Tutorial
「ゲームってね、公平に見えて、ちっとも公平じゃないんだよ?」
橙色の右目と、翠色の左目をした少女はそう言った。
「RPGなんかだとさ、ボスとかって倒すまで何度でも挑めるじゃん。主人公は何回負けてもやり直せるのに、ボスは一回負けたらおしまい。これはフェアじゃないと私は思うんだ」
手元のコントローラーと連動して、ディスプレイの中の勇者が動く。
「あとレベル差。やる気とか根気とか関係なく、数値で全てが決まっちゃうでしょ? 魔王がどんな軍団作っても、レベル十億の勇者が一人いたら勝てっこないよ」
勇者が9999のダメージを叩き出した。立派な角が生えた黒い魔王は、ウィンドウに長い断末魔を残して粒子になって消えた。
ディスプレイに浮かぶGAME CLEARの文字。勇者にはほんのわずかの経験値が入った。
「勝てっこないのに、魔王側には逃げるコマンドが存在しない。逃げるコマンドがあるのはプレイヤーだけだもん。ちょっと可哀想にも思えない?」
問われた。その言葉に、少年は返事をしなかった。
少女は振り返って、少年の顔を見る。
「逃げるが勝ちってことも、あるのにね」
2240年。
12月25日。
雷雨の夜。地球は電脳空間に呑まれた。