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希望の星(?)

(ほんとに、終わりなのか? なんか方法があるんじゃないのか?)


 三方は崖。味方は片手で数えられるほど。敵は唯一の逃げ道を三桁の兵力で塞いでいて、夜明けと同時に攻め込んでくる。

 対して、行哉が今できることは、身体に炎をまとわせることだけである。火力は、丸太を焦がす程度。この他ひよこキックも持ち合わせているが、ダメージ力は0だ。


(うん、普通に、詰んでるな)


 三秒と経たずに行哉は考えることを放棄した。実は名軍師のチート能力がありましたとか、ピンチで巨大火炎鳥に変身できました、というオチでも無い限り、雛鳥一羽がどう頑張っても覆せる状況じゃない。


(長老レベルくらいにならないと、巨大化しないっぽいしなあ……)


 命の危険で何かのスキルは目覚めそうだが、巨大化とは限らない。スキルが目覚めない可能性の方が高い。つまり、無駄死にである。


(すぐ隣にいたんだから、長老が召喚されりゃ良かったのにな)


 カルガカならば一頭で敵を全て屠ることもできそうだ。そう考えると、あの前足で転がされてよく命が残っていたと思う。


「……泣いたりして、ごめんなさい」


 行哉が黙り込んだのを、怒ったのだと勘違いしたらしい。アシオンは急いで涙を拭って、嗚咽を飲み込んだ。


「こんな時に泣くなって言う方が無理だろ。十歳の子どもがこんな状況で泣かない方が俺には不思議だぞ」

「でも、父上はもう十歳になったのだからどんなときも、王家の男としての振る舞いをしなさいって」

「十歳の子どもにデカイ責任追わせすぎだろ。つか、十歳だろうが二十歳だろうが、この状況で王家の振る舞いってどうするんだよ」


「それは……ええと……」


 アシオンは困ったようにカラアイを見上げる。しかしさすがのカラアイも、困り果てていた。ほらみろ、と行哉は勝ち誇った。


「何も無いんだから、ただの十歳の子どもでいいだろ」

「でも、僕が泣いていたらダリネも泣いてしまうし」

「妹、ぐっすり寝てるぞ」


 楽しい夢でも見ているのか、時折「えへへ」と王女らしくない笑い声が聞こえる。


「……僕が泣いていたら、カラアイが困ります」

「困らせとけ」


 行哉が言下に切り捨てると、カラアイは複雑な顔をした。


「ええと……トリも、困りませんか?」

「どっちかって言ったら困ってるな」

「じゃあやっぱり」

「何で困ってるかっていうと、お前が物わかりが良すぎて困ってる」

「それは、どういう意味でしょうか……?」

「いっそお前が、『頑張って敵を倒してこい』って俺を敵の中に放り投げてくれたら困らなかったんだけどなあ」


 そうしたら、行哉だって「こんなヒヨコに無茶させやがって!」と怒ったまま幻獣界に還ることが出来たのだが。迎えに来たシアンと長老に愚痴って終わりになるところまで想像していると、アシオンが首を傾げながら申し出た。


「えっと……トリがそう言うなら、僕、投げましょうか?」

「アシオン様、それなら私が行きます」

「待て待て。もう今さらだから、投げるな」


 危うくカラアイに渡されそうになって、行哉は羽をバタバタさせた。


「それより訊きたいんだけど、お前、俺のこと召喚するとき、何でも良いから話せる鳥を喚んだのか?」


 アシオンは申し訳なさそうに首をすくめた。


「火炎鳥というのは召喚してから初めて知ったので。ダリネが好きそうなものを召喚しました」

「ふわふわの犬とか、やたらおしゃべりな妖精でもないんだな?」

「はい。話ができる小鳥が来てくれたらと思っていました」


 アシオンが読んだ文献には、小鳥のような召喚獣が見当たらなかったため、具体的な種族を指定して喚ぶことができなかったのだと言った。


「種族指定とかあるのか? 『ドラゴンよ、ここにこい』、とか唱えるのか?」

「文献では、唱えるのは求める力であって、種族に関しては補助的に思い浮かべるだけとなっていました」

「ふーん」


 召喚術がたらい回しになる理由が、少しだけ見えてきたような気がした。しかし今は、召喚術の謎を解明している場合ではない。アシオンが召喚しようとしていたのが長老でもシアンでもないとしたら、やはり行哉が直接、召喚術を受けたことになる。


(ってことは、召喚を断った奴にシアンが妖精キックで俺を迎えに行かせることもできねえって事じゃねえの?)


 しかも召喚内容が『話し相手』だ。リトに喚ばれたときのように、能力を遙かに上回る力を求められたわけでもない。


(ってことはやっぱり、俺はここでこいつらが死ぬのを見てるだけなのか?)


 改めてそう思った途端、体中の力が抜けそうになった。


「トリ、大丈夫ですか? 具合が悪いのですか?」


 アシオンが目線まで持ち上げてのぞき込んでくる。


「いや、大丈夫だ。ちょっと……俺が何もできなさすぎて困ってただけだ」

「そんなことありません。トリは、ダリネの話し相手になってくれました」


 アシオンは大真面目だった。


「うん、まあ、そうなんだけど」

「寝てまで楽しそうにしています。トリが来てくれて良かったです」


 ダリネがまた寝返りを打ちながら、「えへへー」と笑った。


「まあ、それはよかったな。でも、どうせなら敵を倒せる奴の方が良かっただろ?」

「いいえ。僕、ドラゴンを喚べなくて良かったと思ってます。喚んでも僕では力を使いこなすことはできなかったと思います。それだとダリネも楽しくないし、僕も、外にいる兵も、がっかりするでしょう。だからトリが来てくれて、願い通りにダリネの話し相手になってくれて良かったんです」


 話しかけることで、アシオンも心の整理が付いてきたのだろう。最後は自分自身に言い聞かせるような口調だった。


「……なあ、ちっとよくわからねえんだが、『力を使いこなす』ってなんだ?」


 いつのまにか慰められる立場になっていた行哉は、アシオンが放った一言が気になった。

 アシオンが答えあぐねている間に、星が舞い散った。


「――トリさんはいつもそれですね☆」


 カラアイが慌てたように剣を抜いて身構える。一瞬で遅れたのは、アシオンを守るか、ダリネを守るか、悩んだためだ。

 行哉は急いで叫んだ。


「待て、それは敵じゃない!」


 味方にするとややこしいだけの奴なんだ――とは言わない代わりに、行哉は舞い散る星の中心に向かって叫んだ。


「なんでお前がここに出てくるんだよ、シアン!」

「もちろん、トリさんをお迎えに来たからです☆」


 舞い散る星の中心で、青白い光が瞬いた。

お読みくださってありがとうございます。

シアンは別に長老キックで飛ばされてきたわけではありません、念のため。

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