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翼あるものは

「どうしたんだ、急に」


 シアンにぶら下がって長老の座に来てみると、巨大な銀色の狼が一頭、悠然と寝そべっていた。言わずと知れた、鳥獣族の長老カルガカである。


「訊きたいことがあるんだけど、他の長老はいないのか?」


 シアンは、行哉を下ろすとさっさと飛び去ってしまった。なんでも、長老の座には許可されたものしか入ってはいけない決まりになっていて、今回は行哉だけが長老と話すことを許されたので、シアンは送迎以外は席を外さなくてはならないそうだ。

 話の邪魔になるからあっちにいってろと、遠回しに言われているように聞こえるのは、気のせい――とは言い切れない気がする。


「用があるなら呼んでやるが?」


 目の前にちょこんと降りた行哉めがけて、カルガカは前足を振った。行哉は華麗に避けた。何故か最近カルガカかは会う度に行哉を転がそうとしてくる。本人は楽しいのだろうが、転がされる方の身にもなって欲しい。


「んー、いいや、俺、ドラゴンでも妖精でもないから」

「つまり、悩みは種族的なことか」


 カルガカの前足が引っ込んだ。これで、安心して話せる。


「悩み、ってほど重たいもんでもないけどさ……あと、長老も鳥じゃないからダメ元で訊くんだけど」

「ふむ」

「俺って、いつ頃飛べるようになるのかとか、わかる?」

「いつ……?」


 カルガカは起き上がると、怪訝そうに首を傾げた。やはり長老でも、四つ足の獣では鳥のことはわからないようだ。


「……火炎鳥の奴らに訊けばよいのではないか?」


 長老の意見は、行哉も真っ先に思いついた。しかしシアンによって、すぐさま却下されたのだ。


「俺もそう思ったんだよ。それで連れてってくれって頼んだら、『もう二度と火炎鳥の領域に近づいちゃ駄目って言われてます☆』って言われたんだが」

「あ? ああ……そういや禁じたなあ」

「あんたのせいかよ!」


 爽やかに笑ってごまかそうとするカルガカを問い詰めれば、


「火炎鳥の奴らに泣きつかれてしまったからなあ」


 と、カルガカは遠い目をした。


「泣きつかれた……?」


 何十もの赤い鳥に囲まれて途方に暮れているカルガカの図が、行哉の脳裏を通り過ぎた。


「シアンの奴、お前が召喚されたとき森で一騒動起こしただろ。あれで火炎鳥の奴らが怯えてしまって、絶対にあの妖精を領域に近づかせないでくれと、それはもう必死になあ」


 中には恐怖のあまり羽の色が変わったとか、羽が抜け落ちたとか、口々に訴えに来たそうだ。


「シアンの奴に何をしたのかと訊いても『妖精キックです☆』としか言わんしなあ。あんなちっこい妖精に蹴っ飛ばされたくらいであれほど怯えるとは思えんし」

「……」

「ともかく、お前の守り役にシアンを指名したのは我らだし、その責任も含めて嘆願通りにシアンを出入り禁止としたわけだ。そのかわり、また火炎鳥の誰かの代わりにお前が召喚されたら、ワシでもシアンを止められるかは保証できないと言っておいたぞ」

「止められないのかよ……長老……」


 そこは是非止めて欲しいところだ。

 が、カルガカは得意げに胸を反らした。


「止められないことにしておけば、火炎鳥の奴らは召喚をやたらと断ったりしなくなるだろう。お前さんだって他人の召喚を押しつけられる確率が減るんだから、良いことずくめだろう」

「俺は良いけど、火炎鳥たちはそう思わないよな……?」


 今までどおり、気が乗らない召喚はお断りすることができなくなるのだから、今度はストレスで火炎鳥たちが消滅していくかもしれない。


「まあ、いずれわかるだろう」


 長老は、何か思い出したかのように、ふふっと笑った。


「ま、出入り禁止なのはシアンだけだ。お前さんが一人で行けば問題ない」

「だからそれで困ってるんだって言ってるだろ」

「む、そうだったか?」


 カルガカは眉間に皺を寄せて前足を伸ばしてくる。ことあるごとに転がそうとするのは止めて欲しい。行哉は身を躱しながら抗議する。


「いやまあ、ちょっと話は違うけど、とにかく俺は、いつ飛べるようになるのか知りたいんだよ。火炎鳥の所にも行けないし、また誰かの代わりに召喚されたときもいろいろ困るしさ」

「ふむ、ワシにしてみればお前さんがまるごと召喚されてしまう方が困りものなのだがな」

「それも早くどうにかしてくれ」


 長老がいうとおり、丸ごと召喚されなければ行哉だって飛ぶことにそんなにこだわらないし、シアンだって、それほど強くは勧めなかっただろう。

 今回の長老訪問の発端は、何もすることがないなら飛ぶ練習とかどうですかというシアンの誘いだった。

 更に、快適な藁山から離れたくない行哉が「俺、まだ雛だから飛べないんだよね」と返したせいでもある。

 その後、様々な方向に会話は飛んだが――主にシアンのせいで――それならいつ飛べるのかという話になり、長老に訊こうという結論に至ったわけである。

 繰り返すが、行哉としては別に飛べなくても問題はない。用があるならシアンに運んでもらえるし、飛べないことを言い訳に藁山でごろごろ、もとい、ふかふかしていられる。

 その反面――大空を舞うモモの姿にちょっぴり嫉妬したのも事実だ。


「ふむ……」


 長老は唸ったきり、考え込んでしまった。行哉は手持ちぶさたになってしまったので、羽繕いなどしてみる。これがやってみると以外と気持ちがよかったりするのだ。

 全身隈無くつつき回していると、長老が言った。


「……そうか、いつ飛べるか、だったな」

「ずっとそこ思い出してたのかよ!」


 長い沈黙は記憶遡っていたためだったようだ。つっこみの勢いに任せて抜いてしまった羽がちょっぴり痛い。


「そうじゃない。そこは思い出していたのだが、お前が何を訊きたいのかがよくわからなくてな」

「は?」

「だってお前、翼を持って生まれてるのに、『いつ』も何もないだろう。好きなときに飛べ」

「……は?」

「むしろお前はいつ頃飛ぶつもりだったんだ?」

「いつ頃って、そりゃ、大きくなってからだろ?」


 行哉とカルガカは、お互いに「こいつ何言ってんだ?」と言う顔で見つめ合った。

お読みくださってありがとうございます。

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