召喚 1
「ようやく来たか、あたらしきもの」
声が上から降ってきたので上を向いたら、ドラゴンがいた。
(なんだこれ……作り物か)
大きすぎて全体が見えないが、映画やアニメで見たような典型的なドラゴンだ。こちらを見下ろして来る金色の目はつぶらで優しく、可愛いと言ってもいいかもしれない。黒銀の鱗に覆われた身体が呼吸に合わせてゆっくり隆起する様は、本当によく作り込まれていると思う。
「お。そのかたち、ウチのもんだな」
(でけぇワンコ……)
右を向いたら、今度は白銀の毛皮の巨大な犬がいた。さすがにドラゴンよりは遥かに小さいが、普通の犬の百倍以上はある。牙を剥いているのは威嚇ではなく、笑っているのだと思いたい。
「おぬし、名は?」
左を向いたら、金髪碧眼の美女が椅子に腰掛けていた。白のノースリーブワンピース姿は魅力的だが、素直に喜べない。
(なんでみんな、揃いも揃ってデカいんだよ……)
美女も、巨人サイズだった。ドラゴン、犬と比べると小さくなっているが、立ち上がれば身長は五十メートル近い気がする。
そんな巨大なものたちから、三人(?)三様にのぞき込まれば、尋常ではない圧力を感じる。身動きの取れなくなった行哉に向かって、巨大美女が手を伸ばして指先でつついてくる。美女は軽くつついたつもりだろうが、行哉をよろけさせるのに充分だった。
「ほれ、早う名乗れ」
「俺、は……名前は……三枝行哉……です……」
声が掠れた。寝過ぎて起きた時みたいに、口の中に違和感があって、声が出しづらい。
「サエグサユキヤ。真名として、ここに刻まれた」
ドラゴンが咆哮を上げる。ビリビリと、行哉の全身が共鳴したように震えた。
「よしよし、これから気をつけろよ」
「取扱注意というやつじゃな」
犬と美女が満足そうに頷いた。
「なに、が……げほっ!」
「おいおい、無理はするな。まだひよっこなんだからな。って、お前、ホントにヒヨコだったな! あっはっはっ!」
犬はひとりで言ってひとりでウケていた。何がおかしいのか、全く分からない。
(つか、なんなんだ、これは!)
ここがどこなのか、どういう状況なのか、全く分からない。しかも身体も旨く動かない。視界もおかしい――巨大なものに囲まれているせいかもしれないが――し、声も出しづらい。立ち上がっただけで目眩がして、よろけたら巨大な犬が前足で支えてくれた。ふかふか、というより、もさもさだった。
「あー、いきなりだったしな、ちょっと弱ってるか?」
「かもしれぬな。シアン、おるか? 面倒を見てやれ」
「かしこまりましたー☆」
甲高い声が追加された。振り仰ぐと、青白く光る物がくるくると舞い降りてきた。人のようにも見えたが、少し違う。青紫のショートヘアというだけでも異質だが、肌の色も薄青、背中には昆虫のような透明の羽が生えている。
「……シ、アン……?」
「わお、覚えててくれました? はい、そうです、シアンです☆」
どこかで見たことがあると思ったら、スマホゲームだ。画面で見たとおりの妖精が目の前で、ぺこりとおじぎをしてくる。そんなバカな。あり得ない現象だ。
(だってあれはゲームだろ!?)
怒濤のように襲ってくる混乱の中で、一点だけ安心できたのはシアンの大きさだ。標準的な人間サイズだった。これが巨大な妖精だったら行哉は間違いなく逃げ出していた。
「さ、トリさん、まずはおうちで休みましょう☆」
「トリ……?」
それはさっき作ったキャラの名前だ。訂正しようとして、行哉はシアンに引かれた自分の手を見て、固まった。
「トリ…………の、羽……?!」
行哉の手は、赤い羽毛に覆われた翼に変わっていた。シアンの手を振り払い、両手を前に伸ばしてみる。ぱたたっと軽い音がして、羽が広がった。よくよく考えてみると、普段の腕の曲げ伸ばしとは違う感覚があった。
「羽……ええっ、羽!? 俺の手? なんで!?」
「なんでって、トリさんがその姿を選んだんじゃないですかー☆」
「選んだ……?」
いつそんなことが、と聞きかけて、脳裏にいくつもの単語がよぎる。選択、シアン、トリ、赤い翼――これらが符合するのは、一つだけだ。
「あの、スマホゲー……」
チュートリアルの途中で記憶が途切れている。確か、召喚されているとか、シアンが言っていたような。
「まさか……俺……ゲームの中に転生したってことか……?」
期待と不安を込めて問いかければ、
「残念、違いますー☆ ただの召喚です☆」
さっくり否定された。とはいえ、召喚されたという事実も、聞き捨てならない。
「ただの、って……いや、でも俺、こんな姿だし?」
「ここでは人間のトリさんは役に立ちませんからねー。なので、トリさんが一人前になるまで、トリさんの魂をお借りしているだけなんですよ☆」
「ぜんっぜんわかんねえ」
「ですよねー☆ じゃ、ゆっくり説明しますから、トリさんのおうちに行きましょう!」
「俺の、うち……?」
「ええ、トリさんには素敵なおうちがあるじゃないですか☆」
シアンは強引に行哉の手を――翼を――引っ張って、飛び上がった。
「うあ!?」
「暴れないでくださいね。というか、トリさんだって飛べるじゃないですか☆」
「え、そうなのか?」
「だってトリさんですもの☆」
「そりゃそうだが、俺は今まで鳥だった経験はない」
「よーし、ここはチャレンジです☆」
「なにが、よーし、だよ! 人の……いや、鳥か? どっちでもいいや、話を――」
人か鳥かで迷ったのがよくなかった。シアンは行哉の意見にまったく耳を貸さずに、砲丸投げのようにくるんと回って勢いづけた後、行哉の手を放した。
「聞けって言ってんだろぉおおーーーーーーーーーーーー!」
行哉は頑張って翼を動かした。
落下の勢いが増しただけだった。
お読みくださってありがとうございます。
無事に鳥になれました。




