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送り火 2

 見上げると、組み上がった丸太の一番上に、金色の羽毛をなびかせた火炎鳥がとまっていた。


(あいつ……)


 森の入り口で会った、あの金色頭の火炎鳥だ。あのいやみったらしい金色の羽毛のなびき具合いからして、断言できる。しかしここに出現する理由がわからない。もしかして、行哉の火力が頼りないからと、青年が別の火炎鳥を召喚し直したのだろうか。


「え、あれ……まさか、あれも火炎鳥? もしかして君の親鳥とか?」


 戸惑ったように、青年は行哉と金色頭を見比べる。青年の仕業ではなさそうだ。


「……あんな親鳥、お断りだ」

「僕も、頼まれたってそんな雛の面倒を見るつもりはない」

「えーと、ごめん、僕のせいなら謝るからケンカは無しで、ね?」


 慌てたように青年が割って入った。


「同レベルで無いのだから、ケンカにすらなっていないだろう」


 いちいちカンに障ることを言いながら、金色頭は行哉の隣にふわりと降りてきた。まだ飛べない行哉には、その動作すらもイヤミにしか見えない。


「何をしているのかな、君は」

「……お前に関係ないだろ」

「あの、ごめん、だからケンカしないでくれるかな? 僕がこの子にお願いして火をつけてもらおうと――」

「人間。そんなことはわかっているんだよ」


 金色頭はちらりと青年を見上げて言った。


「この地に火炎鳥を喚ぶ者は皆、僕らの炎で清められることを求めているからね」

「あ、うん。よく知ってるね。もしかして、前に炎を貸してくれたことがある? って、そんなわけないか」


 随分昔の話だしね――乾いた笑いで場を和ませようとする青年の気遣いを、金色頭はばっさり振り払った。


「ある」

「まじか?!」


 思わず声を上げてしまった行哉だった。人のためには指一本、羽一枚動かさないような金色頭から出る言葉とは思えなかった。隠すつもりも無いその思いが全身からにじみ出ていたらしく、金色頭がじろりと睨んでくる。


「何をそんなに驚くことがあるんだ。僕の能力を十全に使いこなせる優秀な召喚術の使い手に喚ばれたんだ。聞き届けないわけにはいかないだろう」


 得意げに、金色頭は語った。そういえばこいつの名前は何だろうと、今さらながらに思う行哉だった。


(こっちの奴の名前も聞いてなかったなあ)


 細目の青年は、感動した様子で頷いていた。


「そうなんだ! そんなすごい召喚師って言うと、ノータスくらいしか知らないな」

「ノータス。懐かしい名前だね」

「え、じゃあ君を召喚したのって」

「いいや。あの当時、ノータス以外にも優秀な『喚び声』を持つ者は他にもいた」


 金色頭は懐かしそうな目をした直後、昏い目で丸太を振り返った。


「……みんな、ここで送られていったがな」

「昔も、その病気って流行ったのか?」

「病?」


 行哉が問いかけると、意外そうな顔で金色頭は振り返った。


「違うのか?」

「ああ。あの頃は、邪法で呪われる者が多かった。呪いで無理矢理肉体から魂を切り離されると、肉体は呪った相手の者になってしまう。だから清めの炎で焼いた」


 予想以上に壮絶な話に、行哉は絶句した。青年は、感心したように頷いた。


「そうなんだ。その話は知らなかったなあ」

「人同士の戦はだいぶ前に終わったからな。お前の両親の両親の、ずっと前の両親が生まれた頃の話だ」

「両親、か」

「もういないのか」

「うん、どっちも」


 父親も母親も、どちらも、と言う意味かと思えば、


「産んでくれた人も育ててくれた人も、どちらも」

「ふむ。その雛が言っていた、流行病のせいか?」

「そうみたい。俺が生まれた頃に一度流行って、そのとき、旅商人だった両親はこの村で倒れて、俺はそのままここで育ててもらったんだ」


 そして再び、同じ病が流行った。青年が流行病の元凶ではないかと囁く声を、育ての親は一喝してくれたと、嬉しそうに語る。


「何にも恩返ししないうちに死んじゃってさ。せめて、清めの炎で送ってやりたいんだ」

「なるほどな。それでこんな雛を喚び寄せたのか。もう少し役に立ちそうなのを喚べるまで研鑽を重ねてからにすればいいものを」


 返す言葉も無いと、青年は身を小さくする。行哉は残りの体力を振り絞った。


「……おい、言っておくが、俺は断れないからここに来ただけだからな!」

「わあ、ちょっと、ヒヨコ君、だいじょうぶ!?」


 叫んだまま、後ろ向きに倒れる行哉を青年が両手で受け止めてくれた。

 ふつふつとわき出る怒りと反対に、行哉の体力はダム放水並みの勢いで消耗されていく。世界を移動するだけでも力を使い果たすことがあると、シアンも言っていた。何度も発火スキルを発動しているのにこの場に留まっているのは、既に奇跡レベルかもしれない。


「こいつが喚んだのは間違いなく火炎鳥なんだから、喚ばれたのはお前かもしれないし他の火炎鳥かもしれない。でも、全員断ったんだろ。だから俺がここにいるんだからな!」

「ヒヨコ君、もう、無理しないで!? 羽の色がおかしくなってるよ!? あれ、もともとこういう色だった!?」

「俺はまだ大丈夫だから落ち着けって」


 ぱたぱたと羽を振って、行哉は青年を宥める。だんだん青年とシアンが被ってきたので、違う意味でも消耗しそうである。


「……それはすでにシアンから聞いたよ」

「それって……羽の色のことじゃねえよな?」

「当たり前だ」


 ふい、と金色頭は視線を逸らした。


「君が目の前から消えたとき、あの妖精は無理矢理森に押し入ろうとしたんだ。誰かが君に召喚を押しつけたのだと。その誰かを探し出して、君の所に向かわせるんだと、大騒ぎだった」


 その様子が目に浮かぶようだった。それは宥めるのが大変だったろうと、少しだけ、行哉は金色頭に同情した。


「相変わらず無茶な……つか、喚ばれたやつの後を追いかけることなんてできるんだな」

「痕跡は残っているから、別に召喚されたものでなくても高レベルのものなら追跡は可能だ」


 現に、金色頭はこの場にいる。ついでに遠回しに、自分は高レベルだと公言している。やっぱりイヤな奴である。


「ああ、そうですかい。それはわざわざすいませんね。で、ここまで来て、俺にイヤミ言っておしまいか?」

「……どいていろ」


 金色頭はふわりと羽を振って、行哉を抱えたままの青年を下がらせた。


「もっと離れろ。一緒に送られたいか」

「生きたまま清めの炎を体験するのはイヤかな」


 青年は愛想笑いしながら、更に距離を取った。

 そうして。

 丸太で組まれた巨大な棺は、一瞬にして燃え上がった。

お読みくださってありがとうございます。

行哉とシアン以外の名前を出すタイミングが難しい……

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