ゲームスタート 2
『ようこそ、幻獣たちの世界へ!』
画面が暗転して、BGMが変わった。背中に昆虫のような四枚羽の生えた青白い妖精キャラがふわふわと現れて、画面中央でぺこりとお辞儀をする。
『よくいらしてくださいました、トリさん。私はシアンといいます。これからトリさんが過ごす幻獣世界を案内しますね☆』
自己紹介の後、シアンが横にずれると巣箱が現れた。赤い三角屋根に丸い穴の、絵に描いたような巣箱だ。
『こちらがこれからトリさんが暮らすおうちです☆』
「小せぇ……」
『こう見えて中は広いんですよー☆』
行哉の声が聞こえたかのように、シアンがアップでウインクする。巣箱がガタガタ動くので、タップすると内部画面に切り替わった。
「中と外が違いすぎないか……?」
シアンの言うとおり、巣箱の中は広かった。そして何も無い。隅っこに寝床代わりの藁山がぽつんと置かれているだけだ。お気に入りの家具でデコレーションも出来ますとシアンがインテリアガチャを勧めてくるが、今はスキップだ。
『お気に召しませんでしたかー? チケットはアイテムボックスに入れておきますので、気が向いたら使ってみてくださいね! では、次にメニュー画面のご説明です☆』
シアンの声に従って、画面端のメニュー画面をタップしていくと、おなじみのステータスが表示された。レベルは1。HPが5。その他は1と2が並ぶ、情けないステータスだ。
『レベルが上がるといろいろスキルが覚えられるんですよ。楽しみですね☆』
メニューからスキル一覧を選ぶと、空欄ばかりだった。生まれついてのスキルというのも無いらしい。
『レベルを上げるにはNPCとの自動訓練の他、自主訓練と召喚応答があるんですよ☆』
画面右上で点滅しているのが自主訓練ボタンらしい。試しにやってみましょうと言われたので、タップする。
「……」
赤い雛鳥が、汗を流しながら左から右に水平に飛んで、フェイドアウトしていった。ぴこーんと出てきた数字が、取得経験値だ。経験値を10取得して、レベルが2になった。体力が1増えた。以上。
雛鳥のドヤ顔が虚しい。
『レベルアップ、おめでとうございます☆』
シアンが周囲の空間にも星を振りまきながら大袈裟に褒めてくれた。正直、嬉しくない。
『こちらは、あとちょっとでレベルが上がるな、なんて時にご活用くださいね☆』
「手抜き過ぎないか……」
壮大なムービーを付けられても困るが、主人公を育てるイベントにしては雑すぎる。
『さてさて、次はお待ちかねの召喚応答についてです☆』
「別に待ってないけどな」
画面上部、真ん中にあるアイコンが点滅する。同時に、メッセージウィンドウに『召喚されました!』と表示された。
『なんという良いタイミング☆ トリさん、出番です! 召喚されてますよ!』
「いきなりかよ」
レベル2の雛を召喚して意味があるとは思えないが、チュートリアルの一環なら、適当に勝たせてくれるのだろう。
『召喚魔法の種類はいくつかありますが、ただいま発動しているのは低レベルの共通召喚魔法です。なんと一定条件を満たさない限り、この要請が届いてしまうと断ることが出来ません☆』
「一定条件てなんだよ。つか、こんなの喚んで役に立つのかよ……」
『不安ですか? でも、トリさんなら大丈夫! きっとうまくいきます。成功すれば大きく成長出来ますよ☆』
「要するにレベル上げか」
キャンセル出来ない強制イベントらしいが、先ほどの自主訓練画面から考えても、大掛かりな仕掛けが出てくるとは思えない。スキップできないのがわずらわしいと、不満の声が大きくなれば、いずれアップデートでの修正箇所となるのだろう。
「つーか、レベル上げはNPC任せじゃなかったのか?」
放置で育成の話はどこに行ったのだろう。
そろそろ面倒になってきた。続きはまた後にしようと、アプリの終了ボタンを押す寸前、シアンの声が滑り込んだ。
『百聞は一見にしかず。チャレンジあるのみです!☆ ではでは、行ってらっしゃいませー!☆』
シアンの応援スマイルを最後に、ブラックアウトした。
スマホの画面が、ではなく、行哉の視界そのものが、全面的に。
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