表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/37

喚ばれた理由

『我は契約を知るものなり』


 わかってはいたけれど、またか、と行哉はため息を吐いた。また、誰かの身代わりに喚ばれたようだ。

 呼ぶ声は続く。


『翼もつものよ、小さきものよ』

(……範囲広くねえ?)


 羽があって小さいものなら、シアンだっていい。


(……あれは、やめた方がいいな、うん)


 行哉を喚ぶより役に立ちそうだが、きっとあのノリについていけないだろう。


『あと、柔らかくて、ふわふわで』


 呼ぶ声は続く。口調が少し幼い感じだ。

 なんだかいつもと違うな――行哉は暗闇に吸い込まれそうな意識を引き留めた。

 声が聞こえる方に顔を向けると、ぼんやりと光る物が見える。何かが光っているのか、光が差し込んでいるのかは、わからない。


『えーと、あとは』


 遠くから聞こえる声は、慌てているようだった。早く喚ばなきゃ、という焦りの気持ちが伝わってくる。

 早く行かなきゃ――行哉も釣られて、羽を動かした。


『あとは、あとは……話せるもの! 我が喚ぶ声に応えよ!』

(なんだよ、それ)


 突っ込みを入れながら、行哉は真っ直ぐに光を目指した。


***


 光に飛び込むと、景色が変わった。

 青い空が見えて、その下に山の稜線が見えて、すぐ近くには石造りの建物が見えた。


「――きた!」


 足下から声がした。


(足下……?)


 視線を下げれば、黒髪の男の子が一人、両手を挙げて歓声を上げている。見たところ、年齢はようやく二桁に届いたくらいだろうか。利発そうな顔には、満面の笑みが浮かんでいる。


「ホントに来た! ダリネ! きたよ!」

「あにうえ、すごいです!」


 たたっと駆け寄ってきたのは、更に幼い黒髪の少女だった。あにうえ、と叫んでいたから妹なのだろう。あどけない笑顔で、両手を伸ばしてくる。


「赤いことりさん、こんにちは」

「ダリネ、待って、僕が先に」


 妹の前に出て、少年が両手を伸ばしてくる。


「君を呼んだのは僕です。良ければ、こっちに降りてきてくれませんか?」

「降りる……?」


 自分の兄妹の位置関係を、行哉はそのときになって把握した。

 兄妹は地面の上。

 自分は――空中。


「え……俺、飛んで、る……?」


 自分が羽ばたいていたことに気づいた。その瞬間、飛べなくなった。


「うわー!」

「ええっ!?」

「ことりさんが!」


 少年少女の悲鳴と共に、行哉は落下した。内蔵を空中に置いてくるような気持ちの悪い浮遊感に襲われる。


(落ちるーーー!)


 ――ぽすっ。


「……お?」


 地面に激突する寸前、何かに受け止められた。


「ふぅ」


 行哉を受け止めたのは、一人の青年だった。こちらも黒髪だが、兄妹と対照的に冷たい印象の顔つきだった。青年は両手の中で目を丸くする行哉を見て、ちらりと笑みを浮かべた。見た目よりも暖かい奴かもしれないと、行哉は青年の第一印象を書き換えた。


「カラアイ!」


 少年の呼びかけに、青年は笑みを消して向き直ると、膝をつく。


「申し訳ありません。アシオン様より先に召喚獣に触れてしまいました」

「ううん、そんなこと! カラアイは、なんともないの?」

「はい、どこも何ともありません」


 言いながら、カラアイと呼ばれた青年は両手を少年に向かって差し出した。少年はほっとした様子で、カラアイから行哉を受け取った。泣きそうな顔で行哉をのぞき込む。


「脅かしてしまった? ごめんなさい」

「あー、いや、お前のせいじゃないから気にすんな」


 人心地ついた行哉は、少年の手のひらの上で座り直すと、ぱたぱたと羽を振った。


「勝手に驚いたのはこっちだからさ。そっちの人も、受け止めてくれてありがとうな」


 首を回して礼を言えば、カラアイは僅かに眉を動かして「いえ」と答えた。


「あにうえ、わたしもことりさんとお話がしたいです!」

「わあ、ダリネ、待って!」


 待ちきれない様子で妹が少年に飛びついた。落とそうになった行哉を、カラアイが少年ごと抱き留めてくれた。


「ダリネ様、いけません」

「そうだよ、ダリネ、僕だってまだちゃんとご挨拶していないんだから」


 兄にも叱られて、ダリネはしゅんと俯く。その様子が痛ましくて、行哉は思わず声をかけた。


「あのな、兄ちゃんと話すまで、待っててな?」


 途端に、ダリネはぱあっと顔を明るくして、頷いた。少年も嬉しそうに微笑む。


「ありがとう。あと、騒がしくしてごめんなさい。改めて、初めまして。僕のことはアシオンと呼んでください。君のことは何て呼べばいいですか?」

「俺は、トリで」

「トリ、ですか? わかりました」


 アシオン少年は面食らった様子だったが、すぐに立ち直って頷いた。


「では、トリよ、召喚者アシオンが命じます」


 少年は息を吸うと、厳かに告げる。


「この世界にいる間、ダリネの話し相手になってください」


 命令なのかお願いなのか、それよりもその内容に行哉は面食らった。


「話し、相手……?」


 ダリネを振り返ると、わくわくした様子でこちらを見ている。子どもの遊び相手になれと言うことか。


「あのさ、俺、まだうまく飛べないけど、一応、火炎鳥なんだけど……」


 火とか、つけられるんだぜ?――ちょっぴり自慢げに言ってみる。火力は丸太を焦がす程度であることは、伏せておいた。


「そうなんですか。でも、火はいりません。ダリネ、このこはトリっていう名前で、火炎鳥って言う種類の召喚獣なんだよ」


 言いながら、アシオンは妹に向かって行哉を差し出す。ダリネが手を伸ばしてきたので行哉は飛び移った。ダリネはくすぐったそうに笑う。


「火炎鳥のトリさん、お部屋でわたしと、もっとお話ししましょう!」

「お、おう……」

お読みくださってありがとうございます。

更新ペースが落ちてすみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ