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送り火 3

「すげぇ……」


 燃えさかる炎は、震えるほどに美しかった。清めの炎、そう言われるのも納得だ。


「綺麗だね」


 行哉を手に乗せたまま、青年もうっとりした様子で炎を見つめていた。振り返ると、青年は静かに涙を流していた。行哉はそっと視線を戻した。

 金色頭は燃え具合を確認しているかのように、上空を旋回し続けていた。


「あの火炎鳥も綺麗だね。ヒヨコ君も大きくなったら、あんな風に綺麗になるんだね」

「俺の頭はあんな金色じゃないから」


 同族だから仕方がないとはいえ、一緒にするのは止めて欲しい。


「そうだね。ヒヨコ君は綺麗な赤だね」


 青年は笑った。ちらりと見上げると、涙の後は消えていた。


「あ、戻ってくるよ」


 金色頭は最後に大きく旋回して、戻ってきた。天へと登る魂に挨拶をしているように見えた、なんてガラにもないことを考えたのは雰囲気のせいだ。


「人間。手を貸せ」

「何か手伝う?」

「違う。地面の上に降りるなんてゴメンだ」

「ああ、そういうことか。はい。これでいいかな」


 青年は行哉を片手に移すと、空いた片手を伸ばした。金色頭はふわりとその腕に舞い降りる。青年の細い目がうっとりと細められた。


「両手に花じゃなくて火炎鳥なんて、どんな国の王様だって体験できないね」

「片方は飛べもしない雛だがな」

「飛べもしないヒヨコを召喚させたのは誰だろうなあ」

「だからー、ケンカは無しでお願いしますってばー」


 青年は両手を精一杯広げて、二羽の距離を取った。金色頭と行哉は、互いにそっぽを向く。


「それより人間、聞きたいことがあるんだが」


 視線だけ青年に戻して、金色頭が問う。


「あの櫓、お前一人で組み上げたものではないね?」


 それは行哉も不思議に思っていた。櫓に使われている丸太は直径20センチほどで細い方ではあるが、何本もまとめて持てるような物でも無い。それらを何本も組み合わせて、縦横3メートル近い櫓を作り上げている。病に冒された青年一人で、簡単に作れる物では無い。かといって、死ぬ前に村の人間が自らの火葬場を作り上げたとは考えにくい。


「あれね。うん、領主様の所の兵隊さんが手伝ってくれたんだ」


 病が流行り始めた頃から、一帯を治める領主が食料や薬などの援助をしてくれているのだといった。良い領主でよかったと素直にほっとする行哉と対照的に、金色頭は見透かしたらような声で呟く。


「この治で病を食い止めなければ、己の身もが危ういだろうからね」

「……おまえな、そうかもしれないけど、もう少しいい方があるだろ」

「ヒヨコ君、俺もこっちの金色君の意見は正しいと思うよ。そうでもなきゃ、召喚術を探すのを手伝ってくれたりしないと思うし」


 病を人を直接殺すだけに留まらない。病が収まったとわかるまで、その土地は呪われた土地と成り果てる。だから、清めの炎が必要なのだと青年は言った。


「俺を育ててくれた人のことも、その人たちが育った村のことも、そんな風に悪く言って欲しくないんだ」

「召喚に失敗した時のことは考えなかったのか?」

「それは俺のことか?」


 ケンカなら買うぞと、行哉。金色頭は馬鹿にしたように首を振った。


「違う。まあ、雛君の場合も失敗と言えばそうだが、召喚者自身に反動があれば命に関わる」

「まじか!?」

「金色君は何でも知ってるんだね。うん、領主様にも言われたけど、俺なら……ほら、両親もいないし病気に罹ってる俺なら、召喚に失敗して死んでも何の問題も無いからさ。あ、でも別にこれって俺だけじゃないからね? 他にも俺と同じに召喚術を試した人はいたんだし、みんな同じ気持ちだったからさ。でも……俺が成功したから、みんな少しは安心してくれるかな」


 炎は見えなくとも、高く登る煙は遠くからも見えるだろう。何が起きたのか、村の人間なら察するはずだ。

 はあ、と大きな息を吐いて、青年はしゃがみ込んだ。


「ごめん、座ってもいいかな。なんか、気が抜けたみたいだ」

「こんなとこに座ってるより、家に帰って寝てた方がいいんじゃないか?」

「うん、でもちゃんと召喚できたことを言わないといけないから。それに、最後まで見送りたいし」


 煙が見えれば、誰かが確認に来るだろう。それまで座って待っていれば、見送りもできて報告もできて、一石二鳥ということらしい。


「でもさ……」


 役目を果たしたことで気力を使い果たしたのか、青年の顔色は悪い。額には汗も浮いている。一刻も早く休むべきだと思うが、自分の羽もろくに動かせない行哉は、してやれることが何も無い。


「ありがとう、ヒヨコ君。よかったらもうちょっと触っててもいい? ふわふわで気持ちいいんだ」

「そんなのはべつにいいけど」

「その雛はそろそろ還さないと駄目だ」


 金色頭が無情に告げる。行哉が何か言う前に、強い視線で制された。


「人間。お前、名前は?」

「……そういえば自己紹介してなかったね。俺は、リト」

「リト。お前が死んだら、送る者はいるのか」


 青年――リトは弱く笑って首を横に振った。


「いまのとこ、成功したのは俺だけだから。でもさ俺は村の人間じゃないから、清めの炎なんて要らないんだよ」

「それでもこの地で病で死ぬなら同じことだろう。送る者がいないなら、今この場で僕が送ってやろう」

「え?」

「は?」


 直後、行哉の目の前で、青年が炎に包まれた。


「あ、あ……あああああああああああ――――っっ!」


 叫んだのが自分だったのか、リトだったのか、わからない。

 行哉の意識は闇に包まれ、何もわからなくなった。

お読みくださってありがとうございます。

金色頭の名前、出し惜しみしてるわけじゃないんですよ……タイミングが……

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