第二章
バスワール学園は学園というよりギルドに近い。
どの授業に出るのかは基本自由、欠席しても厳罰はない。
そして申請をしたパーティーは教室一室を丸々借りることができた。
ティト達はユラスの指定した教室に揃っていた。
「ようし、全員来たな」
最後のミコトが到着したのを確認したユラスは顔を上げる。
「本当は来たくなかったんだけどねえ」
「ティト、もし来なかったらどうなるか分かっているよな?」
「アハハ……」
ティトのボヤキに対して満面の笑みを返したユラスは一呼吸、改めて全員を見渡す。
「さて、今日は昨日言ったとおり、俺がパーティーに入って戦闘を行う」
昨夜ユラスはパーティーに入ると言っていた。
「俺がリーダーだから命令には従ってもらおう。そして今回はミコト、俺に対して何か思うことがあれば意見を述べることを許可する」
「え? 私ですか?」
ミコトが自分の顔を指差す。
「そうだ、だから他のメンバーはまずミコトに言うように」
「……ずるくない?」
ティトが皆の疑問を代弁する。
「断わっておくがそれは輪番制だ。明日はまた別のメンバーをミコトと同じ立場になってもらう」
「まあ、それなら」
チャンスが公平なら不満は出にくい。
ティトはこれ以上何も言わずに着席する。
「一応基本陣形を決めておこう。俺が突っ込み、ティトはその護衛、ゼクシィはルッカとミコトを護ってルミコトは敵の足止めを意識しろ、そしてルッカは止めとして巨大な魔法をお見舞いしてやれ」
「……貴方が巻き添えを食うけど?」
「安心しろ、お前ごときに下手は打たん」
無用な心配だとばかりにユラスは笑って。
「それに、俺ごと葬る気で魔法を放たないと命のやり取りをする戦いでは役に立たん」
戦いの際、メンバーもろともやらなければ全滅してしまう場合もある。
その時に躊躇などすれば全てが無駄になる。
「ルッカが俺のことをどう思っているかは知らんが、俺はルッカが好きだぞ」
時には非情な決断を下さなければならない魔法使いとしてルッカは必要な素質を持っていた。
「……アルバーナさんって幼女が好きなの?」
「面白い冗談として受け取っておこう」
素敵な方向に勘違いしたルッカに対し、ユラスは強めの口調でそう打ち切る。
「まあ、習うより慣れよ、だ」
ユラスは締め括りに入る。
「醍醐味……までとはいかんが、パーティープレイの基礎を知ってもらおう」
ついてこい。
と、ユラスはドアに向かいながら四人にそう指示した。
戦う相手は前日と同じ。
変わったところはユラスが加入した点だけなのに全員、前日とは別人のような動きだった。
「ルッカとミコトを中心に組んだ円形陣!」
オオカミの群れと対峙したユラスは指示を出す。
「ティトは動きの止まった奴を、ゼクシィは向かってくるオオカミのみ! ミコトとルッカは術を、威力よりも速さを意識しろ!」
基本オオカミは徒党を組み、弱いものを狙って集団で攻めてくる。
この場合はルッカとミコト。
オオカミはユラスやゼクシィ、ティトを突破しようと向かってくるが。
「錆と消えろ」
「ざんねーん」
それを許す三人ではない。
しかも三人ともそれなりに強いため一撃でねじ伏せられる。
距離を取ったオオカミにはティトの矢が。
突進してきたオオカミにはユラス若しくはゼクシィの剣が。
離れたオオカミにはルッカとミコトの術が飛んでくる。
「ま、こんなものかな」
オオカミを退却させるのに五分もかからなかった。
「これがチームプレイだ」
「ふん、この程度ボクが一人だったら余裕で出来るし」
「それは私も同意見だ」
ティトとゼクシィは納得がいかないと口を尖らせる。
「じゃあ次はサイクロプスといこうか」
そんな二人の文句を受け流し、次にいく。
サイクロプスのような巨大生物を相手にする場合、肝要なのは強力な魔法を放つまでの時間を稼ぐこと。
ルッカが魔法詠唱を完了させるまでユラス達は注意を集めなければならなかった。
「俺が至近距離でサイクロプスを引き付ける。ティトは弓矢で、ミコトは神秘術で足止めしてくれ。そしてゼクシィは最後の砦、詠唱中動けないルッカを護ってくれ」
矢継ぎ早に指示を出すユラス。
一切よどみのない言葉にティトは安心感を覚える。
「リーダーが堂々として、的確な指示を出すと楽だよね」
「それは私も同感です」
何回もパーティーを組んだ経験のあるティトとミコトはユラスをそう評価する。
「あれがリーダーとして最低限の姿だと思うが」
「……当然」
パーティー経験の浅いゼクシィとルッカは首をひねる。
そんな二人にティトは優しい目で。
「うん、そっか。知らないならそれで良いんだよ」
「ええ、曖昧な指示しか出さず、危険に陥ったら真っ先に逃げる人がリーダーだった時の絶望は……」
「……うむ」
「……」
どうやら二人はパーティーについてトラウマを抱えているらしい。
パーティーを知らないゼクシィとルッカはこれ以上突っ込むのを止めた。
「お前ら、随分と余裕だな?」
戦闘直前に無駄話。
ユラスのこめかみに血管が浮き出ていたのは当然だろう。
サイクロプスも余裕をもって倒す。
特筆すべきはユラスの身のこなし。
「ティト、俺ごと射抜くつもりでやれ」
そう言われたものの、その場面になるとやはり躊躇が生まれる。
そしてその躊躇を見逃すユラスではない。
「おいこらティト。俺の指示を聞いていなかったのか?」
少しでも逡巡があれば容赦なく叱責が飛んだ。
「分かりましたよ、もう」
叱られたティトはユラスの望み通り、彼ごと射抜くつもりで放つ。
するとどうしたことか、当たる直前にユラスは見事な回避を見せる。
「上手いぞティト、その調子だ」
サイクロプスと戦いながらティトの矢に関心を払っているにもかかわらず笑うユラス。
その余裕の大きさにティトは感心してしまう。
「ゼクシィもあれぐらいの度量を見せてほしいよねえ」
思わずそう呟いた言葉がゼクシィの耳に入る。
「侮辱するな、アルバーナ殿にできたことは私にもできる」
ゼクシィはいきり立って噛みついてきた。
「おお、怖い怖い」
そんなゼクシィにティトは肩を竦めておどけて見せる。
「じゃあ今度練習してみようか」
「望むところだ」
売り言葉に買い言葉。
二人は後日の合同訓練を行うことになった。
最後にゴブリン。
これはもう説明する必要がない。
「適当にやっとけ」
あの時に負けたのは疲弊と苛立ちに加え、互いが互いの足を引っ張り合っていたから。
普通ならゴブリンに負けることはない。
各々が気の向くままにゴブリンを屠っていた。
「今日の報酬だ」
ユラスは金貨の入った袋をティト達の前に置く。
「結構多いね」
ティトは袋を手に持って重さを確かめる。
「そんなに狩った記憶はなかったんだけどなぁ」
実際ティトはあまり疲れていない。
深夜まで狩ると命令されても出来そうだった。
「パーティープレイの利点は疲労が溜まりにくい点だ」
各々が役割を与えられているため最小限の動きで済む。
加えてティト達の力量は学年屈指。
疲労が少なければその分多く狩れた。
「ほら、四人で分けろ」
「え?」
ユラスは金貨の入った袋をそっくりそのままティト達に押し付ける。
「ユラス先輩の分は?」
「いや、俺の分は良い。今回は俺からの祝いだ」
「もしかして中抜きしているとか?」
「ティト、お前は俺がそんな姑息なことをやると思っているのか?」
ティトの疑いの視線を受けたユラスは溜息を吐く。
「もしお前らがリーダーになった時は同じことをしろ。でないとメンバーの心が離反する」
リーダーは公平無私であり率先して動き、危険なことを引き受ける。
以上の三点を護って初めてメンバーから信頼を得られた。
「さて、山分けしたら何か食べに行くぞ」
ユラスは踵を返す。
「しばらくはフリーだ。何かあったら連絡する」
この二日間四人はユラスに拘束されていた。
四人とも何かしら犠牲にしてきただろう。
だからそれを修復してこいとユラスは四人を労わった。
定食屋にて、見かけによらずたくさん食べるルッカに張り合うゼクシィ。
ティトは色々なテーブルを回って盛り上がり、ミコトは残った料理の持ち帰りは可能か店員と女将と交渉している。
「お前ら、食いすぎで動きを鈍らせるなよ」
そんなユラスの苦言は後輩四人の耳に届いたのだろうか疑問だ。
とにかく、全員分を支払い終えたユラスは一人バスワール学園に向かっていた。
日もどっぷり暮れ、人の気配が全くないにも拘らず学園に足を運んだのはクエストの申請を行うため。
既定の書類に記入し、設置された箱に放り込む。
基本的に先着順なので早速ユラスは取り掛かろうとしていた。
学生会室で紙と格闘していたユラス。
ふと顔を上げると見知った人物がいた。
「カナンか」
人形のような無機物めいた美しさを持ち、加えて幼さを同居させた人物などカナン以外あり得ない。
「はい、その通りです」
ユラスの言葉にカナンはコロコロと無邪気な笑みを浮かべた。
「ユラスは本当にすごいですね。あれだけ意固地になっていた彼女達も貴方にかかればなすすべなく篭絡されます」
一年間独力で生きてきたティト達はその胸の内に多少ならずともプライドがあっただろう。
しかし、そんな代物はユラスの前にはあってないようになってしまう。
「フフフ、麗しい同級生だけでなく気難しい後輩まで手懐けるなんて……本当にユラスさんは罪づくりな人です」
「人を人たらしのように」
ユラスは手を止めずに続ける。
「断わっておくが俺は特別なことをしていないぞ?」
ユラスにしかできない手段を用いていない。
少しのカリスマと僅かな決断力があれば誰だって可能な手段だった。
「出来る人間は皆そう言うんですよ」
カナンは眩しそうに目を細めて。
「どれだけ力があろうと動かずにただ嘆いたり愚痴をまき散らすことしかできない人もいるんです……私やフレリアのように」
「……」
ユラスの記憶では確かに誘う前の二人は見てられない有様だった。
人生経験の少ないユラスでも分かる、あのままでは近いうちに悲劇が起きる--奇跡が起きてそれを免れ卒業しようとも囮か生贄にされるのが分かってしまうほど二人の立ち位置は危うかった。
「過去を振り返る必要はない」
冷たい口調でユラスは断言する。
「昔はともかく、今は学生会長として全学生の尊敬を集めるカナンに戦乙女として名高い英雄の子孫フレリアだ。そう、今は俺を必要と--」
言いかけたユラスの言葉が止まる。
それはユラスの意志でなく他人の意志--カナンによって口を塞がれたからだ。
「そこから先は禁句です」
カナンは人差し指をユラスの唇に当てながら続ける。
「貴方と私やフレリア達とは一蓮托生、コインの裏表のようにどちらが欠けることはあり得ない」
フワフワしていそうに見えてカナンは結構強かだ。
「私は『今』がとても居心地が良いのです。なのでそれを邪魔するような不届き者は--潰します」
破天荒で型破り的なユラスや直情的で感情を露わにしやすいフレリアの陰に隠れがちだが、三人の中で怒らせると最も怖いのはカナン。
その優しい笑顔の裏に抱えている闇を直視できるのはユラスを含めた僅かな人だけであった。
「何にせよ、あの四人に深く踏み込むことにはお気を付けください」
カナンは天使のような笑みを向けながら。
「可愛い後輩たちに勘違いさせるのは先輩として失格ですよ?」
カナンはを言外に告げる。
ユラスの居場所は自分達のパーティーだと。
それ以外の居場所はありえないのだと脅迫していた。
「あのなあカナン。お前はそんなに俺を信用できないのか?」
カナンの闇を受けながらもユラスは平然とした態度で。
「俺達は最高のパーティーだ。これまでも、そしてこれ以降もな」
前にも後にも学生会パーティーがユラスにとって最高のパーティー。
それは微塵も揺るぎがないことをユラスは宣言する。
「フフフ、安心しました」
カナンは唇の端を吊り上げる。
これ以上は無用だと判断したのかカナンは一歩後ろに下がる。
「それではユラスさん、良い夜を」
扉の前に立ったカナンは最後にユラスの方を向いて。
「叶うならば一日でも早く私達まで戻ってきてくださいね?」
と、残した。
ユラスが何か答える間もなくカナンは扉の向こうに消える。
残されたユラスが発した言葉は。
「よし、これで数日中にクエストが来る」
書き上げた書類の自画自賛だった。
「はぁー! 疲れた」
食堂にてティトは両腕を伸ばす。
「全くもうゼクシィ。忘れていると思ったのに」
ティトはぶつくさとそう文句を垂れ流す。
実はティト、午前にあった共同訓練をゼクシィと共に過ごしていた。
内容はもちろん二人での連携。
弓を扱うティトと刀が武器のゼクシィ二人で、同じくペアを組んだ他の学生との模擬試合を何度も行った。
「ゼクシィって最強と謳うに相応しいスタミナだよね」
ゼクシィは前衛としてほぼ動きっぱなしだったにもかかわらず、模擬試合が終わるとすぐに次の模擬試合を申し込む始末。
「まどろっこしい、四人いっぺんに来い!」
終盤でそう吠えたゼクシィの姿がティトの印象に残っていた。
「はあ、しんどいしんどい」
ティトは口ではそう言うものの、しっかりとゼクシィについていっている。
事実ティトは終盤まで弓の精度に狂いはなかった。
「うむ、やはりティトは他の軟弱者と違うな」
最後まで息が上がらなかったティトにゼクシィは上機嫌に彼女を褒めた。
「さてさて、今日はどこで食べようかな?」
適当にメニューを選んだティトは座る場所を探す。
「情報収集したいから他の人と食べさせて」
と、言ってゼクシィとは別行動。
ゼクシィは心外そうな顔をしたが譲れない。
基本一人、もしくは表面上の安い付き合いが好きなのである。
「どこがいいかな?」
と、適当なメンバーを探していたティトにある光景が目に入る。
「ルッカ、そんなに食えるのか?」
「……ん、問題なし」
それはユラスがルッカの前に並べられた料理の量を見て呆れていた様子。
「そんな小さな体のどこに入るのか」
ユラスは日替わりA定食を前にしながらぼやく。
ルッカは持参した弁当、それも鞄一杯のボリューム。
どう少なく見積もっても五人前はあった。
「おお、ルッカ殿にアルバーナ殿。ここにいたの……か?」
二人を見つけたゼクシィはルッカの食べる量を見て言葉が途切れ途切れになる。
「ああ、もしかしてアルバーナ殿と一緒に食すのか?」
「……いや、全部私の」
ゼクシィの願望を切って捨てるルッカ。
「うぬぅ、食は強さの基本。私もそれぐらい食べるべきか?」
何やら唸り始めたゼクシィにユラスは忠告する。
「おいゼクシィ。無理して食って動きが鈍くなったら本末転倒だぞ」
「しかし、こうも見せつけられると」
「お前は一体何と戦っているんだか……」
葛藤を始めたゼクシィにユラスは頭を振る。
「とりあえずゼクシィは料理を持ってこい。まずはそれからだ」
「うむ、分かった」
ユラスの言葉に昼食を取りに行くゼクシィ。
いつの間にか三人で取ることになっているがゼクシィは気づかない。
「何やってんの! ゼクシィ!」
遠くで見ていたティトが迷惑にならない音量で吠えた。
ゼクシィが席を離れて少し経った時、ミコトが現れる。
「あらら、みなさんお揃いで?」
相変わらず重そうな衣装だ。
遠目でも一発でわかる。
「おお、ミコトか。どうだ、お前も一緒に?」
手を挙げたユラスがそう誘うと。
「うーん、お誘いは嬉しいんですけど、今回は友人がいまして」
ミコトの後ろに二人の神秘科の学生が。
「ああ、そうか」
ユラスは一つ頷く。
表面上は納得したようだが本心は違う。
彼はミコトのことなら大抵のことを把握しているんだ。
「残念だったな、昼食を御馳走してようと思っていた--」
「ごめんミミちゃん、ユラちゃん。私、今日はアルバーナさんと食べる」
奢りを口にしたとたん勢いよく振り返って頭を下げるミコト。
数秒前と言っていることが違う。
「その変心は人としてどうなの?」
ティトの嘆きは当然ミコトに届かない。
「あら、それじゃあ仕方ないわね」
「うんうん、またよろしく、ミコト」
二人の友人もミコトの懐具合を知っているのか引き止めず、逆に笑顔で送り出した。
「いっぱい食べるのよー」
「そろそろつけを返してねー」
そして離れていくミコトの友達二人。
友人たちの素敵な笑顔にミコト以外どんな顔をしていいのか分からない。
「ミコト、お前なあ友人にたかるなよ」
「ユラスさん、そう仰っても装備の新調が高いんですよ」
十二単を纏った肢体を回転させながらミコトは続ける。
「この前頂いたお給金の大部分を修繕に費やしましたし」
「ミコト殿、修繕しなければならないほどあまり傷んでなかったはずだが?」
「ゼクシィさん、それでは駄目ですよ。どんな時でも神にお目見えしても恥ずかしくない格好しておくのが正しい神官です」
エッヘンと胸を張るミコト。
「……そなたが特定のパーティーを持っていない理由が判明した」
ゼクシィは納得する。
この様子では下手すると収入より支払いの方が大きくなる可能性がある。
威力は強いものの、学生で稼げる額などたかが知れており、それこそユラスのような有名パーティーにでも入らなければ赤字確定だった。
「……もしかして最初の時もそうだったの?」
「そうですよ、ルッカさん。あの時傷ついた衣服の新調代をユラスさんが出してくれました」
「加えて今まで溜まっていた借金を払った」
ユラスは皆の視線が集まっているのを確認したので付け加えて。
「学生会パーティーは学園最強だからな。その分、高報奨金の依頼も優先的に受けられるし、何より剣士はそれほど金を必要としないんだ」
粗野な様子のユラスだがティトやゼクシィが想像する以上の金を持っているらしい。
「断わっておくが俺にたかろうとするなよ?」
羨望の眼差しを受けたユラスは保険のためそう断わった。
「さて、都合の良いことに全員この場に揃っている。喜べお前ら、クエストが決まった」
ゼクシィの食事が良いところに入ったのを見計らったユラスはそう声を出す。
「軽く説明しよう--だからティトも来い」
「--!?」
突然の指名にティトは飛び上がりそうになる。
「早く来い、ティト。どうせならここで食べろ」
ユラスに手招きされ、動揺しながら向かうティトは考える。
(え? なんでばれた?)
振り返って考えてもユラスにばれるような真似をした覚えがない。
加えてレンジャー仕込みの気配消しを行っていたのになぜバレた?
「ティト、本気で言っているのか?」
ゼクシィは眼を見開き。
「……あれだけ存在感を出しておきながら」
ルッカも同調し。
「気づかないのは余程の鈍感者ですよ」
ミコトも異を唱えない。
そして最後にユラスがとどめを刺す。
「お前は一人でいたいのかもしれんが、無意識でこのパーティーに居場所を見つけているぞ?」
だからこんな結果になる。
と、ユラスは締め括る。
「う~」
ユラスの説明にティトはどう反応していいのか分からず、ただ唸り声を上げる。
「違う違う、ボクはそんなことは全然思っていない!」
それを払いのけるようにティトは大きな声でユラスに反対した。
余談ながらユラス達がいるテーブルより離れた場所にて二人組がいる。
一方は女神のように穏やかな笑みを浮かべているのだが、もう一方は修羅の如く危険極まりない表情を作っている。
元の形が整っている分、その相貌は鬼気迫るものを周囲に与えている
「フレリアさん、落ち着きましょう」
穏やかな笑みを浮かべている女性--カナンは般若顔のフレリアをそう窘める。
「ああしてパーティーの交友を深める行為は基本中の基本でしょう?」
一般にパーティーは命を預け合っている仲なので日々のコミュニケーションが重要になる。
共に食事をとるのは可愛い方、場合によっては寝床を共にすることもあった。
「それは、分かっているけど!」
フレリアは唸り声を上げる。
理性ではわかっているけど感情が納得していないのだろう。
「フレリアさん、気持ちはわかりますがもう少し抑えましょう。周りが怖がっていますよ?」
混んでいるはずなのに二人の周囲は空席が目立つ。
冒険者の卵として鋭敏な直観を持つ学生は危機を察知して回避していた。
「動揺はカナンもしているじゃないの?」
フレリアは紅茶をかき混ぜている手に視線を当てて。
「それ、もう空よ?」
「あら、いけない」
すでに飲み干しており、何も入っていないにもかかわらずスプーンでかき回していたカナン。
キッキッキっという音が嫌に耳に付いた。
「それに、フレリアの懸念はそろそろ晴れると思います」
ニコニコと満面の笑みを崩さないままカナンは告げる。
「ユラス達が受けるクエスト、実は--」
そこだけフレリアに聞こえるよう小声になるカナン。
「はっ」
それを聞いたフレリアは軽く笑う。
「カナンって見かけによらず悪魔ね?」
そんなフレリアの称賛にカナンは涼しい顔のまま。
「目的のために手段を選ばないのは当然です」
と、そんなことをのたまった。