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バスワール学園  作者: シェイフォン
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第一章

「よし、決まった」

 顔を上げたユラスは何かを決める。

「お前ら、俺は学生会をしばらく休むぞ」

 突然の休会宣言。

 それにはこの学生会室に集っていたメンバー全員を唖然とさせる。

「今日休みの二人もそう伝えておいてくれ、ユラスは学生会を休会するとな」

「ちょ、ちょっといきなりなんてことを言ってんの!?」

 まず初めに抗議するのはユラスと同じく副会長の三年魔法科専攻のフレリア=ヴァルキュリア。

 金髪碧眼に学生離れしたプロポーションを持つ彼女はまるで神話に登場する戦乙女のよう。

 実際彼女の前に立ち塞がる輩は例外なく消し炭になっている。

 それほどまでフレリアはけた違いの魔力を内包していた。

「学生会を辞めるって、そんなことが許されるわけがないでしょ!?」

「辞めるとは一言も言っていない。少しの間休むだけだ。具体的には長期休暇明けの前後、大体三、四ヶ月ぐらいだな」

 現在は六月の中旬であることを鑑みるとユラスが戻ってくるのは九月まで。

 三分の一を抜けるというのは結構長い。

「長すぎるわよ! 認められないわ!」

 フレリアは聞く耳持たないとばかりに反対する。

 彼女の感情の高ぶりに反応してか周囲の温度が上昇し、チリチリと音を立てる。

「ちょっと待て、フレリア。落ち着け」

 普段は礼儀正しく、毅然と対応するフレリアだが一度スイッチが入ると鬼神の如く反応し、拒絶反応を示す。

 彼女自身の力も相まって周囲一帯が灰塵と化した例も珍しくなかった。

「嬉しいねフレリア。まさかあれほどまで毛嫌いしてこの学生会をそこまで好いてくれるなんて」

 ユラスは唇を歪めて話題をそらす。

 フレリアは一昨年、ユラスが勧誘という名の脅迫によって学生会に入会した経緯を持つ。

 そのため当初フレリアは乗り気でなく、いつも辞める辞めると叫んでいた。

「感動ものだな、俺はとても嬉しいぞ」

 うんうんと頷くユラス。

 その仕草にフレリアは顔を真っ赤にしながら吠える。

「その言い方は卑怯よ! ここまでやったんだから責任を取りなさい!」

 素直ではないフレリア。

 口では辞めるというものの、実行に移すことはない。

 フレリアはすでにこの学生会が自分の居場所だと考えていた。

「ユラスさん、わけを聞いてもよろしいでしょうか?」

 ヒートアップし続けるフレリアを制止するのは第三者の声。

「まずそれを伺ってから判断します」

 部屋の最も奥にあり、最も豪華な椅子に座る者からの言葉。

 学生会長--三年神秘科専攻のカナン=クルセルス。

 赤毛の彼女は幼く、どう見ても十代前後にしか見えない。

 しかし、柔和な笑みを浮かべるカナンからは全てを受け入れる母性のような雰囲気を醸し出し、彼女がいるだけで周囲が癒されるようだった。

「ああ、良いぞ」

 カナンの言葉に一つ頷いたユラスは口を開く。

「実はな、こいつらとパーティを組むと決めたんだ」

 ユラスが差し出した四枚の紙。

 そこには学生の個人情報が記されていた。

「この二年生の四人を見てどう思う?」

 フレリアとカナンがどんな答えを出すのか、己の意図に気づくかどうか考えたユラスは笑う。

 が、ユラスの期待とは裏腹に返ってきたのが。

「全員女性ね?」

 そう目くじら立てるフレリアに。

「しかも美少女と美女とは。とても悲しいです」

 カナンは目頭を押さえる。

「おいコラ。大魔導士の子孫と王族、そんな低劣な答えを返すな」

 引き攣った顔でユラスはそう抗議した。

 フレリアは昔、一人で千人もの兵を壊滅させた大魔導士の子孫で、カナンはとある国の王の血を引いている。

 魔法は血統も重要なため、二人はこれ以上ないほど恵まれているのだが。

「そんなこと言われてもねえ」

「その通りです」

 フレリアとカナンは顔を合わせて首をかしげる。

「ご先祖様は有名だったそうだけど、今は没落してただの魔導士よ」

「私も存在を認められていない私生児です」

 二人のおしゃべりは続く。

「このバスワール学園に入学したのだって単純に糧を得るためだし」

「体を売るか、それともここに入学するかと問われれば迷いませんよ」

 どうやら二人とも壮絶な過去を持っていそうだ。

「……その話はまた今度にするぞ」

 話題からどんどんそれてきたのでユラスは修正する。

「この四人は去年入学してから今まで特定のパーティーを組んでいないんだ」

 バスワール学園は戦う学園という性質上パーティーを組むことが推奨される。

 学園創立から続いているパーティーもあれば昨日誕生したパーティーまで大小様々。

 新入生は入学してから一年以内にどこか特定のパーティーに所属するのが常である。

「彼女達は入学してから特定のパーティーに所属していない」

 パーティーを組まない選択肢もあるが、それだと危険度が跳ね上がる。

 クエストの受注や自主訓練の幅が狭まってしまう。

 それでもなお孤高を貫いても構わないが、そういう学生は強くならず、学費が払えなくなって退学になるかまたは無理なクエストを受けて死ぬ。

 いくら戦闘に秀でているといっても新入生は未熟。

 独力でやっていけるほどこの学園は甘くなく、そして世界も厳しい。

「だが、彼女達は残っている」

 そんな掟を逆らうように彼女達は学園に残り、結果を出し続けている。

 もし団結すればどこまで伸びるか。

 ユラスはその可能性を想像すると胸がいっぱいになった。

「俺やフレリアでさえソロは不可能だった。しかし、彼女達はソロで生き抜いている」

 現時点ならともかく、二年時点という実力では彼女達に軍配が上がった。

「もし彼女達が団結するとこのバスワール学園で最強パーティになるのではないか? 俺達学生会以上にな」

「へえ」

「面白い冗談ですね」

 ユラスのその一言にフレリアは犬歯をむき出しにし、カナンは笑いを隠すように口に手を当てる。

 実はユラス達学生会のパーティーはバスワール学園の中で最強。

 古参新参問わず学生会のパーティーには敵わない。

 史上最強と謳われるこの学生会を脅かす可能性を持つのはこの四人が組んだパーティーかもしれないとユラスは言う。

「俺としてはこの四人が団結したところを見てみたい」

 ユラスは繰り返す。

「その光景は俺達をさらにわくわくさせるからな」

 強者と戦い、打ち倒す血沸き肉躍る生活。

 その時の瞬間をもう一度味わえる可能性がある。

「まあ、そこまで言うのならいいんじゃない?」

「そうですね、異存はありません」

 フレリアもカナンも乗り気。

 二人とも強者と鎬を削ることに快感を覚える性質のようだ。

「それじゃあ、行ってくる」

 ユラスは何の気なしにそう言って立ち上がる。

「一応学生会には在籍しているから、なんかあったら連絡をくれ」

 そう言い残したユラスは振り返らず、大股でこの場を去ろうとする。

「ユラス」

 ユラスの背中に語り掛けるのはフレリア。

「私達は最高のパーティーです」

 そして後を引き取るのがカナン。

「ああ、俺達は最高で最強のパーティーだ」

 二人の言葉にユラスは右拳を挙げて賛同を表した。


 ユラスはとある一室にて書類に目を通していた。

 書かれている内容はこれからパーティーを組むメンバーの個人情報。

 すでに頭に叩き込んでいるのだが、最終確認のために読み返していた。

 コンコンコン

「いいぞ」

「失礼するよ」

 ノックの音が響いたのでユラスが答えるとドアが音もなく開く。

 行動しやすいよう赤茶色の髪を短く揃え、男か女か一瞬判断に迷う中性的な顔立ち、鳶色の瞳には悪戯子っぽい光が宿った少女はまるで陽気な道化師だった。

「ティト=ルルファスで間違いなかったかな?」

 ユラスは脳内で少女と合致する人物の名前を出す。

「うん、そうだよアルバーナ先輩」

 ティトと呼ばれた少女はユラスの問いに頷いた。

「しかし、大分早く来たな」

 ユラスは時間を確認する。

「集合時間まで三十分もあるぞ」

「アハハ、それはレンジャーとしての性分かな」

 ティトは快活に笑いながら。

「レンジャーたる者、危険は最優先に察知するべし。下見はもちろんのこと、会う人物の素性も調べておかないとね」

 ティトはレンジャー科に所属している。

 索敵を主軸に置くレンジャーは常に周囲を警戒し、窮地に追い込まれるのを防ぐ役目を持つ。

 ティトもそんなレンジャーの端くれゆえに、お気楽そうに見えて実はこれでもかというほど周到な準備を重ねていた。

「メンバーが揃うまでまだ時間がある」

 だから座って待っていろとユラスは告げるのだが。

「あ~、アルバーナ先輩。そのことについてなんですけど」

 ティトはドア付近から動かず、困ったように頬をかく。

「パーティー参加の件、ボクは無理かな」

 はっきりと辞退を口にした。

「ボクの資料を読み込んだアルバーナ先輩だったら分かると思うんだけど」

「特定のパーティーを組まない、組んだとしても一回こっきりの『便利屋ティト』だったな?」

「そゆこと」

 ティトはぐっと親指を立てる。

「だからボクのことは諦めてくれると嬉しいんだけどなぁ」

 言葉こそ丁寧だが本心は固い。

 ティトはユラス達とパーティーを組む気がなさそうだった。

「……」

 ティトの言葉を聞いたユラスは音もなく立ち上がる。

「っ、なにかな?」

 ティトが怯えた声を出すのはユラスが無言で向かってきているから。

 己の命だけでなく、他人の命を背負いながらいくつもの修羅場を越えてきた者のみが持つ眼光、気迫。

 要領よくその場をその場を凌いできたティトに受け止められるはずがなかった。

「と、いうわけでアルバーナ先輩。失礼しま--」

 ドン!

 ティトがドアを開けるより早くユラスはドアを叩いて動かなくした。

 ユラスは前かがみになっているため二人の顔は互いの息を感じ取れるほど近い。

 ユラスの表情はほとんど変化がなかったが、ティトは彼の覇気にあてられて余裕をなくしてしまった。

「--で、何事もほどほどで要領よく生きて行こうってか?」

 ユラスはティトのボーイッシュな顔を覗き込む。

「命を危険に晒さず、落第させられることもないほどほどの位置にいるのは確かに楽だ。けどな、ティト。お前はこの一年何をしてきた? 印象に残ったことを一つでも挙げれば何も言わず解放しよう」

 互いが首を伸ばせばキスできそうな距離でそう告げられても碌な答えなど出てくるまい。

 実際ティトはあらゆる可能性を吟味して対策を練っていたが、ユラスの強烈なアタックは全ての対策を水泡に帰し、残るは本音だけであった。

「ええと、それはね……」

 ティトは言葉に詰まる。

 曲がりなりにもバスワール学園で一年を過ごしていたのだから思い出の一つや二つある。

 しかし、それらの思い出はユラスの目の前で言えるほど大したものでなかった。

「何もないようだな」

 ユラスはティトの頬をその武骨な指でなぞる。

 他人の指で頬をさすられるなど嫌悪でしかないが、ティトは不思議と心地よいのを覚える。

「賭けは俺の勝ちだ。だからお前はこのパーティーに入ってもらおう」

 そう告げたユラスはパッと離れ、元の席に着いて再び書類に目を向ける。

 先ほどの覇気はどこへやら、夢だったのかと思うほど残滓すら残っていない。

「ちょ、ちょっと酷いよアルバーナ先輩!」

 自由になったティトは眼を白黒させた後、猛然と食って掛かる。

「ボク、そんな脅しに屈しないからね。アルバーナ先輩が何と言おうとボクは一人が良いよ」

「文句は後で聞いてやるから席に着け。そこに立っていると他のメンバーの邪魔だ」

 ティトの抗議などどこ吹く風、ユラスは視線すら上げない。

 修羅場を得ていないティトの抗議はまるで子供の我がままの如く軽かった。

「だからアルバーナ先輩--」

 それでもティトは身振り手振りも混ぜて伝えようとしたが。

「……」

「っひ!」

 ユラスが書類から目を離す動作だけでティトの頭は真っ白になった。

「席に着け」

 二回目の言葉。

 ティトはこれ以上逆らわず、渋々ながらも適当な席に腰を下ろした。


「失礼する」

 次に入ってきたのは礼儀正しい武人。

 長いストレートの黒髪に黒い目、一流の彫刻士が彫ったかのような彫りの深い顔立ちは彼女を別次元の存在だと思わせる。

 高身長にメリハリのきいたボディも威圧感を与えるに一役買っていた。

「ゼクシィ=マイスターだったかな?」

「その通りだ、アルバーナ殿」

 彼女--ゼクシィは全身を使って不機嫌であることを訴えている。

「俺の名はユラス=アルバーナ。パーティーのリーダーだ、よろしく」

 ただユラスはそれを知ってもなお泰然と対応していた。

「まだ時間まで五分ある」

 ユラスは時計を確認する。

「全員が揃うまでそこに座って待っていてほしい」

 そしてユラスは適当な席を指差すがゼクシィは動かない。

 眼に怒りをため、敵を見るかのように睨み付けている。

「「……」」

 ユラスの興味はすでにゼクシィにないので、彼女にどう思われようが構わない。

 ゼクシィはボールを投げつけてしまったのでユラスの返答を待つしかない。

 しばし、重苦しい沈黙が教室中に満ちる。

「それがアルバーナ殿の答えか」

 ゼクシィは腰に携えていた長剣を抜き、その切っ先をユラスに向ける。

「アルバーナ殿、まだそのような無礼な態度を取るつもりなら相手しよう」

 よく手入れされた剣がギラリと光る。

「……っは」

 ユラスは顎に剣が添えられ、ようやく彼は顔を上げる。

「強引なまでに猪突猛進、強さをかさに着て強引に意見を押し通す……なるほど、誰もパーティーに誘わんわけだ」

 ユラスは右手で剣先を掴み、軽く下にやる。

「何とでも言うが良い。私は最強だ、なれ合いなど好まん」

 ゼクシィは断固たる口調で言い放つ。

「さすが去年の剣士科での大会での優勝者は違うな」

 年に一度開かれるお祭りというの名の戦い。

 三年合同で行われる大会においてゼクシィは上級生を差し置いて優勝している。

 つまり誇張でもなくゼクシィはバスワール学園において最強の剣士であった。

「クツクツクツ、なれ合いねえ。が、一般論になるがゼクシィ、一人で出来ることなどたかが知れてるぞ?」

 ユラスの挑発的な物言いは続く。

「この前も格下の剣士が徒党を組んで襲い掛かられた時、何もできずに負けたそうだな」

「っ、それは!」

 ゼクシィの急所を突いたのか彼女は眼をむく。

「あいつらが卑怯なのだ! 一対一で敵わないからと集団できて……あんなのは無効だ!」

 ゼクシィにとって屈辱の記憶なのだろう、余裕がなくなっている。

「まあ、俺はその現場にいてないし、また聞きだからこれ以上は突っ込めない。ただ、一般論としてお前は負け続けるぞ? 何せゼクシィの必勝法は多数で襲い掛かればいいのだからな」

「……」

 ユラスの言葉にゼクシィは唇をかむ。

 彼の言葉は的を得ている。

 己は常に一人であるがゆえ、数を揃えるという戦法は理に適っている。

 ならばこちらも徒党を組めばいいのだが、果たしてそれで良いのかと自問している。

 ゼクシィという存在を集団の中に没し、己を曲げることはゼクシィの中の何かが許さなかった。

「One for all. All for one という言葉を知っているか?」

 いつの間にかユラスはゼクシィとの距離を歩幅半歩分まで詰めていた。

「っ」

 ユラスに接近を許したゼクシィは舌打ちして離れようと考えるが。

 ガシッ!

「逃げるな」

 それより先にユラスはゼクシィの顎を掴む。

 当然ゼクシィは手を払いのけようとし、そして機先を制したユラスは続ける。

「ゼクシィはゼクシィのままで良い。ゼクシィがいるパーティー、そしてパーティーにゼクシィありと思わせるのはどうかな?」

 ユラスの確信に満ちた言葉がゼクシィ動きを止める。

「約束しよう。このパーティーに入ればお前の足りなかったもの埋めると」

「……」

 ゼクシィ自身、ユラスのような強引な勧誘を受けるのは初めてなのだろう。

 異性に顔を掴まれ、勧誘を受けるという特殊な状況にゼクシィはすっかり混乱し、ユラスの甘美な誘いにいつの間にか頷いていた。

「やってくれるねえ本当に」

 離れて見ていたティトがポツリと漏らしたその言葉は誰の耳にも入らなかった。


「……失礼」

 ゼクシィが席に着いてすぐ、門限時間ピッタリにドアが開いた。

 現れたのは小柄な少女。

 中等部かと思われるほど童顔なカナンよりも上を行く、初等部と表現して差し支えないほど幼い少女。

 誰よりも小さい百三十センチ台の身長に青いおかっぱ頭。

 ただ、初等部してはその大きな瞳に浮かぶ色に暗い影を落としていた。

「ああ、よく来たなルッカ=エデン」

 ユラスは三人目の名前を呼ぶ。

「時間通りだがまだもう一人来ていない。だから座って待っていてほしい」

「了解」

 ルッカはさして反抗することなくユラスの言葉通り適当な席に着く。

 そして何をするまでもなく、スイッチの切れた人形のように待っていた。

「--って、なにこの子!?」

 これで終わりかと思いきやティトが立ち上がって叫ぶ。

「どうしてこの状況に何も思わないの? 少しは反抗してもいいんじゃないルッカさん!?」

 どうやらルッカがユラスに何も抗議していないことがティトの気に障ったらしい。

「……別に」

 ルッカはそんなティトをチラリと見て。

「どうせすぐに私を拒絶する」

 おもむろに彼女は長袖をまくり、一の腕まで露出した。

 何をするのかと全員の注目が集まったその時、腕が奇怪に変化し始める。

 初等部のような柔肌だった腕が紫色に変色し、裂け目が至る所に生まれる。

 そして裂け目は二通り--目と口に変化した。

 人間とは思えない異常な変化。

 ティトもゼクシィも思わず目をそらした。

「ルッカ=エデンは魔物と人間とのハーフだ」

 そんな中、ユラスは全く動じず続ける。

「かなり高位の魔物だったらしくてな、寿命も魔力も人間とははるかに違う」

 何の魔物とのハーフかは割愛する。

 大事なことはルッカは人間でないことだ。

「……何も思わないの?」

 ルッカは首をかしげる。

「まるで見慣れているよう」

「いや、初めてだ。だがな、どんな姿形であろうと俺はルッカから目をそらさんぞ?」

 満面の笑みを浮かべながらそう宣言するユラス。

「……そう」

 その反応にルッカはどう反応していいかわからず、ただ肩を竦めた。

「ふむ、当初は驚いたがよく見るとそんなに目くじら立てるまでもない」

 気を取り直したのかゼクシィは頷く。

「誰だって違いの一つや二つはあるものだ、そこを責めてもどうにもなるまい」

「いやいや! その理屈はおかしいよ!」

 ゼクシィの言葉にティトはそう反論してくるが彼女は涼しい顔のまま。

「ハーフという程だからルッカ殿は強いのだろう?」

「……少なくともこのバスワール学園においては魔法で一番」

 人間より強い魔物の血を引いている以上それは当然だろう。

「だったら問題ない、強者は全てが許される」

 どうやらゼクシィにとっての判断基準は強いか否か。

 相応の力量があるのならある程度の無茶も許容できるらしい。

「まあ、そうなんだけどさあ」

 なおもティトはブツブツとふてくされて表情で。

「信用できるのかな?」

 ティトの判断基準は信用するに値するか否か。

 真意を見せない相手と組むのを臆するらしい。

「俺からすれば一番本心を見せていないのはティトだぞ?」

「アハハハハハ……」

 ユラスの指摘にティトは乾いた笑いしか漏らせなかった。


 五分後。

「すいません遅れましたぁぁ~」

 情けない声とともに駆け込んできた一人の少女。

 ユラスと同じ黒目黒髪だが、人種の違いなのか彼とまるで違う印象を与える。

 丸っこい小さな顔に低い鼻、白い肌は異国を思わせる。

「神秘科所属の四年、ミコト=サクラヤ。ただいま到着しました」

 びしっと音が鳴りそうな敬礼をするミコト。

「次から気をつけろよ」

 ユラスは軽くそう返すが、他の皆はミコトの姿を凝視している。

 何しろその姿がおかしい。

 異国風の着物を何重にも纏い、草鞋に足袋といった見慣れない服装。

 どう考えても動くのに向いていなかった。

「ええと、ミコトさんだっけ」

 この場を代表してティトが手を挙げる。

「その恰好……重くない?」

 赤、青、黄、橙等々……一体何枚着ているのだろうか。

「ああ、これは十二単という装備でして。十二枚の着物の材質と模様で神秘術の増幅効果があるんですよ」

「十二枚……」

 思わず顔を引きつらせるティト。

「そんなに着こんで動けるのか?」

 これはゼクシィの質問。

 今でさえ着物の下がずっているのだ。

「移動については問題ありません。浮きますので」

 ミコトは何やら印を構えると彼女の体が浮く。

「……浮遊術」

 ルッカがミコトの現象を説明する。

「風の精霊と大地の精霊、二柱の力を借りて体を浮かせる魔法」

「ん~、その解釈は間違っていますね」

 ミコトはちっちと指を振って。

「全能なる神への祈りが浮遊の奇跡を起こすんです。そんな多数の下級神に祈りません」

「……浮遊術の常時発動は相応の負担を強いるはず」

 寡黙で無表情なルッカの気質なのか彼女はミコトの挑発を黙殺する。

「フフフルッカさん、無視とはいい度胸です。けど私は寛大な心で許し、疑問に答えましょう。私の許容神力は膨大、私一人の体を長時間浮かせるぐらい何ともありません」

「魔法や神術を扱うには持って生まれた資質が大きく左右するからな」

 ユラスがティトやゼクシィに補足する。

 英雄の子孫であるフレリア然り、王族の血を引くカナン、魔物との忌子ルッカ、魔法科および神秘科に所属する学生は全員先天的な資質によるところが大きい。

「ちなみにミコトは突然変異、こういう場合もある」

 ただミコトの場合は例外であり、何の変哲もない家系出身だったが何故か強大な力を保って生まれてきていた。

「けど、詠唱中は動けませんけどね」

「え?」

 サラリとミコトは重大な発言をする。

「ねえ、確か神秘術は基本パーティーの能力の底上げのため、ずっと詠唱するよね?」

 神秘術は敵を混乱・麻痺や味方の能力上昇、そして治療等援護が主。

 その間術者は詠唱を続けなくてはならないのがネックである。

「はい、なので私の二つ名は固定式灯台です。詠唱中は全く動けないので」

 ミコトは全く悪びれもせず堂々とそう言い切った。


「さて、全員がそろったようだな」

 ミコトを座らせたユラスは教壇に立ってぐるりとパーティーメンバーを見渡す。

「まず自己紹介を始めよう。俺の名はユラス=アルバーナ。剣士科三年専攻、長剣を扱うのが得意だ」

 簡潔に挨拶をしたユラスは次を促す。

「ええと、ティト=ルルファス。レンジャー科二年専攻、基本何でも使えるけど、やっぱ弓が得意かな」

 ティトは弓を弾く動作を見せる。

「ゼクシィ=マイティハート。剣士科二年専攻、刀を扱う」

 ゼクシィは腰に差した獲物を軽くあげてその存在を主張した。

「ルッカ=エデン。魔法科二年専攻、得意魔法は闇」

 闇属性である魔物の血を引いているルッカは左手に軽く闇を生み出す。

「うわわ! ルッカさん気を付けてください。コホン、私の名はミコト=サクラヤ、神秘科二年専攻、光で相手を滅すのも仲間を癒すのも可能です」

 多少慌てたミコトはすぐに調子を取り戻し、右手を胸にあてて自慢した。

「自己紹介は終わったな。で、俺としてはパーティー結成の旨を申請したいところだが--」

 ユラスは意味ありげにメンバーを見渡して。

「お前らは全然納得していないだろ?」

「当然」

「然り」

「……うん」

「その通りです」

 言葉こそ違えど全員同じ意味の否定。

 まあ、彼女達はユラスによって強引この場に集合させられたので当たり前といえる反応だろう。

「クツクツクツ、素直でよろしい」

 ユラスはのどを鳴らした後。

「だから一つ賭けをしよう。もしこれに負ければパーティーから抜けても良い」

「良いのか?」

 ゼクシィが片眉を上げる。

 パーティーをぶち上げると宣言した割には妙にあっさり過ぎやしないかと、ゼクシィは思う。

「別に構わんぞ」

 ユラスは自信満々に約束する。

「よし、ならもう安心だ」

 賭けの内容を聞いていないのにもう勝った気でいるゼクシィ。

「ちょっとゼクシィさん。その考えは安直過ぎない?」

 ティトがゼクシィを制止するが彼女は聞かない。

「私が本気を出せば大抵のことは何とかなる」

 どうやらゼクシィは自信過剰のようだ。

「そうです! 私に秘められた真の実力を解放すれば障害の一つや二つ、何のその!」

 ミコトがそれに乗っかる。

「おお、良くわかっているなミコト殿」

「はい、その通りですゼクシィさん!」

 ゼクシィとミコトは固い握手を交わした。

「なにこの流れ?」

「……理解不能」

 慎重組であるティトとルッカが呆れたのは言うまでもない。

「まず賭けの内容を聞くよ」

 ティトはそうユラスにそう断わりを入れる。

 強制権が発生する以上、内容を確認するのは当然である。

「けど、どんな無理難題を出されたところで私達って断れませんよね?」

「「……」」

 ミコトのボヤキに常識組のティトとルッカは何も答えられなかった。

「まあ、そんなに固くなることはない」

 ユラスは安心させるように笑みを作って両手を広げる。

「俺が示す条件はただ一つ--チームワークを見せてくれればよい」

「チームワーク?」

「そうだティト。どんな相手でも良いからチームワークで戦い、勝てばパーティーを自由に脱退してもいいだろう」

「なに? そんな簡単な理由でいいの?」

 ティトは拍子抜けといわんばかりに脱力する。

「そんなの朝飯前だよ」

 常に新参者として戦ってきたティトには経験があった。

「うむ、私も大丈夫だ」

「わ、私も友達と組ませてもらっていました」

 ゼクシィやミコトも乗り気。

 この三人はもう課題を達成した気になっていた。

「……」

 が、ただ一人、ルッカだけは人形みたいな顔に焦りの色を浮かばせている。

「ほう」

 それを目ざとく見つけたユラスはルッカにしか分からないよう一瞬だけ鋭い笑みを浮かべた。


 そのままユラス達五人は学園を出て適当な相手と戦う。

 ティト達はユラスに夕飯をごちそうしてもらおうと考えていた。

 最初に出会ったのはオオカミの群れ。

「ゼクシィ! 突っ込まないで!」

「くそ! ルッカ、魔法でオオカミの動きを止められないか!?」

「……ミコト、神秘術が切れた」

「ルッカさんそれどころではありません! オオカミが近寄っています!」

 と、オオカミの素早い動きに翻弄され、結局は個人プレイに終わった。

「分かっていると思うがさっきのはチームプレイとは言わんぞ?」

「「「「……」」」」

 ユラスのからかいに全員が恨みがましい目を向ける。

 次ははぐれ者のサイクロプス。

 三メートルを越える巨体を持っているが、動きが遅いので初心者パーティーにはもってこいの相手。

 だが、しかし。

「ゼクシィあまり動かないで! 狙いがつけられない!」

「そういうティトこそ弓を止めろ! さっき私に当たりかけたぞ!」

 ティトとゼクシィが怒鳴り合う。

 前衛たる二人が役立たずだということは必然。

「……ミコト、逃げる」

「わわわ、こっちに来ています!」

 後衛のルッカやミコトは格好の的になってしまうので戦線離脱した。

「何やってんのお前ら?」

「「「「……」」」」

 自滅に近い結果にユラスの声には軽い陽気さが混じっている。

 他人の不幸は蜜の味。

 そして最後--ゴブリン。

 戦闘職であるバスワール学園生でなくとも倒せる魔物。

 一人前なら一人で数十匹のゴブリンを切り伏せるほど弱い相手--なのに。

「だからなんでゼクシィはボクの命令を聞いてくれないんだよぉ!」

「ティトの言うことを聞くことは的になれと同義語だ!」

 軽いミスで二人はののしり合いを始め。

「……ミコト、大丈夫?」

「ぜぇ、ぜぇ……まだまだ、大丈夫、です」

 体力と魔力や神力が尽きかけたミコトをルッカは庇い、それどこではない。

「ゴブリンに負けるパーティーなぞ前代未聞ではないか?」

 あまりの惨状に見かねたアルバーナが乱入し、ゴブリンを全て切り伏せてそう言い放った。


 すでに日が落ち、建物に明かりが灯る黄昏時。

 ユラス達の姿は学園の宿舎にあった。

「賭けは俺の勝ちでいいかな?」

 ユラスの勝利宣言が肌寒く聞こえる。

 誰から見てもチームワークが皆無のパーティー。

 ここまでいくと清々しいほどである。

「では、今回のパーティーの反省点を述べよう」

 皆の意気消沈を無視するようにユラスは黒板に向かう。

「皆、大分塞ぎ込んでいるようだが気にすることはない。この構成なら失敗しても仕方ない」

「え?」

 ユラスの言葉にティトが顔を上げる。

「ティト達四人組パーティー……剣士にレンジャー、魔法使いと聖職者という組み合わせはパーティー編成においても余程の上級者でなければ成り立たない」

 初心者四人組パーティーなら剣士三人に聖職者一人。

 前衛の剣士三人はとにかく後衛の聖職者に敵を近づけないことに専念する。

 若しくはレンジャー一人に剣士二人、そして聖職者。

 聖職者が剣士とレンジャーに能力を強化する付与魔法をかけて一気に畳みかけるのもあった。

「まあ、本当の初心者は四人パーティーなどまず組まんがな」

 四人パーティーは邪道。

 普通は五人パーティである。

 何故五人パーティーなのかというと、それは神の加護が関係している。

 補助魔法有効人数は最大で五人。

 それゆえパーティーの人数も基本的に五人だった。

「考えてみろ、この四人において接近戦闘ができるのは剣士であるゼクシィのみ。残りの三人は接近された時点で負けだ」

「一応ボクは短剣も扱えるんだけど」

 ティトのボヤキは横に置くユラス。

「だからゼクシィは敵を待ち構えるのが基本。そして自らが動き出す時は一撃で相手を仕留められると確信した場面のみだ--腰に差している刀を扱うサムライのようにな」

「面目ない」

 自身が憧れるサムライを例に出され、ゼクシィは素直に頭を下げる。

 剣を抜くのは最後の最後、そして抜いた時が相手の最期というスタイルはゼクシィの理想とするところである。

「レンジャーであるティトの動きは……今回は白黒付けられない」

 ユラスは本日の戦闘を思い出してそう結論付ける。

「ティトは基本弓を使って相手のけん制、可能なら関節を射抜いてゼクシィが戦いやすいよう補佐するのが役目--肝心のゼクシィがああでは役目もくそもないからな」

「そうそう」

「……何も言いませぬ」

 ユラスとティトの視線を受けたゼクシィは長身を縮込ませる。

 借りてきた猫のようになるゼクシィ。

「ティト、分かっていると思うが」

 ユラスはティトの横に立ち、彼女にしか聞こえない声で。

「最後の砦はゼクシィだが最も重要なのはティト、お前だぞ。戦場の全体を俯瞰して的確な判断を下すのがティトの役目なんだからな」

 ティトの役目はゼクシィの負担を出来るだけ減らすことにある。

「オッケ、その辺は心得ているよ」

 分かっているとばかりにウインクするティト。

「……」

 ユラスの脳裏に浮かぶのは戦闘中にも拘らずゼクシィと口論していたティト。

「ティトはもう少し器を広げような」

 己の思い通りいかなくて苛々するようではだめだった。

「さて、ルッカ。俺としてはお前を叱責するか否かで迷っている」

 ルッカに向き直ったユラスは躊躇いがちに続ける。

「ルッカ。聞くがお前、最初から気づいていただろ?」

 ユラスが指摘するのは、自らが賭けの内容を明かしたときのこと。

 浮かれる中、ルッカだけが事の難しさを知って顔をしかめていた。

「え、ルッカって最初からカラクリを見破っていた?」

「もし本当なら何故黙っていたのか」

 ティトが目を丸くし、ゼクシィの視線がきつくなる。

「……貴方たちに言っても聞いてくれないから」

 ルッカはそっけなく対応する。

「なにその言い方?」

「っ」

 そうすることで敵意を自身に集めてこれ以上の話題の掘り下げを阻止しようとするが、それをユラスは許さない。

「もし俺がルッカなら無理矢理集められた挙句、顔も名前も知らない輩など信用する気にはなれんぞ?」

 ユラスの言葉にティトとゼクシィの怒りが薄まる。

「加えてあの場は早く終わらせることでイケイケだったんだ。それに水を差すような意見を聞き入れる余地はない」

 机に腰かけたユラスは挑発気味に笑う。

「まあ、もし俺がルッカの立場ならミコトに伝えていたな」

「え? 私?」

 突然降られたミコトは驚きの声を上げる。

「ミコト、もしお前が相談を受けた場合、その意見を邪険に扱うか?」

「そんな冷たい真似はしません!」

「で、ティトとゼクシィ。お前らはミコトのような能天気かつ真摯な人物が意見を述べても無視するか?」

「それはしないよ」

「うむ。一生懸命なら、是非はともかく聞くだけは聞こう」

 ティトもゼクシィも否定しない。

「結論。ルッカ、お前は賢いが視野が狭いな。もう少し人を使うことを覚えた方が良い」

 同じ意見でもAという人の意見なら却下されるが、Bという人の意見なら採用される。

 そんな事例は世の中に腐るほどあった。

「……私は誰にも頼らない」

 痛いところを突かれたのかルッカはほんの少しとげを見せた。

「はい、反省終わり」

 ユラスは手をパンと叩く。

「明日は俺が入る。だから午前の座学が終わったらE-三〇五室に来てくれ」

 すでにパーティー申請を澄ましていたユラス。

「今回の惨状で大分フラストレーションが溜まっているだろうが安心しろ。その鬱屈は明日に解消させてやるから」

 ユラスは迷いなき笑みを浮かべる。

「「「「……」」」」

 ティトを始め、皆は何故だか明日も行かなければならないと思った。


「ふう」

 ティト達を残し、先に談話室を後にしたユラス。

 彼女達の目が届かない場所にいることを確認したユラスは溜息を吐いた。

「お疲れ、これ、飲み物」

 そんなユラスに声をかけるのはフレリア。

 ずっと待っていたのだろう、渡されたそれはすっかり温くなっていた。

「ありがとう、フレリア」

 ユラスは受け取った飲み物をのどに流し込む。

 随分としゃべったせいか普段よりおいしく感じられる。

「どう? あの四人は?」

 廊下の壁にもたれたフレリアはそう尋ねる。

 普段羽織っている魔導士のローブを脱ぎ、ラフな普段着のままなので体のラインが際立っているがユラスもフレリアも気にしていなかった。

「一昨年を思い出したな」

 ユラスの脳裏に浮かぶのは学生会メンバーとしてカナンやフレリアとパーティーを組んだ時のこと。

「フレリアが物凄い自信過剰で苦労した」

 才能に鼻をかけていたフレリアは独断で行動するので問題が多発していた。

「む、昔のことは言わないで!」

 過去の自分を思い出して恥ずかしいのか白い肌を朱に染める。

「何にせよ、あいつらは一年ソロに近い状態で学園を生き残っていたから個々の能力は高い」

 連携は壊滅的で劣勢に立たされていたというのに目立った傷がなかったのは本人達の自己防衛能力の高さ。

 決して無理をせず、危険と判断したら躊躇なく退く判断力を持っている。

「ゼクシィは俺よりも強いしルッカも魔法使いという括りでは最強の一角……そんな彼女達が連携すれば相当面白いことになるな」

 一年あれば学園最強、上手くいけば史上最強のパーティーになる可能性がある。

「ふうん」

 ユラスの評価を聞いたフレリアは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「言っておくけど私はあのルッカより強いわよ」

 どうやら己を差し置いてルッカを評価されたのが気にくわなかったらしい。

「まあ、何にせよまだまだ可能性でしか過ぎない」

 フレリアの機嫌を横においたユラスは盃を傾ける。

「ワクワクするね」

 ユラス率いる学生会パーティーとティト達パーティー。

 その二つが雌雄を決する場面を想像するとユラスの心は踊った。

「ねえ、ユラス。一つ聞くけど、もしユラスの希望通りになった場合、貴方はこちら側よね?」

「当然だろ? 何言ってんだ?」

 フレリアの問いかけにユラスは何当たり前のことを言っているんだと首をかしげる。

「うん、そっか。ならいい」

 それでフレリアの不安は払しょくされたのだろう。

 一転して上機嫌になったフレリアは足取りも軽くこの場を後にした。

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