召喚 2
「そんなに怒らないでくださいよぅ。ちょっとしたお茶目じゃないですか☆」
「何がお茶目だ。死にかけたんだぞ!」
再び、行哉はシアンに抱きかかえられて飛行中だった。頭上から何度も謝罪されているのだが、本気で謝っているようには聞こえず、行哉はむくれ続けている。
「手加減はしてあるから死んだりしませんよ☆」
「おい」
「冗談ですよー。妖精ジョークってやつです☆」
「そんなの聞いたことねーぞ」
「日頃、妖精に会わないからじゃないですかー☆」
シアンの言うことにも一理ある。行哉は返す言葉を見つけられず、黙り込んだ。
「あ、見えてきましたよ。トリさんのおうち☆」
前方に見えてきたのは、ぽかぽかと音が聞こえそうな日当たりのいい丘だった。頂上に、大きな木が一本立っている。何の木かは分からないが、大きく広げた枝や太い幹からして、樹齢は二桁以上四桁未満というところか。茂った葉の隙間から、赤い三角屋根の巣箱がのぞいている。
「おうちって、まさかアレか……?」
「最初からそう言ってるじゃないですかー☆」
シアンは嘘をついていない。単に言い足りないだけだ。
近づくと、思ったより大きい巣箱だった。この世界は何もかもが大きいのだろうか。
(……まてよ。これって、俺が縮んでるんじゃないのか?)
シアンの言う通りなら、今自分はスマホゲームで作成した召喚獣の姿になっている。あれが手のひらサイズだとしたら、ドラゴンも犬も美女も巨大なのではなく、通常サイズだったのかもしれない。
(ドラゴンの通常サイズってのはよくわからんけどな)
こればっかりは想像値だ。
「はい、到着~」
丸い入り口の縁を掴んで頭を突っ込んでみる。中は真っ暗だった。
「暗いな」
「中で明かりをつければいいんですよ☆」
シアンは当然のように言って、行哉の背中を押した。
「うぉっ!?」
外から見た限りでは、入り口から床までそれなりの高さがあったはずだ。旨く着地しても足を痛めるかもしれない。行哉は覚悟を決めて、衝撃に備えた。
ぽとん。
とっさに両手を、いや羽を広げたおかげか、華麗にとは行かないが、ダメージを負わずに床の上に降り立った。
「そういや今、俺は鳥だった……」
「そうですよー、ちゃんと気をつけてくださいね☆」
「気をつけるのはお前だろ!」
「はいはーい、おうちに到着したんだからイヤなことは忘れてくつろぎましょうよ☆」
「だから原因がお前なんだって!」
「明かりはどこかなー、これかなー☆」
行哉の文句を右から左に聞き流して、シアンは明かりを探す。そのうちに、ふわっと壁全体が光った。ただの板壁にしか見えないが、明かりが仕込まれているのだろうか。
(つか、スイッチどこだよ……?)
壁をつつき回す行哉の横で、シアンがあからさまにがっかりした。
「殺風景ですねー……」
殺風景どころか、壁と床しかない。藁山が部屋の隅に積んであるが、部屋の良さを引き立てる気は無さそうだ。
行哉は首を傾げた。この景色、どこかで見たような気がする。
「あのな、殺風景なのは俺のせいじゃねえだろ」
咎めるように見られても、行哉は何もできない。たった今引っ越してきたばかりのような状態だというのに、何を期待しているのか。
「そうなんですけどぉ……あ、トリさんにはアレがあるじゃないですか!」
シアンの頭上に豆電球が光ったのが見えた、ような気がした。
「アレ?」
「はい、アレですよ。うーんと、この辺が良いかな☆」
シアンが傍の壁を撫でると、撫でられた部分が光った。はいどうぞと場所を譲られたので見てみると、『インテリアガチャ』という文字が浮き出ていた。
「……マジか」
「最初だけの特典なんですよ☆」
間違いなく、ここは、あのスマホゲームの世界のようだ。しかもガチャまである異世界。
「いくら異世界だからってガチャはないだろ……いや、異世界だから何でもありなのか……?」
「どうしたんですかー。思い切ってどーんとやっちゃってください☆」
シアンが拳を握って見守っている。ゲームと違って、スキップはできないらしい。このまま何もしないでいると、シアンにどーんと突き飛ばされそうだ。
「念のために訊くが、このボタンを触るとどうなるんだ?」
「ガチャが始まります☆」
「始まると、どうなるんだって訊いてるんだよ」
「えーと、『お部屋を彩る素敵なインテリアの数々が当たる、かも?』☆」
棒読みだった。どうやらシアンも何が起きるのかよく知らないようだ。
行哉は諦めて羽を伸ばし、光っている文字に触れた。
ぴろーん、と間の抜けた音が響いて、壁から光が飛び出した。光は床の上に輪を描き、内側で光の粒子が乱舞している。粒子は徐々に一つにまとまり、ぴろーんという間の抜けた音と共に光は消えた。
「おおおっ、良い物が出ましたね☆」
後に残った物を見て、シアンが興奮した様子で飛び回る。
「へー……良い物なのか」
シアンは飛び返ってきて頷いた。
「良いですよ、フェルンの大木から作られてるんですから、丈夫で長持ち。その上、好い香りがするんです☆」
「ふーん」
言われてみれば、微かに爽やかな芳香が漂っている。嫌いな香りではない。
「で、これは何なんだ?」
「トリさん、衣装ダンスを知らないんですか?」
意外そうに聞きかえされて、行哉はシアンのまん丸に見開いた目をつついてやろうかと思った。段々、思考が鳥化している。
「知っとるわっ、それくらい! じゃあ聞くけどな、鳥の俺がどんな衣装をタンスにしまうっていうんだよ!」
「それはほら……ええっとー……」
シアンは衣装ダンスと行哉を交互に眺めて、最後に満面の笑顔を浮かべた。
「きっとそのうち羽が生え替わりますよ☆」
「生え替わるのと着替えるのは違うだろ」
「トリさん、細かいですぅ☆」
「細かくねえ」
「ううーん……もう、しょうがないですねえ☆」
最後の手段ですと、シアンは衣装ダンスをびしっと指さした。
「こういうのは、気分の問題なんですよ☆」
お読みくださいましてありがとうございます。
少し書きためてあったのでもっと早く投稿できる予定だったんですが……今回もまた、例に漏れずあらすじになかなか追いつけないですよ!




