喚ばれた理由
『我は契約を知るものなり』
わかってはいたけれど、またか、と行哉はため息を吐いた。また、誰かの身代わりに喚ばれたようだ。
呼ぶ声は続く。
『翼もつものよ、小さきものよ』
(……範囲広くねえ?)
羽があって小さいものなら、シアンだっていい。
(……あれは、やめた方がいいな、うん)
行哉を喚ぶより役に立ちそうだが、きっとあのノリについていけないだろう。
『あと、柔らかくて、ふわふわで』
呼ぶ声は続く。口調が少し幼い感じだ。
なんだかいつもと違うな――行哉は暗闇に吸い込まれそうな意識を引き留めた。
声が聞こえる方に顔を向けると、ぼんやりと光る物が見える。何かが光っているのか、光が差し込んでいるのかは、わからない。
『えーと、あとは』
遠くから聞こえる声は、慌てているようだった。早く喚ばなきゃ、という焦りの気持ちが伝わってくる。
早く行かなきゃ――行哉も釣られて、羽を動かした。
『あとは、あとは……話せるもの! 我が喚ぶ声に応えよ!』
(なんだよ、それ)
突っ込みを入れながら、行哉は真っ直ぐに光を目指した。
***
光に飛び込むと、景色が変わった。
青い空が見えて、その下に山の稜線が見えて、すぐ近くには石造りの建物が見えた。
「――きた!」
足下から声がした。
(足下……?)
視線を下げれば、黒髪の男の子が一人、両手を挙げて歓声を上げている。見たところ、年齢はようやく二桁に届いたくらいだろうか。利発そうな顔には、満面の笑みが浮かんでいる。
「ホントに来た! ダリネ! きたよ!」
「あにうえ、すごいです!」
たたっと駆け寄ってきたのは、更に幼い黒髪の少女だった。あにうえ、と叫んでいたから妹なのだろう。あどけない笑顔で、両手を伸ばしてくる。
「赤いことりさん、こんにちは」
「ダリネ、待って、僕が先に」
妹の前に出て、少年が両手を伸ばしてくる。
「君を呼んだのは僕です。良ければ、こっちに降りてきてくれませんか?」
「降りる……?」
自分の兄妹の位置関係を、行哉はそのときになって把握した。
兄妹は地面の上。
自分は――空中。
「え……俺、飛んで、る……?」
自分が羽ばたいていたことに気づいた。その瞬間、飛べなくなった。
「うわー!」
「ええっ!?」
「ことりさんが!」
少年少女の悲鳴と共に、行哉は落下した。内蔵を空中に置いてくるような気持ちの悪い浮遊感に襲われる。
(落ちるーーー!)
――ぽすっ。
「……お?」
地面に激突する寸前、何かに受け止められた。
「ふぅ」
行哉を受け止めたのは、一人の青年だった。こちらも黒髪だが、兄妹と対照的に冷たい印象の顔つきだった。青年は両手の中で目を丸くする行哉を見て、ちらりと笑みを浮かべた。見た目よりも暖かい奴かもしれないと、行哉は青年の第一印象を書き換えた。
「カラアイ!」
少年の呼びかけに、青年は笑みを消して向き直ると、膝をつく。
「申し訳ありません。アシオン様より先に召喚獣に触れてしまいました」
「ううん、そんなこと! カラアイは、なんともないの?」
「はい、どこも何ともありません」
言いながら、カラアイと呼ばれた青年は両手を少年に向かって差し出した。少年はほっとした様子で、カラアイから行哉を受け取った。泣きそうな顔で行哉をのぞき込む。
「脅かしてしまった? ごめんなさい」
「あー、いや、お前のせいじゃないから気にすんな」
人心地ついた行哉は、少年の手のひらの上で座り直すと、ぱたぱたと羽を振った。
「勝手に驚いたのはこっちだからさ。そっちの人も、受け止めてくれてありがとうな」
首を回して礼を言えば、カラアイは僅かに眉を動かして「いえ」と答えた。
「あにうえ、わたしもことりさんとお話がしたいです!」
「わあ、ダリネ、待って!」
待ちきれない様子で妹が少年に飛びついた。落とそうになった行哉を、カラアイが少年ごと抱き留めてくれた。
「ダリネ様、いけません」
「そうだよ、ダリネ、僕だってまだちゃんとご挨拶していないんだから」
兄にも叱られて、ダリネはしゅんと俯く。その様子が痛ましくて、行哉は思わず声をかけた。
「あのな、兄ちゃんと話すまで、待っててな?」
途端に、ダリネはぱあっと顔を明るくして、頷いた。少年も嬉しそうに微笑む。
「ありがとう。あと、騒がしくしてごめんなさい。改めて、初めまして。僕のことはアシオンと呼んでください。君のことは何て呼べばいいですか?」
「俺は、トリで」
「トリ、ですか? わかりました」
アシオン少年は面食らった様子だったが、すぐに立ち直って頷いた。
「では、トリよ、召喚者アシオンが命じます」
少年は息を吸うと、厳かに告げる。
「この世界にいる間、ダリネの話し相手になってください」
命令なのかお願いなのか、それよりもその内容に行哉は面食らった。
「話し、相手……?」
ダリネを振り返ると、わくわくした様子でこちらを見ている。子どもの遊び相手になれと言うことか。
「あのさ、俺、まだうまく飛べないけど、一応、火炎鳥なんだけど……」
火とか、つけられるんだぜ?――ちょっぴり自慢げに言ってみる。火力は丸太を焦がす程度であることは、伏せておいた。
「そうなんですか。でも、火はいりません。ダリネ、このこはトリっていう名前で、火炎鳥って言う種類の召喚獣なんだよ」
言いながら、アシオンは妹に向かって行哉を差し出す。ダリネが手を伸ばしてきたので行哉は飛び移った。ダリネはくすぐったそうに笑う。
「火炎鳥のトリさん、お部屋でわたしと、もっとお話ししましょう!」
「お、おう……」
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更新ペースが落ちてすみません。




