戸惑い
眠い。寝たい。そんなことを思いながら、授業を受けていた。
黒板にチョークで書く音。
ページをめくる音。
シャーペンでノートに書き込む音。
そんな音だけが支配する空間。
現実味を失った世界。
俺は眠りについた。
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「あなたは、いつかあるべき姿に戻るの」
誰?
「身体は心を映す鏡。あなたはとても曖昧な存在」
女の人の声が聞こえる。
「あなたのすべきこと。それを見つけて」
とても暖かな、懐かしい存在。
何かに包み込まれている。
心地がいい。
ずっとここにいたいとさえ思ってしまう程に。
「きっとあなたなら大丈夫だから」
その言葉が聞こえたのを最後に、意識を失った。
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「キーンコーン、カーンコーン」
チャイムが聞こえる。授業が終わったみたいだ。
徐々に意識が戻ってくる。
さっきまで見ていた夢。よく覚えていないけれど、とても心地よかった気がする。
「なあ、空。食堂行こうぜ」
同じクラスの健斗に誘われる。もう昼休みか。お腹が空いているような気もするし、食堂に向かうとするか。
健斗と2人で食堂に向かう。
「空、眠そうだな。さっきの授業中も寝てたし」
「なんか今日はやたらと眠くてな」
「そうか。まあ、そういう日もあるよな」
道すがらそんな言葉を交わす。
食堂で健斗と昼食をとる。俺が頼んだのは、生姜焼き定食。健斗はカレーライスのようだ。
健斗と今日のことについて話してみる。
「これなんなんだろうな。病院行ったほうがいいのかな」
「病気じゃないと思うけどな。体質?」
「そんな体質あってたまるか」
「そりゃそうだな」
健斗はケラケラと笑う。他人事だからって・・・。
「さて、空。お前は男にも女にもなれるようになっただろ」
「まだ自由に切り替えられるかどうかわからないけどな」
「なら寮に帰ったら実験してみるか」
「まあ、いいぜ」
午後の授業も終わり健斗と部屋に帰ってきた。
「さて、始めるか」
「なんで乗り気なんだ、お前は」
何故か乗り気な、健斗。
「だって女体が見れるかもしれないだろ」
「もしそうでも中身は俺だぞ」
「それはそれ、これはこれ」
「意味不明だ」
というわけで、実験スタート。一度裸になって俺が男であることを確認してから、再び服を着た。
健斗が隣のベットに腰を掛けながら、ベッドに横になった俺を見守る感じだ。
「よし、始めてくれ」
俺は女になるように心の中で念じ始めた。すると強い眠気に襲われて、意識が落ちた。
少しするとぼんやりとしながらも意識が戻ってくる。
「おはよう。和樹」
「おはよう。空ちゃん」
「殺すぞ」
声が高くなってるな。
健斗がスマホで俺のことを撮っていてくれていたので確認する。体つきが丸みを帯びていき、胸が膨らみ、顔の形が女っぽく徐々に変化していった。
「なんだこれ」
「なかなか、すごいものを見たぜ。さて裸を見せろ」
「鼻息荒い。それと、きもい」
服を脱いでみると、完全に女の身体になっていた。
「これは女だな」
「わかるのか」
和樹って経験あったのか。
「ネットで見た」
「童貞め」
確認が取れたので、男になる実験を行った結果、身体は完全に男に戻っていた。
「なんか便利な身体だな、お前」
「何に使えばいいんだ」
「そりゃお前、やることと言ったら、まずは女湯に行くことだろ」
「まあ、そのうちな。今日は疲れたから早く寝たい」
「お疲れさん」
そんなこんなでその日は終わった。