帰れない子供の独り言
私は、あなたがした事を、正しい事だったと思えない。
でも、あなたの中にいる日本人のあなたを否定する事も、私にはできない。
だって、私もそうだったから。
もし、あなたがしてきた事を否定したら、今までの私の行いも否定する事になる。
あなたはこの世界をゲームとしてとらえた。
そしてゲームをクリアすることで終わりを探した。
どんな物語にも終わりはある。
ある日違う世界に来てしまった子供は大きな困難に立ち向かう、しかし物語が終われば元の世界に帰れるのがセオリー。
でも本当は気づいていた。私もあなたもそして彼女も、それでも諦められなかった。
ギフトは思いの力に比例する。
あなたのギフトは自分を否定してほしくない思いに比例した。
愛してほしい。傷付けないで。否定しないで。受け入れて。私は此処にいる。
その思いが魅了の力を強くした。
私はあなたの物語が終わるまであなたの邪魔をしたくなかった。
途中で皆にばれてしまったのは誤算だったんだよ。本当に。
諦められない。諦めたくない。その思いはよくわかる。
だからどうか最後まで。あなたがこの世界を受け入れる事ができるまで。
諦めないでほしい。
初めは夢だと思った。これは悪い夢だと。意味が分からなかった。
何でこんな所にいるのか、何故こんな事をしなければならないのか。
―――いやだ。いやだ。
―――何故と問うな、何と問うな。何も問うな、何も語るな。
―――いやだ。かえして。
―――おうちに、かえして。
戦争が終われば、戦争という物語が終われば、帰れると。
家に帰れると思った。
本当は気づいていた。これは物語なんかじゃない。
でも、受け入れられなかった。この世界が。
死にたくなかった。痛いのは嫌だった。逃げたかった。
人を殺すのは犯罪だ、この世界は命が軽すぎる。
人を傷付けないと生き残れなかった。
ただ生きたいと、死にたくないと、生に執着した。
「物語に終わりはない。始まってもいない。あなたの思いは叶わない。」
「どうしてどうしてっ、どうしてええええええぇぇえええええ!」
花のような悲鳴だった。路上に打ち捨てられた慟哭だった。
どこに居るか。どこに居たいだろう。問いかける胸の内。
だから私はあなたを憎めない。
あなたという存在を形成する日本人のあなたを、私は肯定したい。
あなたの頑張りを、執着を、願いを、思いを…
私もそうだったから。
時と場所と方法は違ったけど、あなたと同じ道筋をたどった私が貴方に終わりを告げる。
いっぱい頑張ったんだね。
世界が違いすぎて、この世界を受け入れようとすればするほど、自分の中の考えと周囲の差が広がっていく。
やりたくない、やらねばならない
受け入れられない、受け入れなければならない
何もかもが違う。
家族がいない、友達がいない、帰り道が無い。何処へ帰ればいいの?
空が違う、四季が無い、星が違う、花が無い
魔法って何、そんな物知らない
戦争って何、そんなの知らない
違う、違う、違う、違う、違う…
こんなにも違う。
私は誰?
覚えている。笑い声。優しい手のひら。大きい背中。朱に染まる空。幼い歌声。
家への帰り道。空、雲、雨、森、花、風、おかえり、ただいま。
指差し数えた雁の群れ。
春の月。一面の菜の花。薄紅の海。
夏の夜。揺れる蛍火。夏の雲。
秋の空。金の野原に、野山の錦。
冬の日に、遊ぶ白雪。ふぶく風。
今はもう何処にもない。
語りたかった。同じ夢を。もう帰れない世界を。
知らない物語を紐解くように。
同じ心に出会えることが、希望であった。かの遠き故郷よ――。
今だ忘れざる望郷の念。