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送り火 4

「うわああっ!」

「うきゃあああ!」


 悲鳴に、悲鳴で返された。誰が叫んだのかなんて確認するまでもない。


「トリさん、どうしました!」


 のけぞって転がったシアンが、行哉を突き飛ばさんばかりの勢いで戻ってきた。行哉はシアンを軽く避けて、周囲を見回す。


「あいつは!?」

「アイツって誰ですか?」


 行哉の横を滑っていったシアンが戻ってきた。行ったり来たり、忙しい。


「だからリトってやつ――」

「リト? 逆立ちしたトリさんみたいな名前ですね☆」


 小学生並みの感想を行哉は聞いていなかった。シアンがいるならここは幻獣界だ。意識が昏くなった記憶もあるということは、幻獣界に戻ってきてしまったのだ。脱力感が、全身を覆った。


「……金色の奴は?」

「金色? ああ、あのいけ好かない火炎鳥さんなら、トリさんを追いかけて行かせましたが会えませんでした?」

「いや、会えたんだけど――」


 そのときになってようやく、行哉は違和感を覚えた。さっきから背後が、生暖かい。


「……?」


 振り返ると、視界がふかふかした白い毛に覆われた。


「…………?」


 どこかで見たような気がすると思いつつ、視線を上げると、目が合った。


「ぅわあっ!?」

「気づくのが遅いぞ、お前」


 行哉の背後にいたのは、白銀の毛皮を持った巨大な犬だった。見覚えがあると思ったら、幻獣界に召喚された直後に話しかけてきた、あの犬だ。飛びすさって逃げ出した行哉を巨大な前足で左右に転がす。


「ふむ、無事に戻ってきたようだな」

「長老様、その辺で止めてあげないとトリさんが目を回してしまいます☆」

「おっと、悪かった。いやあ、よく転がるから、つい」


 解放された行哉を、シアンが心配そうにのぞき込む。


「大丈夫ですか、トリさん☆」

「……もっと早く止めてくれ……」


 ぐらぐらする景色が止まるのを待って、行哉は尋ねた。


「なあ、シアン、今、長老様って言ったか?」

「言いました☆ あれ、トリさん、まさかご存じありませんでしたか?」

「そのまさかなんだが」

「あー、そういやあ、こっちも自己紹介してなかったな」


 悪い悪いと、巨大犬は気さくに笑っているらしいが、牙をむき出しにするのは止めて欲しい。


「わしは鳥獣族の長老をやってるカルガカっていうんもんだ」


 よろしくなと、カルガカは片目をつむって見せた。


「カルガカ様は魔狼族の方なんですぅ☆」

「へえ……」


 普通の狼とどう違うのかはよくわからないが、とにかく幻獣界では犬に出会ったら狼だと思うことにしようと決心する行哉だった。


「とすると、あの時一緒にいたドラゴンと、えーと、女の人は」

「ドラゴン族の長老のユナムと、妖精族の長老のアケイディアだな」

「アケイディア様は長老って言うと怒るのでご本人の前では言っては駄目ですよ☆」

「何で怒るんだよ」

「そういうお年頃なんです☆」

「……」

「昔、召喚されたときにいろいろあったらしくてなあ。お前も男なら察してやれ」


 なせが諭す口調で、カルガカ。


「はあ……わかりました」


 実際よくわからなかったが、詳しく聞いてもわからないだろうと思ったので行哉は適当に頷いておいた。


「それで、長老、様、が何の用事で?」

「おう、モモのやつのことだが」

「モモ?」


 誰だそれ――首を傾げると、シアンが手をあげた。


「金色頭の火炎鳥さんのことですぅ☆」

「まじか」


 嫌みたらしく金色の羽毛をなびかせたあの火炎鳥と、可愛らしい名前が結びつかない。


「火炎鳥は呼び名が長くてな。大抵の者が多種族からもっと短い呼び名をつけられているんだ」

「ちなみに金色頭の火炎鳥さんのお名前は、モシュコワティ・モーガウラさんだそうです☆」

「……」


 もっと他に略し方はあるような気がしたが、敢えて意見はしないでおいた。澄まし顔の火炎鳥が、長老に「モモ」と呼ばれてどんな顔をするのか見てみたいものである。


「名前のことはもう良いか? モモのやつだが、あやつは新たに契約を結んだようで、しばらくこちらには戻ってこない」

「契約?」

「おう。久しぶりに契約の炎が立ち上ったのを感じたわ」


 いいものをみたとでも言うようにカルガカ。が、行哉は冷や汗をかいていた。


「炎……って、もしかして」


 記憶にあるのは、目の前で豪華に包まれた青年の姿だ。あの絶叫を思い出しただけで、内蔵をわしづかみにされたような気持ち悪さがこみ上げる。


「どうした? 具合が悪そうだな」


 カルガカにのぞき込まれて、行哉は召喚されてからのことを話した。最後に、リトが炎に包まれたことまで語ると、カルガカは大笑いした。


「それこそが契約の炎だぞ! それでびくついてたとは、やっぱりまだひよっこだな」

「別に、びくついてたわけじゃねえけど……じゃあ、あいつは死んだわけじゃないんだな?」

「死ぬどころか、モモの奴はその人間についていた病ごと浄化したのさ。火炎鳥のやつらは潔癖な奴が多いから、契約相手に穢れが付いているのを嫌うからなあ」

「そう、なのか……」


 ほっとすると同時に、怒りがこみ上げてきた。何の説明も無く、いきなりあんな光景を見せつけるなんて、最初から最後までイヤな奴だ。


「一言くらい、言ってくれればいいじゃねえか!」

「まあ、モモの奴も、お前さんに召喚を押しつけた手前、召喚者を気に入ったとは言えなかったんだろうなあ」

「俺に押しつけたのはアイツかよ! 長老、様、俺をもう一回あいつの所に送ってくれたりはできないか?」

「『様』をつけてる割には敬意が感じられんのは気のせいか……?」

「気のせいじゃないと思いま――」


 余計なことを言うシアンの口を塞ごうとして、行哉はシアン共々転がった。カルガカが、笑いを堪えながら前足で転がして戻してくれた。できれば普通に戻して欲しい。


「雛のお前さんに召喚が発動してしまったのは申し訳なく思っている。まだ原因が特定できないのも詫びておこう。しかし結果として、新たな契約者が生まれたことで、幻獣界にはお前さんの羽一枚くらいの希望は見えたように思う」

「それって喜んでるんだよな……?」


 思わず自分の羽を眺めてしまった行哉だった。


「あたりまえだ。これまでは何の希望もなかったんだからな。そこで、今回の件の詫びもこめて、おまえさんにこれをやろうと思う」

「わあ、トリさん、ご褒美ですよ☆ よかったですね☆」


 カルガカの爪の先に、小さな光が灯った。ホタルのような光は爪先から離れると、ふわふわと行哉の前に降りてきた。


『インテリアガチャ×10連チケット』


 行哉がぱたりと倒れた理由を、長老も、シアンも理解できなかった。

お読みくださってありがとうございました。

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