第2王子*白黒
私の名前は『ジークハルト・ラル・アインツエル』
アインツエル王国の第一王子だ。
肩のあたりで左に垂らし緩く結んでいる銀の髪と少し切れ長のエメラルドのような色をした瞳。目が合うと御令嬢方は真っ赤な顔をして俯いたり黄色い声をあげたりする。
自惚れではなく客観的に見ても整った顔をしている、所謂イケメンというやつだ。
まぁそれも当然だと思う。
ここは【乙女ゲームの世界】で、私は『メイン攻略キャラクター】なのだから。攻略対象がイケメンでないゲームなんて誰も買わないだろうしね。
『口説かれたい! 』『恋愛したい! 』『ただしイケメンに限る! 』だよね。
ゲームの中でくらいイケメンに好かれたいと思うのは仕方ないというものだ。うんうん、私もその気持ちは分かるよ。
ゲーム内のジークハルトは見た目も最上級で典型的な王子様タイプだった。『ふんわりと笑う優しい王子様』……ではなく『俺様王子様』の方だったが。
私は俺様タイプは全く好みじゃなかったけれど世の女性達からはとても人気があったんだよな。そういえば乙女ゲームのメイン攻略対象って俺様かツンデレ系が多い気がする。気のせい?
うーん、でもメインやるくらいだし顔も万人ウケするのかな? ……やはり顔か。世の中イケメンなだけで待遇が良くなったりするし、見目がいいというのは素晴らしいな。
どんだけイケメンでもリアルに俺様何様王子様なやつとかいたら超イラっとするだけだと思うけど。うん、絶対ぶん殴りたくなる自信がある。
さて、何故私がこんなに詳しいのかはきっとお分りだとは思うけれど、この世界のことを【前世の記憶・知識】として知っているからで。
この今いる世界、『白黒』という乙女ゲームと同じ、または模範した世界? は全ルートプレイ済みである。もちろんスチルも完全制覇済みで、何周も何周もプレイして100%になるまで頑張った。
まぁ乙女ゲームの世界に転生しちゃった、てへぺろ! というやつなのだが……しかし勘違いはしないでほしい。
私は心が乙女の男性だったわけではない。普通に心も身体も女性だったんだ。
神様、転生させる性別間違ってませんか。
まぁ、好きになれば男でも女でも構わないとは思うけれど。女の子は可愛いし、男はカッコいい。
そう思うんだからどちらを好きになってもいいじゃないかというのが私の持論だ。
所謂バイセクシャルというやつ。あ、両刀でもいいよ。
まぁいきなり下半身に異物がぶら下がっているという体験したことのない事実には焦ったりはしたけれど前世でも男女どちらとも付き合ったことがあるくらいだし……女性だったからこその視点で王妃となる女性を大事にできるだろう、ということで。
跡取り問題も解決。何も問題はない。
心も身体も女だったのでどちらかというと男性の方が恋愛対象だったけれど今現在はあまり対象になりそうな男女と会わないのでどうなのかなんとも言えないのがまた問題ではあるが。
まぁこれから出会いも増えていくはずだし。でも男性の方がよかったらどうしようか。ダメと言われると逆に……ってタイプではあるのだよね。
まぁそれはそれでその時に考えるとしよう。
今考えるべきなのはゲームのこと。『白黒』はアインツエル王国に蔓延る魔である【黒】を退治して王国を平和に導く……という王道的な話。
黒に魅せられた人々を白く戻せる癒しの力を持つ異世界の少女が聖女ーー勇者みたいな存在ーーとして王宮に強制的に召喚される。
そして聖女と協力して王国内を旅するのが攻略対象者五人と、悪役令嬢の二人。そこにヒロインを入れた計8人が旅のメンバーとなる。
そして主人公であり物語の鍵を握るヒロインである聖女のデフォルト名は『片桐 桜』ちゃん。17歳の日本の女子高生。
幼い頃に両親を亡くし祖母の世話になるも、召喚される半年ほど前に祖母も他界。祖母や両親の遺産、バイトで稼いだお金をやりくりしながら高校に通っている三年生だ。
そんな彼女は女友達に誘われて友達の彼氏と、彼氏さんの友達であるヒロインちゃんの憧れの先輩と共にダブルデートをすることになる。
そして前日、『明日楽しめるように』と今日1日の疲れを完璧に癒そうと長風呂をしているタイミングで召喚される不幸な子。
もちろん、全裸だ。
明るく人当たりもよい。社交的で友達も多い。そして本人の自覚はないがモテる。綺麗というよりは可愛らしいほわんとした、典型的な鈍感系ヒロインちゃん。
もちろん裏表はない良い子。
乙女ゲームユーザーに喧嘩を売っているような可愛らしい非のない娘である。
そんなヒロインちゃん、実は乙女ゲームユーザーの兄弟から『この子可愛い』と噂が広がっていった。どうやら本編内でもお色気シーンが多々あったからか、ゲーム自体がヒロインちゃんのお陰で男性にも受けていたとかなんとか。俺の嫁現象ですか。
売り上げ良好で次回作と男性版白黒も出る予定だとか聞いたことがある。
男性版の方では攻略キャラクターとして悪役令嬢を更生させていくルートがあるとか聞いたのは少しだけ興味を持ったなぁ。
あのクソバカ女がどう変わるのかとワクテカだったけどやった記憶がないからその前に死んでしまったのだろう。
そしてメイン攻略対象である『ジークハルト・ラル・アインツエル』ヒロインちゃんの一歳上の18歳でアインツエル王国の第一王子。
まぁ、うん、私のことだねーといってもゲーム内の設定ね。
第一子として生まれて期待とかめちゃくちゃされてる俺様系王子。
ちなみに顔の雰囲気がヒロインちゃんの憧れの先輩と似てる。
先輩が俺様だったかどうかは不明。
「好きだった人が貴方と似ていて俺様タイプだったんです……ポッ」とか言う人はあんまりいないと思うし、いたら正真正銘のドMかなって私は思うけどどうかな。
そういえばゲーム内では最初以外出てこなかったな、先輩。全裸登場のためだけに設定用意された人か。ウケる。
2人目は騎士隊大隊長『クルド・ライオネス』35歳。
20台後半くらいにしか見えないちょっと硬派なお兄さんって感じでカッコいい。
無駄がない筋肉は美しい。
短く切った髪の毛が騎士っぽくて好感度あがるよね。
ロン毛の騎士とかチャラそう。
3人いる大隊長より上の役職の人は騎士隊元帥閣下お一人しかいないことからも分かるように、とても偉い人。
つまり騎士隊の中で二番目に偉い。とはいっても二番目に偉い人が3人いるのだけれど。
ゲーム内で二番目に好きだったのはこの人。
3人目は魔術師団副団長『クラウス・アイズ』25歳。
乙女ゲーム定番の天才。
既に魔術師団の誰よりも(団長含む)魔法の実力があるけれど、団長の養子であり、親としても上司としてもとても尊敬している団長より上の立場にはなれないしなりたくない、と昇進を断り続けている。
クールだけどたまに見せる笑顔にノックアウトされた乙女は数知れず。ちなみにかっこいいとは思うけど私はタイプじゃなかった。
4人目は侯爵家次男『エルドラド・ラズウェル』16歳。
悪役令嬢の弟で、姉と共にいると精霊が視えて声を聞くことができる。1人だと特別なことは出来ない。
優しくて気弱な少年なので魔物が出るたびに青ざめたりなよっちぃ。そんなところがお姉さまたちの母性本能をくすぐってたのか、グッズ売り上げは凄かったらしい。大人買い率ナンバーワンだったとかなんとか。貢ぎっぷりがホストかよ。
クラウス同様私は好みではない。可愛いとは思うけど実際に付き合うならないかな。
年上のお兄さんタイプが好きだったから。
ああでも上目遣いに涙目コンボのスチルは可愛さに身悶えした。
そして最後の1人が亡国の英雄『ナチ・マラルアウナ』28歳。
今は亡き遠い国の英雄で弓の使い手。
実はゲーム内でも過去の詳しいことは最後まで語られなかったミステリアスな人物だった。攻略対象のくせに。
乙女ゲーム定番の過去の傷を癒すとかいうせっていが全くなかったんだよね。
亡国の王子だったんじゃないか。とか、実はその国を滅ぼしたのはナチなのではないか。というような憶測でネットが大変賑わっていたが興味がなかったからそういう噂がネットにあったってことくらいしか知らない。
後述する、エルドラド・ラズウェルの姉の婚約者である。
婚約者の令嬢のいる国なので、共に守ることを決めて一緒にいる。攻略が進んでいくとその理由がヒロインちゃんのため、に変わっていく。
悪役令嬢その1『ミリエラ・サティロス』17歳
サティロス公爵家令嬢で第一王子の婚約者
典型的な悪役令嬢で、異世界からきたという女が自分の大好きな婚約者である王子と一緒に行動することが許せなくて旅のメンバーに乱入。
特筆すべき能力はない。正真正銘ただのお荷物である。
王子のルートにいくと必ず死ぬ。
その他の人のルートでも必ず王子に見限られ婚約解消される。そして暴れて手をつけられなくなって捕縛される。ハッピーエンドでは解放後に逆恨みしてヒロインちゃんを殺そうとして投獄される。
王子のハッピーエンドでは王子妃暗殺未遂で公開処刑、ノーマルエンドやバットエンドだと永久投獄からの現状に耐えられなくてご飯を食べず衰弱死または自死。
その他の人のルートでは釈放後家から追い出され爵位を奪われて平民に落ちたうえに辿り着くのは娼館という女としては少しだけ同情しちゃうエンド等々。ーー全年齢対象作品だったためそう読み取れる程度の表現ではあったがーー
見た目は月の女神と評される美しさだが中身がクソバカ女すぎて目も当てられないどうしようもない女。
正直私は困る、こんなのと婚約したくない。
解消されるとしても人生の汚点となりそうだし、解消されるまで我慢するのも辛い。
回避する方向を目指そうと思っているけど、公爵家に迷惑かけるのはあまり良くないよな……。
ジークハルトではなく私が、宰相としてすぐ近くで優しく接してくれていた公爵のことが好きなのだ。
娘と違って本当にいい人なんだ。なんであんな娘に育ったんだ……。
そして悪役令嬢その2『アリシア・ラズウェル』16歳。
エルドラドの双子の姉の侯爵令嬢で、幼い頃に読んだ英雄譚でナチに憧れる。
馬車で領地から王都に移動している最中に魔物に襲われたところをたまたまナチに助けてもらい憧れの人だとは知らない状況で惚れた。そして憧れの人だと知ったあとに更に惚れた。
そして既成事実まで作ろうと画策してるときにナチが降参して婚約まで持ち込んだ。うんうん、頑張ったね!
ヒロインが『英雄・ナチルート』と『弟・エルドラドルート』に入ると悪役令嬢として大活躍する。
ナチに守ってもらえる立場のヒロインちゃんのことが気に入らないが、自分も守ってもらえる立場なので悪役令嬢ルートにならない限りは何もしないで我慢する。
悪役だけどミリエラと違ってええ子やぁ。
弟といると動植物の声が聞こえる。鳥と会話できるとかそれだけで可愛い。(好きだからなんでも可愛い)
貴族令嬢にしては珍しく肩にかからないくらいの短めの栗色の髪の毛をしている。
ナチがショートヘアが好きだと聞いたから切った、らしい。健気。
ショートヘアだけどめちゃくちゃ女の子らしくて実は私はこのゲームの中で一番好きなキャラクターはアリシアだった。
超守ってあげたくなる。
はにかんだ笑顔天使かよ! とか思ってた。ていうか声に出して叫んでたわ。
だから最終的にルートではヒロインになびいてアリシアを捨てていくナチはあまり好きじゃなかったりする。
とまあこんな感じなのだが、前世の自分のことは断片的にしか思い出せないけれど、女だったこと。ここが乙女ゲームの世界だとわかること。ゲームをやったことがあること。内容をそこそこ覚えていること。つまりが自分のことは性別と性癖くらいしか覚えてないくせにゲームのことは結構覚えているんだよね。どういうことだよね。
そして今現在の私はぴっちぴちの5歳。
この年齢にクソバカ女であるミリエラと婚約するということを聞いて色々思い出したのだ。
起きがけに言われて混乱してしまったが意外にも記憶混濁で熱出して寝込むとかいうことはなく1時間ほど気を失う程度で済んだ。
周りを心配はさせてしまったが、倒れた場所がベットでよかった。
そして婚約して顔合わせをするのが今日だということを聞き、あぁ日付が変わるくらいまで寝込んでいたかったなぁと遠い目をしてしまうのは許してほしい。
タイトルの第一王子*や、第二王子*
などの『第◯王子』は話数です(笑)
*より前は話数表記になります。
作品の主人公は第一王子なので間違えないようご注意ください!
どれくらいになるかは分からないですが、増えますからね、第三八王子とかなったらもう、どんだけ側室いるんだよ、王様!ってなりますね。
やだ登場人物王子で埋まる(笑)
ではでは
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