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送り火 1

『我は契約を知るものなり』


 意識を失う直前、遠いところから声が聞こえた。


『聖なる炎をまといしものよ、正しき道を知るものよ』


 遠くから聞こえる声は、誰かを探しているようだった。


『我が喚ぶ声に応えよ……たのむ!』


 縋るような声に、行哉はため息を吐いた。


***


(眩しいな)


 目を開けて、最初に見えたのは明るい空だった。


(あれ、喚ばれたんじゃなかったのか?)


 くるっと首を回すと、一人の青年と目が合った。驚いたが、予想の範囲内だ。召喚されたのだから、その先に召喚師が待っているのは当然だ。


「……やあ、はじめまして」


 純朴そうな青年は、ぎこちなく挨拶してきた。前回の男よりもずっと若い。日に焼けた顔には、そばかすが散っている。細い目を更に細めて、行哉をのぞき込んできた。


「えっと、君は火炎鳥、だよね?」

「まだヒヨコだけどな」


 行哉が答えると、青年は、今度は細い目をかっと見開いた。


「ほんとに!? 本当に火炎鳥なんだね!?」

「だから、ヒヨコだけどな!」


 今にも掴みかかってきそうに勢いの青年に、行哉も負けじと怒鳴り返す。ただし、足は一歩、後退した。物理的な大きさは脅威なのだ。


「ヒヨコ? でも火炎鳥なんだろ? やった、ついに成功したんだ!」


 青年は奇声を上げて、その場でくるくると回り出した。踊っていたのかもしれない。どこかの妖精を思い出すなと、行哉は生暖かく見守った。


「ごめんごめん、初めて成功したから興奮しちゃって!」


 踊った後は地面の上をごろごろと転げ回り、誰もいない空間に向かって話しかけていた青年は、行哉が居眠りを始めたのに気づいて戻ってきた。


「んぁ? あれ、俺まだここにいたのか」


 どうやら意識がブラックアウトしたのは、単に睡魔に負けていただけらしい。行哉はぷるっと羽を振るわせると、改めて青年を見上げた。


「で?」

「で?」


 行哉と青年はお互いに首を傾げ合った。


「いや、召喚したんならさっさと用事を言ってくれよ。たぶん、間違いなく役に立たないけどな」

「ずいぶん荒んでるヒヨコくんだなあ……」

「いや、実際、こんなヒヨコが出てきてどうしようって思っただろ?」

「そんなことはないよ。火炎鳥なんて見たのは初めてだし。あ、もしかしてヒヨコだと炎を出せないのかな?」

「炎?」

「そう。火炎鳥の炎で送れば、穢れを払えるから、火を貸して欲しいんだ」


 何をどう送るのかは、青年の寂しげな表情が全てを語っていた。葬送のための送り火に、火炎鳥の炎が必要らしい。異世界だし、そういう宗教もあるのだろうと、行哉は深く聞くことはしなかった。


「それくらいなら多分できると思う。ただ、俺はまだ飛べないんで運んでくれ」

「ホントにヒヨコなんだね」


 青年は苦笑して行哉を手のひらに乗せ、ゆっくりと歩き出した。殺風景な場所だった。草の一本も生えていない荒れ地だ。すぐに、丸太で組まれた櫓のような物が見えてくる。高さは3メートルはあるだろうか。幅も同じくらいで、正方形の箱のようにも見える。


「もしかしてこれを燃やすのか?」

「そう」

「……一応訊くけど、中に入ってるのはやっぱり」

「うん、死体だよ。俺の村の人たち」


 流行病だったと、青年は語った。病に冒された人たちの身体には赤い発疹が浮き出た。それは穢れの証拠だから、汚れを祓ってから埋葬しなければ神の御許にはいけないのだと。


「昔はそういうとき、火炎鳥を喚んで聖なる炎を貸してもらったんだって。でも今じゃ召喚師なんてどこにもいなくて、古い記録を調べて、やっと君を喚べたんだよ」


 清々しい顔で語る青年の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。首筋に、赤い発疹も見える。


「……とにかくやってみる」


 丸太の上に乗せてもらって、行哉は炎を呼び起こした。


「……」

「……」


 行哉の身体から生まれた炎は、丸太の上に燃え移るが、表面を焦がすだけで消えてしまう。木が生乾きなのか、それとも単に火力が足りないのか。


「……なあ、油とか無いのか?」

「オクシの木と火炎鳥の炎だけで送らないと穢れが払えないんだ」

「そうか……」


 よくわからないが、火力は自分で上げなければならないようだ。


(要するにヒヨコ向きの依頼じゃないってことだよな)


 君には無理だね――金色の頭の火炎鳥が、鼻で嗤ったような気がした。


「駄目そう、かな?」

「いや、やる」


 意地でも火をつけてやる――行哉は再び炎を呼び起こして、手当たり次第に移していく。転々と、焦げ跡だけが増えていく。


(燃えろ、燃えろったら燃えろ!)


 集中しすぎたせいか、目眩がしてきた。反して、身体から出る炎が途切れがちになっている。そろそろ限界のようだ。


「なあ、大丈夫かい?」


 心配そうな青年の声と、


「――そんなやり方じゃ駄目だよ」


 鼻で嗤う声が、同時に聞こえた。

お読みくださってありがとうございます。

シアンがいないと、とても静かです……。

5/4追記

サブタイトルがおかしかったので直しました(汗)

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