身が青い氷でできている。
「アイスバロン……!」
ゼロが呟くのと同時、ゲームモンスター化した大濠──否、アイスバロンが咆哮を上げた。その豪腕で大きな槍を振り回す。
「危ない!」
クラウンがファルコを抱きかかえ飛び退った。氷の槍はファルコがいた場所の真後ろの壁を破壊する。
「まずい、街に逃げるぞ!」
クラウンが叫ぶが遅かった。アイスバロンは前足四本、後ろ足二本、計六つの氷の蹄を鳴らし、破壊した壁の穴から外へと脱走した。
追いかけてゼロたちも外へ出る。公道を横切って走るアイスバロンに、あちこちで悲鳴が上がっていた。
「追うぞ!」
言うが早いかカグヤが先頭切って駆け出す。しかしまっすぐ北へ向かうアイスバロンとの距離はなかなか縮まらない。
「まずいぞクラウン! このままじゃ東京駅に突っ込む!」
「そんな……!」
「私が止める!!」
ファルコが急激に速度を上げた。四人の中から頭ひとつ抜きん出ると、少しずつ標的との距離を縮めていく。しかしファルコがアイスバロンに追いつくより、アイスバロンが東京駅に衝突する方が早いだろう。
「まぁぁぁにぃぃぃあぁぁぁえぇぇぇぇぇ!!」
ファルコの絶叫がこだまする。しかしどれだけ声を上げようが、絶対的な距離の差は変わらない。
万事休すか。そう思われたとき、東京駅の前で何かが橙色に光った。
「なんだ……?」
カグヤが囁く。次の瞬間、光った場所で大きな炎が弾けた。
花火ではないのは明らかだ。突如現れた謎の炎はアイスバロンの足に急ブレーキをかけさせ、東京駅への衝突は回避された。
「まぁぁぁぁにあったぁぁぁぁぁ!!!」
高くジャンプしたファルコがアイスバロンの顔面に渾身の拳を見舞った。頬の氷が散り、パラパラと宙に舞う。
「今だ! 畳み掛けろ!!」
ゼロの掛け声で三人それぞれが渾身の攻撃を叩き込む。アイスバロンが悲鳴を上げた。
東京駅前に辿り着いた四人は、まず何より先に謎の炎が現れた場所を見た。そこにいたのは、夜空色のドレスに身を包み、魔法の杖を持った少女。
「あつ、あっつ! これ火力おかしくないですか?」
九野涙──否、怪盗セブンだ。自分で出した炎に熱がっている。
「ル……セブンちゃん遅いよ~!!」
「ごめんねファルコちゃん。ちょっと色々あって……」
「セブンちゃん!」
クラウンが声をかけた。その瞳は、どうしてと問いかけていた。
「……ごめんなさい。後でちゃんと話しますから、今はあれを」
セブンが視線を左へ向ける。そこではダメージから復活したアイスバロンが、怪盗たちを見下ろして吠えていた。
「そだね。じゃ、一気に決めますか」
ゼロは左手にもう一つの愛銃──若草色の【ZU-CUNE】を構えると、それをアイスバロンに向けた。
銃口に若草色のエネルギーが集約されていく。限界まで溜まったとき、隣に立つ姿がひとつ。セブンだ。
彼女は魔法の杖──チョー・E・レスポンダーを両手で持つと、敵から目をそらさず口ずさむ。
「レスポンド! プリーズ・バーニ!」
声に呼応して、レスポンダーの先端に浮かぶ水晶が紅に染まる。セブンは続けて詠唱する。
「マジックストライク!!」
得物を引いて射出体勢に入る。勢いよく突き出されるのに合わせて、ゼロも愛銃の引き金を引いた。
「クルセイドシュート」
膨大なエネルギーの弾丸と、灼熱の烈火が同時に撃ち出された。二つは寸分の狂いもなく標的の胴体ど真ん中に直撃した。わずかな拮抗のあと、エネルギー弾と烈火が氷の身体を貫いて風穴を開ける。ぽっかり空いた丸い穴の向こうでは、星空が瞬いている。
アイスバロンの断末魔が響く。全身の氷がひび割れ、溶け、崩れていくその姿を後ろに、ゼロは愛銃の銃口に息を吹きかけた。
「攻略完了っと」
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「ルイルイ大活躍だよ~!! かっこよかった~!!」
アイスバロンからドロップしたレリックアイテム、絶対氷塊を抱えながらツバメが跳び跳ねる。キラキラしたその瞳は一途に涙を称えている。
「ううん、私の力じゃないよ。この武器が強かっただけで……」
「そうだな。お前の力じゃない」
即座に肯定で返した智歌は、公園を囲む柵に寄りかかる。
「どうしてお前があそこにいた? なぜ怪盗の格好をしていた?」
「それは俺も訊きたいかな」
智歌に同調したのは雅影だ。その目元は珍しくきつい。
「なんで花切に帰らなかったの? ここは危険だって言ったよね」
「……帰ろうと思いました。実際、新幹線乗り場の前まで行きましたし。でも帰れなかった。私が帰ったら、雅影さんが危なくなる」
驚いたように雅影が目を見開いた。
「東京駅で偶然沖丸さんと会ったんです。聞きました。トラベラーのこととか色々。このまま帰ったら私、間違いなくバチが当たる。助けてもらった恩を仇で返したくはないんです」
「涙ちゃん……」
「それに私も、モンスターになって消滅した人々を助けたい」
涙は柵に寄りかかったままの智歌に向き直った。
「私は怪盗をする覚悟ができてます。他の誰にも言いませんし、尻尾もつかませません。私を信じてください」
しばらく智歌は黙ったままだった。雅影もツバメも、彼女の反応を固唾を飲んで見守っている。
「……勝手にしろ」
それだけ告げると、智歌は夜道を一人歩き出して行ってしまった。
「……これって、認めてくれたんですかね」
「さあ、どうだろね? ただ、否定されなかっただけいいんじゃない?」
「そうですね、そう考えることにします。……雅影さん」
涙は今度は雅影に向き直る。
「私、怪盗団KETOSに入ります。いいですよね」
「……ダメって言ってもやるんだろう? だったら止めても意味ないか」
苦笑を浮かべる雅影。それを見て、涙が満面の笑みを浮かべた。
「はい! 意味ないです!」
「これからよろしくねルイルイ~!」
ツバメが涙に抱きつく。じゃれる女子二人を眺めて、雅影が困ったように、しかし少しだけ嬉しそうにこめかみを掻いた。
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「やあ、うまくいったみたいだね」
東雲探偵事務所の扉を開けた途端、そんな声が映を出迎えた。声の主はもちろん、チェアに腰かけた東雲沖丸である。
「おかげさまで。そっちこそナナちゃんの引き留めご苦労さん。あのレスポンダーは智歌に貸してたやつか?」
「ああ。昨日のうちに返してもらって正解だったよ。あれがなければ今ごろ東京駅は木っ端微塵だろうからね。一度別れた僕を追いかけて、怪盗やると宣言した涙くんにも感謝さ」
「やっぱ沖丸に頼んでよかった。エレドラゴンを内包したあの子を今帰すわけにはいかないからね。あの力は今後KETOSにも必要になる」
「そのために、大濠をモンスター化させたのかい?」
「……なんの話かな?」
目を合わせず、チェアの隣のテーブルに腰かける。
「アイスバロンを倒させることで涙くんの退路を完璧に断ちつつ、彼女の怪盗入りを智歌くんや雅影くんに納得させる。全部君のシナリオのように思えるんだがね」
「へー。そう思う根拠は?」
「君ならそのくらいやってのけるだろう。たとえ、モンスター化した大濠が助からないとしても」
「なぁるほどね」
肯定も否定もせず、映は足を組んだ。右膝の上で両手の指を組み、沖丸に訊き返す。
「もし仮にその通りだとして、どうする? 俺を軽蔑する?」
「まさか。そんなわけないだろう」
沖丸が立ち上がって笑う。遠くを見つめながら告げる。
「僕はなんとしても彼女を取り戻す。取り戻さなくちゃならない。そのためには手段は選ばないつもりさ…………君だってそうだろう?」
その問いに、映は応えなかった。
その代わりに不適な笑みを浮かべた。
差し込む月明かりが、その笑みを不気味に照らし上げた。
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