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出会い 3

「……騒がしいぞ、お前ら」


 むくりと、犬が首を持ち上げた。不機嫌極まりない顔つきをしている。背中の上に乗ったまま話し込んでいたのだから、怒るのも当然だ。今度こそ食われるかもしれないと、逃げ腰になった行哉を庇うように、シアンが立ち上がる。


「何言ってるんですか! トリさんが代わりに召喚に応じてくれたから、あなたはのうのうと寝ていられたのですよ! 文句を言う前にお礼を言って然るべきです!」


 いつもの、ちょっぴり頭の悪そうな口調から一転、シアンは厳しく批判の言葉を並べ立たてる。頼もしいと思う反面、それ以上、刺激しないで欲しいと切実に思う。何しろ相手は、ひと噛みで行哉とシアンの人生にピリオドを打てる牙の持ち主だ。


「なあ、シアン、もう、それくらいで……俺らも、背中の上で騒いでたわけだし……別に俺が召喚されたのは、あちらさんのせいって決まったわけじゃないしさ」


 宥めに掛かる行哉に、シアンは厳しい口調のまま振り返る。


「何言ってるんです、トリさんが召還後にここに現れたってことは、この狼さんの代わりに召喚されたからに決まってるじゃないですか!」

「え、そうなのか?」


 ついでに黒犬が黒狼だったことも判明して、行哉は二重に驚いた。そういわれると、犬とは違う生き物に見えてくるから不思議だ。


「ひよこが俺の代わりだと?」


 黒狼の方も一瞬驚いたように金色の目を見開いたが、馬鹿にしたように鼻で嗤う。


「ふん、やっぱりその程度の召喚師だったんだな」


 狼の嘲笑と髭面の男の怒声が、行哉の中で混ざり合って押さえきれないほど膨れあがった。


「おまえな!」


 気づいたら行哉はシアンを押しのけて、狼の鼻面めがけて跳び蹴りを食らわせていた。


「……なんだ、ひよこ」


 鼻面を蹴り飛ばされたはずの狼は、虫が止まったくらいのダメージしか受けていない。ダメージと言えるのかどうかすら怪しい。それがますます行哉をかっとさせた。


「なんだ、じゃねえ! 俺はお前のせいで、ぶん投げられて、燃やされそうになって、死ぬかと思ったんだぞ!」

「ハ、そんなの、俺が知るか。イヤならお前も召喚を断ればいい。できるなら、な」


 ふん、と狼はまた鼻で嗤う。


「なにぃ……」


 行哉の怒りゲージがさらに上昇する。次はヒヨコキックEXをお見舞いしてやると息巻いていると、シアンが呟いた。


「うーん、確かにトリさんのレベルでは召喚術が届いてしまうとキャンセルできませんからねぇ☆」


 どこかで聞いたことがあると思ったら、ゲーム画面の話だ。チュートリアルが始まって、意識が無くなる直前、ゲーム画面のシアンが言っていた。あの設定は、そのまま生きているようだ。なにもこの場で言わなくてもいいのにと、行哉はむくれる。


「お前、どっちの味方なんだよ」

「もちろんトリさんの味方です☆ が、真実を曲げることはできません☆」

「一番イヤなタイプだぞ、それ」

「トリさんの好みは後で詳しくお聞きするとしてですね、その前に、トリさん、気づいてないようなので申し上げますけど」

「なんだよ」

「トリさん、今も燃えていますよ?」

「え――うおっ、あちぃ!?」


 見れば、自分の身体からまた炎が立ち上っている。火、イコール熱いという思い込みが、行哉を慌てさせた。水、消火器、とパニック状態の行哉に、


「自分の炎なんだから熱いわけ無いだろ」


 面倒くさそうに、狼は顔を振った。鼻面であわあわしていた行哉は簡単に振り落とされ、地面に激突――直前に、狼が前足で器用に受け止めてくれた。


「助かった……」

「大袈裟だな。まあ、ひよこなら仕方ないか」


 振り落とされたせいか、身体の炎は消えていた。ほっと一息ついていると、シアンが飛びついてくる。ちなみに身体に火が付いていたとき、そっと離れたのを行哉は見逃していない。


「トリさん、おめでとうございます! 発火スキルがついたんですね!」

「は……発火スキル?」

「そうですよ、さすが火炎鳥の一族です☆ しかもこんな生まれたばかりでスキル習得なんて、すごいですよ!」

「へえ、おれそんな種族だったんだ」

「おかしな奴だな、自分が何の種族なのかも知らないのか?」

「トリさんは特別なんです☆」


 怪訝そうな狼に、シアンが胸を張る。何の説明にもなってないぞと、行哉は心の中で突っ込んでおいた。


「……なるほど、確かに少し変わったひよこだな」


 狼は目を細めて行哉を眺めていたが、不意に興味を無くして寝そべり、目を閉じた。


「あの程度の召喚術に喚ばれるにはちょうど良いな」

「……おい」


 再び、行哉の中で怒りが燃え上がる。シアンが慌てて離れるが、身体に火は付いていなかった。


「何がちょうどいいもんか! 俺はお前の代わりに喚ばれたらしいが、多分なんも役に立たなかったぞ!」


 髭面の男が、召喚師の男が何のために召喚術を使い、その後どうなったのか、行哉には知る術が無い。ただ、あの絶望的な空気からして、遊び半分に術を行使したとは思えない。


「そうか。別にいいんじゃないか」


 黒狼は、行哉がいくら鼻先で喚いても目を閉じたままだった。


「あの程度の召喚師なら俺が行ったところで結果は変わらないだろう。俺はもっと、高度な術で呼ばれるべき存在なんだ」


 そしていびきをたてて、深い眠りに落ちていった。


「……シアン」

「なんでしょう☆」

「こいつらどうしょうもねえな」

「長老様もさじを投げています☆」


 何の慰めにもならない答えだった。

お読みくださってありがとうございます!

やっとあらすじクリア、です……。

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