召喚 6
シアンは最初に行哉の巣箱のある大木の周りを回った。立派な大木には行哉の家以外、巣箱は掛かっていなかった。
「俺の他に、誰も住んでないのか」
「この保護区に住んでるのが、今のところトリさんだけですから☆」
納得すると同時に、しばらく話し相手がシアンだけだと気づいて、ほんのりとした不安が立ちこめる。
(……逆に考えれば、こいつがいないと一人きりか)
シアンの言動に神経をすり減らすのと、スマホも無い状態で一人きりで過ごすのはどちらがマシなのだろう。
「これで一周しましたけど、他にどこか行きたいところはありますか?」
シアンは巣箱の屋根の上に着地した。木陰を抜けていく風が心地よい。
「どこって言われてもなあ。何があるのか知らないし。メシを探す必要も無いし。お勧め観光ポイントとか無いのか?」
「無いですね☆」
シアンの回答は明快だ。元々案内する気は無いのかもしれない。
「じゃあ……あれだ、クエストとか無いのか」
「ゲームではないので、そういうのもないですね☆」
ぱたぱたと手を振って、シアン。行哉を見る目が、無茶振りする客を宥める店員のそれだ。
「いや、ゲームだろ! ガチャはあったじゃねえか!」
「ガチャとクエストは違うと思うのです☆」
「そういう問題じゃねえ。つか、呼びつけておいて用事がねえとか、どういうことなんだよ!」
「トリさんはたくましく育ってくれれば、何も言うことは無いのです☆」
「どこの親バカだよ。ああもう、そういうことなら俺は寝る!」
幸せに満ちた藁山に帰ろうとする行哉を、シアンが抱きすくめて止める。
「困りましたねえ☆ じゃあトリさん、飛ぶ練習でもしましょう☆」
「やらねえ。寝る」
巣に戻ろうと、行哉はじたばたともがく。細腕の割に、シアンは行哉をがっちり捉えて放さない。
「飛べた方がいいですよー☆ 私に落とされる心配も無くなりますよー☆」
「……まだ落とす気だったんだな?」
一瞬、心が揺れた。飛べれば落とされる心配は無いが、一度傾いた機嫌はそのくらいでは直らない。まだ一ヶ月もあるんだし、引きこもってても死なないのなら、一ヶ月後にたくましく育った雛が勝手に練習すればいい。気の迷いを振り払って、全力で巣に戻ることに専念する。
「妖精ジョークですよう☆ えーと、ほら、召喚されたときに飛べないとかっこよくないですよ!」
「飛べもしない雛を召喚する奴なんていねえだろ」
「普通はそうなんですけどね☆ 今は召喚魔法が発動されても、トリさんくらいしか召喚対象がいないんですよ☆」
「んなわけあるか。まだ幻獣は全滅してないだろ」
「してませんけど、しばらく召喚されていなかったものですから、みなさんすっかりやる気をなくしてしまっていて、誰も召喚に応じなくなっちゃったんですよね☆」
「……どういうことだ?」
もがくのを止めると、シアンは手を放した。元の位置に座り直すと、ぽんぽんと隣の空間を叩いて、笑顔を向けてくる。一瞬、この隙に巣に戻ってやろうかとも考えたが、話の先が気になるので大人しくシアンの隣に収まった。
「幻獣界が、人間界と密接な関係にあることは、わかっていただいてるということでお話ししますね☆」
シアンが語ったのは、行哉が生まれ育ったのとは別の人間界の話だった。その世界は召喚術の栄えた世界で、日常生活の一部を担っていたと言っても過言ではなかった。やがて始まった世界を二分する戦争でも召喚術は活用され、戦争の終焉と共に衰退した。
「しばらくは召喚術そのものが忘れられていたみたいです☆ 長い年月が経って、ようやく召喚術が復活してきたんですけど」
「その頃には幻獣の方が召喚されることを忘れていたってか?」
「忘れることはないのですけどね☆ 多くの幻獣が召喚に応えなくなってしまったのですよ☆」
「理由は?」
「意見をまとめると『めんどくさくなった』から、らしいです☆」
ようやく召喚されたことに歓喜する幻獣もいたのだが、召喚に応じない幻獣の代わりに召喚に応じていった結果、やる気のある幻獣はあっという間に消耗し、消滅してしまったそうだ。
行哉は知らず、自分が遠い目をしていたことに気づいた。
「つまり、今、幻獣界に残っているのはやる気の無い連中ばっかりって事か……?」
「簡潔に言うと、そうなります☆」
「遠回しに言っても同じだからな? つか、俺はそんなやる気のない連中のために喚ばれたって事か……?」
「そこはほら、新しく生まれる命のためにってことで☆」
「生まれてねえだろ。だから俺を喚んだんだろ。だいたい、やる気の無い連中ばっかり残ったから、生まれてくるものも生まれなくなっちまったんじゃねえの」
「わあ、トリさん、長老様と同じこと言ってます☆」
すごいです、と感激した様子で拍手までしてくるが、行哉の神経を逆なでしただけだった。
「同じこと思ったんなら、人を呼びつける前にすることがあんだろ! 俺は――!」
不意に、視界がブレた。
(え?)
電波が途切れかけたテレビみたいに、目の前のシアンが歪んで、声が途切れ途切れになる。
「トリさ――!」
歪んだ視界でも、シアンがびっくりしているのはわかった。何が起きたのか、問いかけようとして、行哉の視界はまたブラックアウトした。
お読みくださってありがとうございます。
サブタイトルの「召喚」の有効範囲が広すぎて他のタイトルが浮かばなく……そのうち直すかも(汗)




