ふわふわはどこに行ったのか
「さあ、トリさん、帰りましょう☆」
「ちょっと待て。お前ホントにシアンか?」
「さっき自分で名前を呼んでおいてそれは無いと思うのです☆」
冷静に突っ込むシアン。舞い散る星に怒りが滲んでいる、ように見える。
「そうなんだけどさ。でも、いつもより光りすぎてて顔がよく見えないし、いつも以上に星が出てる気もするんだけど」
気配も声も、舞い散らかしている星もシアンであることを裏付けているが、その全部が青白い光の中に埋もれているので、遅れてやってくる違和感に行哉は戸惑っていた。
「それは私がトリさんみたいに本体ごと移動していないからなのです☆」
「……あれか、着ぐるみ状態なのか」
召喚には二種類あると聞いている。常に本体毎移動する行哉には、一般的と言われる影と力のみの召喚は逆に珍しい。
「そろそろ着ぐるみは訂正した方がいいような気がします☆」
シアンががっくりと肩を落とした、ような気がする。輪郭がはっきりしないので、あくまでも気配だけの話だ。
「へー、こんな風になるんだな。俺も普通はこうなるのか」
「他の召喚を見たことがないのでわかりません☆」
「ま、星は出ないだろうけどな」
「頑張れば出るかもしれません☆」
「絶対、頑張らねぇ!」
「あの」
星の代わりに火が出るのかも、といつもどおり話を脱線させていると、アシオンが声をかけてきた。
「……それは、なんですか?」
「ん? あ、悪い、驚かせたな」
カラアイは剣を収めていたが、アシオンの前に立ちふさがっている。アシオンは、そんなカラアイの後ろからこっそりのぞき込んでいる。ダリネはよく寝ている。この騒ぎで目を覚まさないとは、かなりの大物だ。
「えーと、この光ってるのは俺の保護者みたいな妖精だ」
「保護者みたいな妖精です☆」
適当に言ってみたが、本人も納得のようなのでよしとする。
アシオンは、ほっとしたように頷いた。
「そうですか。よかった、朝まで待たなくても帰れるんですね」
「ああ、それなんだが――」
もしかしたら、シアンならこの状況を覆す手段を持っているかもしれない。行哉が口に出す前に、シアンは答えてしまった。
「もちろんです☆ すぐに帰るのです☆」
「おい、シアン――」
「幼いトリさんに長時間の召喚はよくありません☆ さ、帰りましょう☆」
シアンはにっこり笑って、両手を伸ばしてきた、ように見えた。
「……」
「あれ?」
背後でシアンが首を傾げた、ような気がする。
「……じゃないかと思ったよ」
「え? あれ?」
行哉に近づいたシアンは、いつもどおり抱きかかえて飛ぼうとしたのだろうが、行哉の身体に触れることなく、通り過ぎてしまった。
「なんか存在感ねえなと思ってたけど、やっぱそうなったか」
「あれ? あれれ? トリさんに触れません!」
シアンにとっては予想外だったのだろう。パニックになったようにあちこちに飛び回る。もちろん、行哉の身体を通り抜けて、だ。
「やめろ、落ち着けって。影しかこっちに来てないんだから触れないんだろ」
「あ、そうでした☆」
シアンは空中でぴたりと止まると、行哉の横に降りてきた。
「え、合ってるのか」
逆に行哉が驚いた。
「はい☆ 私はトリさんと同じ喚び声に沿って召喚されているのでした☆」
「同じ喚び声……?」
思わずアシオンを見た。アシオンは心当たりがないとばかりに首を振った。
「はい☆ トリさん、ここで求められていた力は、お話しすることではありませんでしたか?」
「よく知ってるな」
「長老様のお力です☆ と言いたいところですが、実は私にも『喚び声』が届いていたのです☆」
「ってことは、俺はお前の代わりに」
「違います☆」
笑顔で否定された、ような気がした。
「今回の『喚び声』は対象が特定されていなかったので、条件に一番適合するトリさんに収束したのだろうと長老様は言ってました☆」
「なるほどな」
長老の推測も行哉と同じだったらしい。
「なので、トリさんを追いかけるのも、条件に近いものを送るのが一番だと長老様がおっしゃいました☆」
「近いって……確かにシアンも小さいし、羽もある、けど」
柔らかい、も多分合っているのだろう。しかし『ふわふわ』はどこに行ったのか。
「お話しもできます☆ あと、お前は頭も柔らかくてふわふわだから大丈夫だと、長老様はおっしゃってました☆」
「そこは怒っていいとこだぞ?」
「そうなんですか? では、次にそう言われたら怒ることにします☆」
シアンは決意を漲らせて頷いた、ような気がした。
「というわけで、その『喚び声』に沿うと、小さくて羽があってふわふわしている影と、お話しするという力だけが発現している訳なのです☆」
「つまり?」
「お話しする以外、何もできないのです☆」
「お前、もう帰れよ」
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