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一人ではかえれない

「トリさんを置いては帰れないのです!」

「じゃあどうやって俺を連れて帰るんだよ」

「わからないです!」

「威張るなよ」


 シアンとの話は平行線だ。心配してくれるのはありがたいが、どうしようもない。こうして話している間もシアンは行哉を掴まえようとしてはすり抜けていくという、無駄な努力を繰り返している。だんだん、うっとうしくなってきた。


「いい加減にしろよ。できないんだからしょうがないだろ。そんなに連れて帰りたいなら――」


 自分の言葉に、行哉は首を傾げた。


「連れて、帰る……?」

「トリさん、どうしましたか?」

「シアン、お前、もし俺に触れたら、俺のこと連れて帰れるのか?」

「当然です☆」


 シアンは胸を張った、ような気配がしたからきっと本当なのだろう。


(そうでなきゃ、長老も迎えに寄越さないよな)


 一番最初に召喚されたときはよくわからないうちに喚ばれて戻ったが、二回目のとき、リトに召喚されたときにはモモが一応迎えに来た。


(あのときも、別に還せないとは言われなかった、よな?)


 しかし三回目の召喚者アシオンは、還す方法がわからないから、自分の命が尽きるまで待って欲しいと言った。シアンはその前に帰れると言った。召喚に不慣れなアシオンが無知なだけと言えばそれまでだが、腑に落ちない。


「ちなみに、どうやって帰るんだ?」

「トリさんを喚んだ召喚師さんに『トリさんはそろそろお家に帰る時間だから帰りますね☆』って還してもらいます☆」

「……」


 結局のところ、召喚師頼みというわけだ。

 裏切られた想いと予想通りと納得する想いが、行哉の中で交差した結果、出てきたのはため息だった。


「……じゃあ早く言ってこいよ」

「わかりました☆」


 シアンはアシオンめがけて飛んでいった。ぶつかる寸前で止まったが、もう少し止まるのが遅かったら、カラアイに叩き落とされていたと思われる。


「召喚師さま、申し訳ないのですがトリさんはお家に帰る時間なので還してください☆」

「あの……」


 アシオンは戸惑いながらも、同じ言葉を繰り返した。


「僕、還す方法を知らないんです」

「召喚師なのに還せないのですか?」


 シアンはくるくると回った。驚いているのか、咎めているのか、どちらにしても落ち着きがない。


「はい、君も朝まで待たせてしまうことになってしまって、ごめんなさい」

「朝まで?」


 結局アシオンは、シアン相手に行哉にしたのと同じ会話を繰り返した。シアンは行哉のようにアシオンの置かれている状況に興味を示さなかったので、両親の話は繰り返さずに終わった。


「朝まで?」


 シアンはくるくる回り続けてていた。心配した行哉が声をかけると、我に返ったように降りてきた。


「トリさん大変です、朝まで帰れません☆」

「だから最初からそう言ってるんだって! つか、シアン一人だけでも帰れないのか? 戻って長老に相談したら、何とかなるんじゃないのか?」

「長老様に相談は、今しているのです☆」

「今……? どこにいるんだよ、長老」

「私の前にいます☆」

「いないだろ」


 シアンの前にいるのは行哉だけだ。あの巨大な獣が、この部屋のどこかに隠れているとでもいうのか。


「トリさんの前にいる私は影だけですよ?」

「あ!」


 そうだった。シアンが召喚されているのは術式召喚による影と力だけだ。本体は幻獣界に残っている。


「そういうことは早く言えよ!」

「さっき言いました☆」


 シアンは胸を張った、ような気配がする。


「そうじゃなくてさ! ああ、もういいや、それより長老に相談できるなら――」

「はい、相談したところ、長老様は直接向かうそうです☆」

「直接……?」


 それってまさか、と行哉が口に出す前に、背後で強力な光が生まれた。


「わ」

「アシオン様!」


 強い光にアシオンが驚き、カラアイが慌ててその身で庇う。ダリネはすやすやと寝ている。


「あ、いらっしゃいました☆」


 驚かなかったのはシアンだけだ。シアンが飛び立つと同時に行哉は振り返った。


「……?」


 巨大な姿を想像して天井を見上げていた行哉は、ゆっくりと視線を下げていった。


「……小さいな」


 白いふわふわの毛並みの子犬、もとい仔狼がそこにいた。


「仕方ないだろう」


 行哉の正直な感想に、カルガカは不機嫌そうに唸った。

お読みくださってありがとうございます。

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