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そんな話は聞いてない

 部屋に戻りましょうと、カラアイが建物の方に向かって歩き出した。


「ダリネ、行くよ」

「はい」

「そのこは僕が――」

「わたしがつれていきます!」


 伸ばした手を振り払われても、アシオンは怒らなかった。年齢に見合わない苦笑を浮かべて、行哉に頼んだ。


「ダリネの肩に乗ってくれませんか? そのまま歩くと、転んでしまいそうなので」

「はいよ」


 ダリネは「ころびません!」と頑張っていたが、行哉が肩に移動すると、格段に歩きやすそうになった。たまに行哉の羽毛が頬に触れると、くすぐったそうに笑う。そんな妹を、アシオンも嬉しそうに見ている。仲の良い兄妹だ。

 建物の中に入ると、薄暗くなった。陽光が差し込まなくなった分を差し引いても、まだ足りない気がするが、よくわからなかった。


(まあ、いいか。それより、話し相手か……)


 『話し相手』+『鳥』、と来て、行哉が思い浮かべたのは何かの動画で見たおしゃべりオウムである。飼い主を真似をして流暢に語り続けたり、車や電話の音を真似する芸達者な鳥たちだ。


(……昔話とか語っちゃうのか、俺)


 それはそれで楽しんでもらえそうだが、ダリネが望んでいるのは単純な会話だろうと思い直した。しかし何を話せば良いのか。


「ダリネは、何歳なんだ?」

「四歳です!」

「そっか」


 四歳の女の子って、どんな会話をするんだ――行哉は遠い目をした。四歳児の知り合いはいない。自分が四歳だった頃の記憶なんてとっくに捨てている。よって、何を話したら良いのか見当も付かない。


(好きなアニメとか……ないよな……絵本とか?)


 読み聞かせくらいならできるかな――そんなことを考えているうちに、カラアイが立ち止まった。部屋についたようだ。カラアイが開けた扉から、ダリネ、アシオンと順に中に入る。

 部屋の中を見回して、行哉は首を傾げた。


(家、なのか?)


 がらんとした部屋だった。テーブルと椅子があるほかは、壁際に長椅子が置かれているだけで、生活感が全く感じられない。明かりになるのは小さな窓から差し込む外の光だけだ。絵本を読むには環境が整っているとは言い難い。


「トリさんは、ここにどうぞ」


 ダリネはカラアイが引いた椅子に座ると、テーブルの上に行哉を下ろした。ひび割れた古い木のテーブルは、少しがたついていた。

 行哉はダリネを見た。


「なあ、ここはどこなんだ?」

「ここ?」


 問いかけは行哉からダリネへ、ダリネからアシオンへと流れた。


「ここ、ですか……え、と確か……」


 向かいに腰を下ろしたアシオンは、ちらりと視線をカラアイへと投げた。


「インカトマグの西、バナンとの国境近くです」


 カラアイが生真面目に答える。


「ふーん……」


 地名を言われてもさっぱりわからない。

 わかったのは、この場所が兄妹にとっても未知の土地だと言うことだ。


(ワケありで、逃げてきた、ってとこか……って、こわっ)


 視線を感じて振り返れば、カラアイが今にも殺しそうな視線で行哉を見つめている。思わず鳥肌が立った。最初から立っているかもしれない。とにかくこれ以上この話題に触れてはいけないと感じた。


「うん、そうか、そう言われてもやっぱわかんねえな! 俺、こっちの地理全然だし!」

「トリさんは、どこからきましたか?」


 テーブルの端に手を乗せて、ダリネがのぞき込んでくる。カラアイの視線が緩んだのを肌で感じて、行哉は命拾いしたと胸を撫で下ろした。火炎鳥になってから命ぎりぎりのイベントが多すぎる。


「幻獣界、って言ってわかるか? 俺みたいな火炎鳥とか、ドラゴンとか、妖精とかが棲んでる世界だよ」

「ドラゴンと、ようせい」

「そう、ドラゴン。しらないか?」


 ダリネは知らなかった。アシオンは本で読んだことがあると言った。


「大昔に召喚師がいた頃の話を読みました。とても大きくて、強い生き物だと」

「ドラゴンは、大きいの?」

「この天井なんか簡単に突き破るくらい、大きいな」


 ダリネは「はー」とも「へー」とも付かない声を上げて天井を見上げた。

 それから行哉は知る限りの幻獣たちの話を聞かせた。三長老の話をして、シアンについて話し始めた頃、アシオンが唇の前で指を立てた。


「カラアイ」

「はい」


 ダリネは、テーブルの端を掴んだまま、こっくりこっくりと船を漕いでいた。テーブルにぶつかる直前でちゃんと顔を引き上げている。素晴らしい技術だ。

 カラアイがそっと抱きかかえると、ダリネは一瞬目を開けて行哉を見た。


「……あかいとりさん、おやすみなさい」

「おやすみ」


 行哉が羽を振ると、ダリネは安心したように目を閉じた。

 カラアイはダリネを壁際の長椅子にダリネを寝かせた。思ったとおり、ベッドも無いようだ。


「ダリネが、とても楽しそうでした」


 妹の寝顔を見ながら、アシオンがぽつりと言う。日が傾いていたので、カラアイが蝋燭に火を灯した。


「そっか」

「僕の声に応じてくれて、ありがとう。まさか本当に召喚できるなんて思ってもみなかった」

「役に立ったんなら、よかったよ」

「それで、実は謝らなくてはいけないのですが」

「うん?」


 アシオンは非常に気まずそうな顔をしていた。


「ごめんなさい、僕、君を還す方法を知らないんです。それで、明日までこのまま待ってもらわないとけいけなくて」

「……ちょっと言ってることおかしくねえか?」


 そうですか、とアシオンは首を傾げた。


「召喚術について調べたときに知ったんですけど、召喚者の命が消えれば、召喚獣も帰っていくそうです。過去の戦では、召喚師は安全な位置に置かれ、指揮官同様に警備が付いたそうなんです」

「だからおかしいだろって。それじゃまるで、お前が明日に――」


 アシオンは頷いた。今にも泣きそうな顔で、笑ってみせた。


「はい。僕たち、夜が明けたら、多分、殺されてしまうんです」


 そんな話、聞いてねえよ――ぱかっと口を開けたまま、行哉は固まった。

お読みくださってありがとうございます。

命ぎりぎりイベント発生フラグの半分はシアンでできています。

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