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ゲームスタート 1

※R15は念のためです。

〈放置型育成ゲーム最新作!〉


(……最近こういうの、流行ってるよなー)


 特に目新しくなくなったキャッチコピーを、三枝行哉さえぐさ ゆきやは読み流した。


〈面倒なレベル上げは一切無し! 一日一回、ログインするだけ!〉


(他にもやることあるし、無駄な時間はかけたくないけどさ)


 大学の定期試験も終わり、必要単位数も確保した今、行哉の毎日はバイトとゲームの二色で分けられている。バイトが休みの日は昼まで寝て、朝食と昼食をまとめて食べながらスマホゲームを始めるのが日課だが、今日に限って、登録しているゲームが全てメンテナンス中という異様な事態に陥っていた。


〈カワイイを目指す? カッコイイを目指す?〉


(アバター着せ替えか? ま、無いよりは、あったほうがいいか)


 ゲームを起動する度に『ただいまメンテナンス中です』の画面が出てくるので、全国的な通信障害なのかと思った。が、調べてみても障害報告も出ていないし、SNSでも他に同様の症状に陥っているという話も上がってこない。スマホが壊れているのかと疑ってみても、ゲーム以外は普通に作動する。友人にぼやいてみても、「真面目に生活しろってことだろw」と相手にしてもらえない。不遇だ。

 気分はゲームモードに入っていたので、他のことをやる気にはなれなかった。それで、今すぐ手軽にできるゲームはないかと検索して出てきたのが、新作の召喚獣育成ゲーム『エメラルド・ガーデン』だった。聞いたことの無い制作会社だったが、小型竜を抱きしめるヒロインの絵が好みだった。


〈心温まるストーリー満載!〉


(登場キャラは多そうだな……どうせ飛ばすからどっちでもいいけど)


 広告映像では老若男女のキャラクターが流れているところだった。音楽も悪くない。


〈レベルを上げて、どんどん契約しよう!〉


(……どんどん契約?)


 確かこれは、召喚獣を集めるゲームではなくて、育てるゲームではなかったか。


(複数育てろってことか……?)


 行哉が首を捻っているうちに、映像はラストシーンを迎えた。満面の笑顔のヒロインが、両手を差し伸べている。


〈最強の召喚獣に、君もなろう!〉


「俺がなるのかよ!」


 スマホゲームアプリ『エメラルド・ガーデン』は、召喚獣育成ゲームだ。ただし、育てるのは主人公が使役する召喚獣ではなく、主人公そのもの。「急いでここに来て、あれと戦ってきて!」と、誰かに使われる立場だ。ヒロインが抱きしめていたあの小型竜こそが、自分の分身ということらしい。


「ええぇ……なんだよこれ、召喚獣が主役? 『最強目指して転生だ』、じゃねえだろ……俺、こいつらのパシリなの? ありえねぇ……」


 ぼやく間にインストールは完了した。繰り返すが、ヒロインが好みだったのだ。


「……異世界勇者召喚だって、都合のいいパシリだしな、うん」


 自分が召喚獣だろうが召喚士だろうが、行哉がやることはスマホを持ってタップするだけだ。

 見えない誰かに言い訳をしながら、ゲームスタート。利用規約に同意するかどうかのおきまりの問いかけを「はい」の連打でやり過ごすと、今度はオープニングムービーが流れ始めた。人と召喚獣が共存繁栄する理想世界をエメラルド・ガーデンと呼ぶとかなんとか。荒れ果てた人の世界に召喚獣を呼び戻し、再び共存を目指そう、という流れらしい。


「ゲームサービス終了まで理想世界は来ないだろなあ」


 運営側の都合で理想世界に到達する前にサービス終了するかもしれないし、行哉自身がその前に飽きてしまうということもあり得るので道のりは険しいと思われる。

 オープニングムービーが終わると、二頭身にデフォルメされたキャラクターが現れた。


『育成する召喚獣を選んでください』


 選べる召喚獣は、鳥獣型、ドラゴン型、妖精型の三タイプだ。 最初は全部幼獣で、経験値で成長し、アイテムで進化する。最終形態は、進化アイテムにより異なる、らしい。リリースしたばかりなので、詳しい攻略情報は見つからなかった。


「最後がわからないのがイタいな……」


 幼獣の時点では能力に大差は無かった。成長後か、進化後に特性が出てくるのだろう。ドラゴンや妖精の特性ならブレスや魔法だろと想像がつくが、鳥獣型は大きな動物、程度の想像しかできない。


「鳥と獣だろ……キメラ、とか? グリフォンもありか」


 ドラゴンの子はドラゴンに、妖精の子は妖精に成長する。鳥獣型の成獣が何になるのかは、育ててみないとわからない。


「……使えなきゃ、リセットすればいいし」


 好みのキャラが出来るまで、あるいは強キャラが出てくるまで何度もやり直すリセットマラソン、通称リセマラにも慣れている。隙間時間を埋めるだけのゲームにそこまでこだわる必要性があるか否かはともかく、行哉は最初に出てきた鳥獣型を選択した。

 次は体形の詳細選択画面が出てくる。思ったより細かく設定されているようだ。


「って、なんだよ、全部丸っこいな」


 鳥獣型、しかも幼獣というだけあって、どのキャラも、ふわふわ、もふもふ、ころころ、だ。違いは羽が生えているか四本足かだけ。どう頑張っても、ヒロインに抱きしめられるだけの簡単なお仕事しかこなせそうにない。敵を倒せと召喚したら、泣きながら帰りそうである。


「んー……四つ足か、羽か……」


 飛べる方がいいと、鳥型を選択。最後は細部のカスタマイズだ。もふもふの体形は変えられないが、体色や、頭にトサカやアンテナのような羽を付けるといった調整が出来る。当然、能力には全く影響ない。


「ま、こんなもんか」


 十分ほどいじってできあがったのは、目つきの悪い、赤のグラデーションの雛鳥だ。育てばそれなりにカッコよく見える、かもしれない。完了ボタンを押して、次へ。


『名前をつけてください』


「名前ぇ?」


 面倒だったがスキップできない。三秒悩んで、『トリ』と入力した。凝った名前を付けて死ぬほど後悔する経験は、もう充分だ。

お読みくださってありがとうございます!

久しぶりの男主人公ですが、所詮、鳥なのであまり気負わずに頑張りたいと思います。

よろしければおつきあいください。

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