女子制服を着てみた
「ピピ・・・ピピ・・・ピピ・・・」
枕元で鳴っているスマホのアラームを止める。
ベッドから起き上がると、昨日あった身体のだるさや眠気が取れてすっきりしていた。
「おはよう、空。今日は男か?」
隣のベッドから健斗が声をかけてきた。
「おはよ。あー。あー。声は男だし、今日はちゃんと男っぽいな」
解いていた髪を和樹からもらったヘアゴムで後ろで結う。
そして、健斗に顔を向けてみる。
「どうだ?」
「ああ、ちゃんと男だ。・・・ッチ」
「おい、舌打ちすんな」
なんだか残念そうな健斗を放置して制服に着替える。そういえば、女体化した場合って男物の制服って胸の辺りがきついかもな、などと他愛のないことを考えながら。
健斗も制服に着替え終わった所で2人で寮の食堂に向かう。
「おはよー」
「おはよう」
朝食をカウンターでよそってから、元気な和樹と、無愛想な幹也の2人が座っている所に向かう。すると、いつものように2人共、挨拶をしてくれた。ちなみに、この2人は同じ部屋同士だ。
「おはよ」
そう返すと、和樹な俺の顔を覗き込んできた。
「なんか今日は顔色がいいね。昨日はなんだか、顔色悪かったから」
「よく気づくな」
「まあね。あ、ちなみに幹也も気づいてたよ」
幹也の方を見ると頷いた。
「心配かけたか?」
「いや。そうでもないが。まあ、元気になったのなら良かった」
「ありがとな」
そうか、2人に心配かけたのは悪かったな。
「昨日は色々あったからな。なあ、空」
ニヤつきなから俺のことを見る健斗。ちと、うざい。
「まあ、な・・・。なあ、和樹、幹也。昨日のことなんだが、実は俺・・・、一時的に女になったんだ」
「どういうこと?」
和樹が不思議そうに聞いてきた。幹也は黙ったままだ。
「健斗、昨日録画したやつ見せてやってくれ」
「おう!」
なんか、ウキウキした様子の健斗がスマホをポケットから取り出す。
それを4人で囲んだテーブルの真ん中に置いて、昨日撮ったビデオを早送りで再生する。
改めて見ても、俺が女になっていくのも、男に戻っていくのも変なものだ。
「なんだかすごいね、これ」
「うむ。超人的だな」
和樹と幹也がそれぞれ感想を言う。だが、幹也よ。超人的は表現としてどうかと思うぞ。
「もしかして、空は女の子にも男の子にもなれるようになったってこと?」
「まあ、そうだな」
和樹がじっと俺のことを見つめてくる。
「ずるい!」
「えっ」
和樹が意外な反応をしてきた。
「なんで?」
「だって、女の子にもなれるってことは、可愛い格好し放題じゃん。僕って中性的とか言われるけど、流石に女装する気にはなれなくて。でも、女の子と一緒に洋服見に行ったりするときに、可愛い服を着れる子が羨ましかったから」
「な、なるほど」
確かに和樹はかっこいい系の服よりも可愛い系の服のほうが似合いそうではあるが、女装に抵抗あるのはわかる気はする。だが、その発想はなかった。
「幹也はどう思う?」
幹也にも聞いてみることにした。
「さっきも言ったが超人的というのが一番適当だろう。人間は染色体の関係で男か女のどちらかにしかなれない。だが、お前はそのどちらにもなれるようになった。人体の神秘だな」
こいつは生物学的に俺に興味があるということだろうか。幹也らしいといえば、らしい。
「それで、空はどうするつもりなの?」
和樹にそんなことを聞かれた。
「特に何も考えてないけど」
そんなふうに答えたら、頬を膨らませて不服そうに言われた。
「もったいない。折角女の子になれるのに」
もったいないとか言われてもな。学園内で女になったりしたらトラブルが起きる気しかしないんだけど。
「だよな、もったいないよな」
そんなことを和樹に健斗に言う。
おい、面白そうだからって抱き込むな。
その後、和樹と健斗は意気投合して、俺に女体化するべきだと滔々と話してきた。
「わかった。とりあえず、放課後な」
2人が鬱陶しくなってきたので話を切り上げて、教室に行くことにした。
「うん。放課後ね」
和樹が良い笑顔で返事をしてきた。あれは、絶対碌でもないことを考えてやがる。
その日の放課後、クラスメイトでもある和樹に引っ張られ、学園の空き教室に連れてこられた。
ちなみに何故か体育着をロッカーから持ってこさせられた。
そこにいたのは、クラスメイトの雪菜だった。
あー。どんどん面倒なことになっていく。俺はそう確信した。
「空くん。面白そうなことになっているみたいね」
「エー、ソンナコトハナイデスヨ」
棒読みでそんなふうに答えた。ちなみに、雪菜は名前でもわかるとは思うが女だ。そして、かなり好奇心が旺盛で、和樹とは仲が良い。
「空くんが女体化しちゃうなんて。そんな面白そうなこと、どうして私に言ってくれなかったの?」
面倒なことになるからです。
「女体化なんてするわけないじゃないか。ハハッ」
「和樹くんがこんな嘘つくわけないって分かってるのよ。あと、空くんの髪が昨日急に伸びてたのも信じた理由ね。あんた、いきなり髪が伸びたって、女子の間で噂になってるわよ」
まじっすか。女子怖い。
「はい。認めます。昨日から女体化できるようになりました」
「うそ。まじ、うける!」
うけるな。
「和樹くんから女の子の服を用意して欲しいって言われてるから、とりあえず女体化してくれる?」
軽いな!
「和樹。売ったな?」
「てへっ」
和樹が首をかしげて、舌を出してとぼけてくる。様になってるから、憎めないやつ。
仕方ないか。
「いいけど、ここでか?こんなとこじゃ、教室の外に出た時に変な目で見られないか?」
「それは大丈夫。ほら、空くん。体育着持ってるでしょ?」
「あー、確かにこれって男子も女子も同じだから、問題ないのか。ないのか?」
「いいから、早く着替えて。私は向こう向いてるから」
雪菜はそう言うと向こう側を向いた。
仕方ないので体育着に着替えることにする。
「いいぞ」
着替え終わったので声をかけた。
「それじゃ、私が膝枕してあげるから女の子になってくれる?」
雪菜はそう言うと、教室の床に女の子座りで座った。
「なぜ、膝枕?」
「近くで観察したいから。それに、床に頭を寝かせるのは痛いでしょ?」
「まあ、確かに」
雪菜に言われるがままに、彼女の膝の上に頭を載せて、横になる。
膝枕ってときめくものなような気がするが、あんまり嬉しくない。
「それじゃ、女体化よろしく」
「はいはい」
ということで、雪菜と和樹に見守れる、というか観察されるなかで、女になれと心の中で念じる。
すると強い眠気に襲われて、意識が落ちていった。
次第に意識が戻ってきたので目を開ける。
すると、雪菜の顔が目の前にあった。
「近い」
「ごめんごめん」
そう言って、彼女は顔を離してくれた。
とりあえず、起き上がってみる。
「どうだ?」
雪菜に尋ねてみた。
「中々凄い光景だったわ。こんなことってあるのね」
興奮気味にそんなことを言ってきた。大丈夫か、こいつ。
そんなことを考えていたら、雪菜が言い出した。
「それじゃ、まず売店に行きましょう」
ということで、やって来ました売店。
ここでは、文房具も売ってるし、制服や下着なども売っている。
「制服は私の予備を貸してあげるから、下着を買いましょう」
雪菜はそう言うと店員さんを呼んで、私の採寸をお願いしている。
ちなみに和樹は俺を眺めているだけだ。
私の近くに来た女性の店員さんに店内から見えない奥の方に連れて行かれた。
「それじゃ採寸するので腕を上げてください」
店員さんにされるがままに、胸やお腹やお尻のサイズを採寸される。
「はい。いいですよ」
そう言われ、店員さんと店内に戻っていく。
「サイズを考えるとブラと下着とインナーはこちらですね。色は白しかありませんが、よろしいですか?」
「・・・はい。それでいいです」
店員さんの言いなりになりながら、会計を済ませる。
合計金額が思ったより高かったのが、だいぶ辛かった。
「それじゃ、和樹くんはここまでね。空を制服女子にしてくるから楽しみにしててね」
女子寮の前まで行くと、雪菜は和樹にそう話しかけた。俺、女子寮行くのか・・・。
「よろしくね、雪菜」
「まかせなさい!」
そんなこんなで、女子寮の中に連行されていく俺。
入り口をくぐると、辺りには女子しかいない。まあ、当たり前か。
そして、雪菜の部屋の中に連れてこられた。
「なあ、雪菜?」
「何?空くん」
「ルームメイトっていないのか?」
「いるけど、今は部活中だから帰ってこないわ」
「そうか」
それならルームメイトと鉢合わせるようなことにはならないのか?
「それじゃ、体育着を脱いでさっき買ってきた下着を着てちょうだい」
そう言われ、着替え・・・られるか!
「向こう向いてくれないか?」
「えっ、何?恥ずかしいの?女の子同士なのに?」
ニヤニヤして俺を見てくる。こいつ。
「いいわ。向こう向いてあげる。だけど、多分ブラジャーは付けられないと思うけど」
そう言って雪菜が向こうを向いたのを確認すると、さっき買ってきた下着を取り出す。
体育着と下着をすべて脱いで、買ってきた下着をまず履く。
次に、ブラジャーを付けるのだが。
「どうやるんだこれ?」
そうつぶやくと、雪菜がこっちを向いてやってきた。
「やっぱりわからないでしょ?」
「わかってたまるか」
「まあまあ。教えてあげるから」
それから、ホックを付けるコツや、胸をカップに収めるコツだとか、色々と教わった。
「めんどうだな、これ」
正直な感想が漏れる。
「慣れればすぐに付けられるようになるわよ。スポブラだと簡単なんだけど、空くん胸大きいから、あんまり向いてないしね」
雪菜がそんなことを言いながら胸を凝視してくる。
「こっちみんな」
「いいじゃん。減るもんじゃないし。はい、これ制服」
そういって渡されたのが女子制服。
「これ着て良いのか?」
「うん。それ、予備の制服だけど、ぶっちゃけ制服なんて1着あれば十分だから」
「そうか」
ということで、女子制服を着ることにする。なんか女装してるみたいで違和感しかない。
「あれ、スカートがなんか緩いんだが」
「それは私に喧嘩売ってるの?」
「売ってないから」
なぜそうなる。
「スカートの内側の、そうここ。これがアジャスターでウェストの調整ができるから調整してみて」
「わかった」
ということでウェストの調整をしてみる。
「それにしても、私よりウェスト細いなんて。なんか負けた気分」
「なんだそれ・・・」
そんなこんなで、インナー、スカート、シャツ、ブレザーを着て、リボンを付けて完成。
「どうだ?」
雪菜に向いてみる。
「うん。いい感じ。というか美人ね、あんた。美人は滅べばいい」
「あの、雪菜さん・・・・?」
雪菜の変なテンションに気圧される。
「というのは冗談で」
「冗談なんかい」
「姿鏡なんて、この部屋にないから、スマホで撮ってあげる」
そう言うと雪菜はスマホをカバンから取り出し、俺の写真を撮った。
「どう?」
そう言って雪菜のスマホを覗き込むと、そこには可愛い制服女子がいた。
「可愛いな」
「でしょ」
その後、校舎の食堂で和樹、健斗、幹也と合流した。
「どうよ3人共。私の空ちゃんは!」
なぜか仁王立ちでドヤ顔の雪菜に紹介される俺。
「可愛い!すっごい。というか、やばいねこれ」
とか言いながら俺に向かってカメラを連射してる和樹。
「これは、いい」
などと言いながら舐めるように俺を見てくる健斗。キモい。
「本当に女子だな。凄い」
なんだか感心した様子の幹也。お前は平常通りで安心した。
「とりあえず、和樹。これで満足か?」
和樹に聞いてみた。
「いやいや。折角女の子になったんだからファッションを楽しまないと。でも、学園だと制服しか着れないね。うーむ」
なんか不服そうだった。
「そんなに女子のファッションに興味あるなら、お前も女装しろよ」
「空のは女装じゃないじゃん。僕が女の子の服着たら女装になるけど」
「和樹って私服だと女子に普通に間違われてるじゃん」
週末に学園外に出るときは私服で出かけるのだが、私服姿の和樹はよく女子によく間違われてる。
「うーん。それじゃ、僕が女装するから、一緒に女の子の私服で週末出かけてくれる?」
「なぜそうなる?」
「だめ?」
目をうるませてこっちを見てくる。こっち見んな。
「わかったから。いいよ、やってやる」
「やったー」
嬉しそうにバンザイする和樹。
はあ。押しに弱いな、俺。
そんなこんなのドタバタの後、俺は校舎の多目的トイレの中でスカートと下着を脱いでから、トランクスとスラックスを着て、上半身は裸の状態になってから男に戻った。そして、シャツと男子用のブレザーを着た。男子用のYシャツを女子の状態で着るのは胸がきついから、こんな風に1ステップ必要になった。めんどい。
男に戻ってから、男子寮に戻った。
その日は夕飯を食べて、風呂に入って、そのまま寝た。
なんか、昨日より疲れた気がする。
それも、精神的に。