欲しい物が出ない不具合
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前半部分が物足りなかったので書き直しました。ストーリーに影響はありません。
ぴろーん、と間の抜けた音が響いて、壁から光が飛び出した。行哉がじっと見つめる中、光は床の上に輪を描く。光の粒子の乱舞が終わると、再び、ぴろーんという間の抜けた音が響き、音の終わりと共に光は消えた。
「わあ、トリさん見てください、今度はティーテーブルですよ! すてきですね!」
シアンが手を叩いて喜ぶ。
「テーブル、2台目だな」
行哉の無感動をよそに、音と光はまだ続く。
「あ、次はソファですよ☆ 触ってもいいです? おー、ふかふかですね☆」
「いいって言う前に触ってるよな……」
「わあ、あれ、ホランのランプです! 綺麗です!」
「ランプっつーか、でっかい花みたいだな。近寄ったら食われそうだ」
電源はあるのかと考えて、そういえば巣箱も板壁が謎の仕組みで発光するんだったと思い出した。この際、物理法則は忘れた方がいいのかもしれない。
(だとしたら俺はもっと簡単に飛べるんだろうか)
らちもないことをつらつらと考えている間にも、ぴろーん、ぴろーんという音は繰り返されていた。結局、行哉の前に並んだのは、テーブル2台、椅子3脚の他、本棚、ソファ、ランプ、観葉植物の植木鉢と花の植木鉢が各1ずつ。長老に「ご褒美」としてもらったガチャチケットの結果である。
「で?」
じとーっとシアンを見れば、青白い妖精は無邪気な顔で首を傾げる。
「なんでしょう?」
「『至高の藁山』ってのはどうなったんだよ」
「えっとぉ……ハズれたみたいです☆」
えへ、とシアンは舌を出した。行哉は新しい家具に背を向け、お気に入りの藁山に収まった。
「確率聞いときゃよかった……」
鳥にインテリアは不要と、行哉は長老から貰ったチケットを使うつもりは全くなかった。しかし、
今回のガチャの中には、『至高の藁山』が入ってるんですよ」という悪魔の、もといシアンの囁きに耳を傾けてしまったのである。
普通の藁山でもずっと収まっていたいという快適さを提供するというのに、それが『至高の』となればどれほどの快適、いや快楽を味わえるのか――その夢が、一瞬にして破れてしまった。この悲しみは、宝くじ一等当選まで1番号違い、なんてものでは言い表せない。
「でもでもっ、このソファなら、トリさんでも使えると思います☆」
シアンはソファの上で跳ねて見せた。家具売り場でふざけている子どもにしか見えないのが残念なところだ。
「いらん」
「それじゃあ、この本棚とか、この辺に置くのはどうですか☆」
「本なんか一冊もねえだろ」
「本じゃなくて、トリさんが棚の上に乗っかればいいと思います☆」
「俺がインテリアになるのかよ」
新しい展開だった。行哉もうっかり棚に乗った自分を想像してしまった。
「部屋を飾れないなら、いっそのこと、トリさんで家具を飾るのはどうかなって☆」
「却下に決まってんだろうが。目的と手段が入れ替わってることに気付けな?」
妖精の思考回路とはこうまで不可解なのか。種族で一括りにするなと妖精族の怒りの声が聞こえてきそうだが。
「だってせっかく長老様がご褒美にくれたんですよ!」
シアンはぷうっと頬を膨らませた。子どもか、と行哉は心の中で突っ込みを入れる。そういえばシアンは何歳くらいなのだろう。
「向こうはせっかくかもしれないが、俺はちっとも嬉しくないし、欲しいなら好きなの持って行けよ」
「いりません☆ ウチ、こんなにたくさん、物が置けません☆」
「全部持ってく気だったのか……? まあ、ここにあっても邪魔だけどさ」
ゲームなら、どこか亜空間に不要なアイテムを収納する空間があるが、シアンに尋ねたら、そんなものは無いと鼻で笑われた。ガチャがあるわりには、変なところで常識が顔を出してくる。
(そういや、この家の出口ってあの辺の壁だったよな)
家具類は二回叩くとホバリング状態になって簡単に動かせる。いざとなったら出口を開けて、外に投げ捨ててえばいいのではないだろうか。最終手段として心に留めておくことにする。
「それよりシアン、ちょっと話があるんだが」
「はい、なんでしょう☆」
本棚によじ登っていたシアンは、飛んできて行哉の隣に着地した。こういうところはとても素直である。
「今、怠けてる幻獣って、ろくでもない奴ばっかりだけど一応、レベルの高い奴らなんだよな?」
「簡単に言っちゃうとそうですね☆」
「で、俺は今のところ、そういう奴らが拒否した召喚で喚ばれている、と」
「はい☆ 最初に会ったあの狼さんも次の火炎鳥さんも、契約召喚を成立できるレベルです☆」
「ん? それって召喚師のレベルの話じゃなかったのか」
「基本は召喚師のレベルになりますが、応じる方もレベルが高くなければ術式召喚となんらかわりなくなりますから☆」
召喚師と召喚獣、双方のレベルが見合わなければ相乗効果は見込めないと言うことらしい。
「へぇ……まあそれはともかく、基本はみんな、あのモモちゃんみたいに召喚された俺を追跡できるレベルって事でいいんだな?」
モモちゃん、の部分をわざと強調してみる。シアンの反応は特になかった。
「そうですねー……召喚を拒否できるのであれば、大抵そうなると思います☆」
「ちなみに、俺が召喚された術が、本当は誰を召喚した術なのかってことまでは、わからないんだよな?」
「長老様ならできると思いますが、私だとトリさんが戻ってくるまでわかりません☆」
最初の召喚の時、シアンは傍にいた黒狼にそうくってかかっていた。あの時は、囓られなくて本当によかったと、冷や汗レベルの思い出だ。
「あれはあれで不思議だったんだが、戻ってきてすぐだったのによく俺のこと見つけられたよな」
しみじみと言うと、シアンは照れたように手を振った。
「実は、ちょっぴり手当たり次第でした☆」
「まじか」
「といっても、ある程度の絞り込みはできてましたけど☆」
「鳥獣族限定とかか?」
黒狼も火炎鳥も、鳥獣族だ。もしかしたら同じ族からの召喚だけを引き受けているのかと行哉は推測したのだが、シアンは曖昧に否定した。
「そういうのもあるかもしれませんが、召喚術は力を求める術なのです☆ ですから、求められた力に見合った対象であるかどうかが重要なのです☆」
「よくわかんねえぞ」
「トリさんいつもそれですね☆」
わざとらしく肩をすくめて、シアンは言った。
「先ほどの火炎鳥さんの時ですと、召喚者は火をつけて欲しかったのですよね?」
「ああ」
「ということは、火炎鳥さんの代わりに火をつけられる幻獣が対象になるわけですから、トリさんが対象に選ばれました☆」
「つまり、俺ができないことで召喚されないって事か」
「正解です☆」
シアンは飛び上がって一回転して星をまき散らした。そろそろ行哉も慣れてきたのでシアンが元の位置に納まるまでに頭の中を整理しておく。
「てことは、最初に時は俺にできそうなことをできる奴を探したって事か」
「あとは距離ですね☆」
「なるほどな……」
召喚されたとき、誰かの声が聞こえた。今までの話からすると、あれは召喚者の声だったのだろう。
(最初は確か……『風を知るもの、業火をまといしもの』だっけ?)
つまりあの狼は、風と炎の両方を操れると言うことか。それは狼と呼んでいいのかという問題はこの際考えないことにする。
(んで次が、『聖なる炎をまといしもの、正しき道を知るもの』?)
聖なる炎は送り火のことだろう。正しき道はよくわからない。
焦げ跡しかつけられない行哉を、どちらの条件も満たしていると認識する理由がよくわからない。
「……」
「トリさん、どうしました?」
「いや、俺が召喚されたのって最後の最後で他に誰もいないからだったんだなと思ってな……」
「なあんだ☆ そんなのいまさらですよ、トリさん☆」
明るく言われて、行哉は藁山に顔を突っ込んで落ち込んだ。
お読みくださってありがとうございます。
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書き直したら少し長くなりました……全部シアンのせいです(きっぱり)