第91話 敗北、そして雨の中の決意
ーーーー数時間後……。
まるで、泣いているかのように……。廃墟の町全体に大粒の雨が降り注いでいた。
雨水によりドロドロと化し、至る地面には不規則な水溜まり……。廃墟の建物の屋根上をポツポツと打ち付ける雨音が響かせる。
この地帯は、一時の通り雨がたまに発生し、そしてすぐに静まる……。
(………………)
ゼブラは、全身を雨水でグシャグシャに濡らし、大道りを歩いていた。
生気が感じない瞳。精神的、体力的にも消耗し、フラフラ、足取りは非常に重い……。
ーーーーーッ!!………。
雨雲からは、ゴロゴロした稲光が響かせる。
ーーーーードシャ……。
何もない地面に、ゼブラは転ぶ。
ーーーー雨水が、ゼブラの全身を容赦なく、激しく打ち立てる……。
全身は雨水により冷え込んでいるが、自身は気にもしない。
「うああああああああああああああッ!!」
泥臭く這い、ゼブラは……泣き叫ぶ。
ユリアを連れていかれ、敗北した悔しい気持ちが、口の中に染み渡る土の味、チクリと切れた血の味により、痛感。
「ゼブラ……。無事だったか?……」
ライガは左腕を押さえ、ズルズルと足を引きずり、苦悶の様子で歩み寄る……。
さすがの彼でも、ディアブロスの攻撃には効いたらしい。全身を打ち、特に左腕や右太ももに激痛。
ーーーー〈廃小屋〉ーーーー
屋内の中、落ちていた石で焚き火を起こし、パキパキとした火の音が心地よく響き渡る……。
外はどしゃ降り、穴空いた屋根裏からポツポツと雨漏り水が地面に落ち、至るヶ所に水跡が残る……。雨に濡れ、全身に寒気が行き渡る。
「まだ、降ってやがる……。さすがの俺でも、この寒さには堪えるな……」
ライガは外の様子を眺める……。
(………)
ゼブラは沈黙し、パキパキと燃え盛る焚き火をジィーと、眺める……。
樹海墓場の塔、そこが俺達のアジトだ、待っている……。と、ヴァンの言葉が頭を巡らせる。
何で、教えてくれたのだろう。と、色々と考えたくなる……。そして、立ち上がる。
「どうした?」
ライガはゼブラに視線を向ける。
「俺は行く……」
ゼブラは言う。
「ドコヘ?」
「アイツ、ヴァンが居所を教えてくれた……。俺一人でも……、グッ……」
ゼブラはぐらり体勢を崩し、膝を着く。
全身の至るヶ所にズキズキとした激痛が行き渡り、思わず声を上げる……。
足を捻り、打撲傷、背中に激突痛、やせ我慢して戦える状態ではない。
「そんな状態で一人で行くつもりか?」
「これは、俺やユリアの問題だ。アンタは……」
フラフラのゼブラ。
死んでも、行く……。そのつもりだ。ユリアが連れていかれた責任は、自分にあるからだ。
「それで、行くのか、一人で……」
ライガは尋ねる。
「アンタには、関係ないからな……」
「ああ、関係ないな……。けど、気に喰わん」
「何が言いたい?」
「お前は救いのヒーローにでもなるつもりかい?。そう言う奴は、世間知らずのバカと呼ぶんだよ……。世の中、自己満足で通るなら誰でも行っている。今、自分の状態を見ろ……」
ライガはゼブラに真剣な言葉を告げる。
「……これがどうした、と言うんだ?」
ゼブラは言う。
自分は、ダメージにより傷だらけだ。この状態で、満足に戦えるワケない。しかし、行くしかない。
「お前は人間だ、一人では何も出来ない。もちろん、俺もな……。だから、人に頼るのも悪くないぜ……」
「協力してくれるのか?」
「お前がお嬢ちゃんを思う気持ちを見ていたら、協力したくなった。それに、アイツから何も頂いてないからな……。冒険者として、強い輩に宝の山アリ。と、己の本能がウズくんだ……」
ライガは、トントンと胸を誇らしげに叩く。
「だったら、初めから協力するって言えば良かったのに……」
「それは、その……。ちょっと恥ずかしかったんだ……。つい、説教臭くなるんだな……」
と、ライガは頭をポリポリとかく。
彼は、人助けに送る言葉が苦手であり、素直に任せろ、とは言えず、どうしても堅く、遠回しな言葉になる……。
本人いわく、老けた。と、気にしている。
「雨、上がったみたいだな……」
ゼブラは窓穴から外を眺める。
外は雨が上がり、曇雲から陽光が地上に差し込んでいた。陽光の暑さにより、水溜まりの地面から蒸気が発生し、空気中にジワジワと充満。
まるで、ゼブラの決意を表したような景色、答えを導いているようだ。
「ベストタイミングだな……。さて、戦いの前に、コレを飲んでいけ……」
ライガは2本の小瓶を取りだし、1本をゼブラに渡す。
「ありがとう……」と、ゼブラは小瓶に入った回復薬をグビグビと飲み干す。
飲み干した回復薬は全身の疲労を消し、ダメージを最大まで回復する効力を備えている。
値段は高額だが、場合によってはヤバイ時もあるので、もしもの時に使う為、携帯している。
「どういたしまして……」
ライガは回復薬を飲む。
ーーーーそして、二人は立ち上がり、外に出るのである……。
ーーーー〈ディアブロスのアジト〉ーーーー
塔の屋上広間、ディアブロスとヴァンが集結。
上層階の広場が地上の広間を見下ろし、屋内中に薄紫の灯りが照らされている。
上層階の広場の中央、石作りの生贄の土台が安置され、ユリアが眠っている……。
「さて、始めるか……」
ディアブロスは生贄の土台の前に立ち、ユリアの胸元に両手を掲げ、詠唱。
ーーーー………。
地面から詠唱陣が展開し、生贄の土台を囲む。
ユリアの体内には、破壊神ラモディウスの封印宝が宿り、取り除く作業を行う。
封印宝を取り出し、破壊神ラモディウスの力を手に入れる事が彼の目的だ。
何故、破壊神ラモディウスのパワーを欲したのかは知らないが、彼の行為は非常に危険であり、させてはならない。リサは、彼を止めたかったが、ユリアの意識から遮断された為、動けない。
(始まったか……。奴は来る……)
下層の広間では、ヴァンは腕を組み、儀式の光景を眺める……。奴よ、来い。そして決着をつけよう。と、ヴァンは願うのである。
ーーーー〈墓場樹海〉ーーーー
領域全体には、巨大モンスターの遺骨が無数の骨柱、灰色にカラカラに枯れた樹木が広がっていた。
モンスターだけでなく、人骨、小動物の遺骨、まるで生物全ての墓場。
死霊達の叫び声のような地鳴りが、領域全体に響き渡り、不気味な雰囲気を漂わせる……。
一説では、ゼブラ達が滞在した荒野の宿場町は、墓場樹海の死霊の呪いにより、滅びた説が存在する……。
ーーーーゼブラ、ライガはパキパキと骨の地面を踏み歩き、辺りを眺める……。
「今、声が……」
ゼブラは辺りを眺める。
「耳を傾けるな、死霊の声に魂を引きずり込まれるぞ……」と、ライガは渋く告げる。
精神体のモンスターは、人間の精神的に弱い部分に侵入し、魂を吸収してしまうからだ。声が聞こえても気にせず、無視するしかない。
特に、死霊が出没する場所には、注意が必要である……。
ーーーーケタケタと、怨霊が朝笑うように、巨大骨の森林をグルグルと、浮遊している。
一般人は近づかないが、アジトにするには絶好の領域であり、天然の要塞である。
「場所はどこら辺なんだ?」
ライガは尋ねる。
「そうだ、アイツから貰ったペンダントを使えば……」
ゼブラはペンダントを掲げる。
ーーーーーーッ!!
その時、色彩な光がキラリと輝きを広がる。
そして、光が塔の形を形成し、塔が出現……。
「粋な場所に隠しやがって……。準備はいいか?」
ライガは言う。
ーーーーゼブラは剣をスラリと抜き、塔の方向に歩き進む……。言われなくても、いつでも赴ける。
ゼブラの背中からは、決意に満ちた威圧感が漂っている。
あの場所に、ユリアがいる……。ユリアを助け、ディアブロスを止める……。二人は、塔に向かうのだった。




