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召喚 3

「つーか、これ邪魔だぞ」


 部屋のど真ん中に残された衣装ダンスは、鳥型の行哉を十羽積み上げても上まで届かないほど大きい。丈夫で長持ちというシアンの言葉からしても、ずっしりと重たそうだ。

 考えてみたら、開き戸も引き出しも今の行哉では開けられないので、本当にただの飾りにしかならない代物だった。初回特典のガチャで本当に良い物なんて出るわけは無かったんだと、こんな所で実感するとは思わなかった。


「そうですねえ、じゃあ、あっちの隅に置きましょうか☆」

「いいけど、こんなでかいの動かせないだろ」


 人間の姿でも一人で動かせるかは、微妙だ。

 が、シアンは即答した。


「動かせますよう。簡単です☆」


 シアンはタンスの横をぺしぺしと二回叩いた。すると、何故かタンスがぼんやり光って数センチほど宙に浮いた。


「お?」

「こうやれば、簡単に動かせるんですよー。職人技が効いてますねー☆」

「……職人技?」


 タップ二回でアイテム移動といえばスマホゲームの基本操作の一つだ。プログラムのことを言っているのかと思ったが、木製タンスとプログラムの関係が不明だ。

 怪訝そうな行哉をのぞき込んで、シアンはくすりと笑う。


「職人技ですよ。トリさんにわかりやすい『設定』なんですから☆」

「……つーことは、やっぱこの世界は、あのゲームの世界なんだな?」


 行哉は目を細めた。シアンは貼り付けたような笑みを浮かべたままだ。


「そうでもあり、そうでもなく、どっちとも言えるし、どっちとも言えません☆」

「なんなんだよ、それは」


 一歩詰め寄ると、シアンは踊るように一歩下がる。


「ここはそういう場所なんですよ☆ トリさんの世界と私たちの世界が両方混じってて、どちらにも属さない区域なんです☆」

「両方……?」


 ますます訳がわからなくなってきた。


「はい、両方です☆ 詳しくお話しするので、その前にこのタンス、どこに置きましょうか?」


 衣装ダンスはシアンの横で浮かんだままだ。


「あ、俺にやらせてくれ」

「どうぞ☆」


 行哉が軽く突いただけで、衣装ダンスはするすると動いて部屋の隅に収まった。ホッケー気分でタンスを部屋の隅に突き飛ばす。壁に激突する様子もなく、これは遊べるなと心の隅に留め置いた。最後に設置を確定するときには、もう一度叩くだけで、これもスマホゲームと同じだ。


「トリさん、ついでにそれをこっちに持ってきてくれませんか☆」


 シアンが指したのは、傍に積んである藁山だ。座って話そうと言うことらしい。大きいので、シアンと二人で乗っても余裕がある。


(あ、思い出した)


 この部屋の様子もゲーム画面で見たままだった。さすがにメニューボタンはないようだ。

 藁山も隅を二回叩くと動かせるようになった。部屋の真ん中に持っていって飛び込むようにして乗っかると、予想外にふんわりと受け止められた。


「割といいな、これ」


 藁をふかふかしながら、行哉。藁の上に座ったことなど無かったが、こんなに心安らぐアイテムだとは思わなかった。このまま眠りたいくらいである。


「寝ちゃダメですよ、トリさん☆」

「寝てねえよ」

「ほんとですか? 今ちょっぴり瞼が閉じかけてましたよ☆」

「気のせいだ。それより話の続き」

「はいはい。ではそういうことで、さきほども言ったとおり、ここはトリさんの世界と私たちの世界が混ざっている区域です☆ トリさんの認識では、『エメラルド・ガーデン』というゲームですが、私たちの認識では、召喚幼体保護区域です☆」

「保護区域……?」

「はい☆ 実は今、私たちの世界――トリさんの言葉で言うと幻獣界ですね☆――は存亡の危機って奴に直面しちゃってまして☆」

「ほう」


 ゲームの設定ではよくある話だ。


「魔王でも出てきたのか?」

「違いますぅ☆ 何故か分からないんでけど、新しい幻獣が全然生まれなくなってしまってるんです☆ 残っている幻獣も半分以上休眠しているので、このままだといずれ幻獣界は消滅してしまうらしいです☆」

「……そんな明るく言う話じゃないよな?」

「暗く話しても状況は変わりませんから☆」

「話し方の問題じゃねえ。なんで生まれなくなったんだ……って、理由が分からないんだったな」

「そうなんです☆ 理由を解明するのにどのくらい掛かるか分かりませんから、当面の打開策としまして、無理矢理にでも生まれてもらおうと言うことになりまして☆」

「え、無理矢理って……」


 十八禁な想像に踏み入れそうになった行哉は、手前で踏みとどまった。そもそも幻獣が人間と同じ過程で生まれるとは限らない。


「えー、あれだ、ほら。その……幻獣ってどうやって生まれるんだ?」

「時が満ちたら、自然に生まれます☆」


 気まずい思いをしながら訊いたのに、シアンの答えはあっさりと曖昧だ。

 詳しく問い詰めれば、種族ごとに生まれる場所はだいたい決まっているが、交配の結果で生まれるのではなく、生命エネルギーのようなものが一定値になると、新しい幻獣として誕生するということだった。


「それにしてもなんだか不自然ですねー……トリさん、何を考えてたんですか? あれ、そういえば人間ってどうやって生まれるんでしたっけ?」

「キニスルナ」

お読みくださってありがとうございます。

シアンがいるとますます話が進まないんですよ……

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