第8話 ゼブラ暴走、鬼神の恐怖
「さてと……」
地面に着地し、嫌な笑みを浮かべるグリード。そしてユリアを縛る大樹に向かい、歩き進む。
「………ここは?」
ユリアは目を覚まし、同時に状況を理解。両手両足を大樹のツタで縛られ、全身を引っ張られるような痛覚が、彼女を震わす緊迫感と化した。
「目を覚ましたか、お嬢ちゃん?」
と、ユリアの前にはリードが不敵の笑みを浮かべ、立っていた。
「ゼブラさんっ!!」
ユリアはグリードの後方に目を移す。十数メートル先には倒れ伏すゼブラを確認。彼の所に駆けつけたいが、ツタで縛られて動けない。
グリードはニヤリと笑みを浮かべ、身動きのとれないユリアに右手を伸ばす。
「あうっ……」
ユリアは頬を赤くし、喘ぐ。
左乳房にグリードはわし掴みされ、モゾモゾとまさぐられる。
「良いカラダをしているなぁ小娘…。そうだな、お前は俺の妃となり、この森で子孫を繁栄しないか?」
グリードは長い舌を伸ばし、左乳房をモゾモゾとまさぐり、ユリアに告白。
一方のユリアは頬を赤くし、強く瞳を閉じる。
「そうか、両手両足を縛っているから、痛くて言葉を出せないのか。いいだろう」
パチンと指を鳴らし、グリードはユリアを縛るツタを樹皮の中に引っ込ませる。
「さあ、おいで。我がフィアンセよ…」
と、自信気に両腕を広げるグリード。 ユリアは目を開き、口を開く。
「嫌です…」
「……何て?」
ユリアの小さな言葉に、不満な表情を浮かべ、耳を向けるグリード。
「嫌と言ったんです。アナタみたいな力でモノを支配する人に人生を共にしたくはありません」
ユリアは言う。ユリアの答えに、グリードの気持ちは赤く脈動し、そして表情が凄む。
「ーーーーーッ!!」
グリードは右の裏拳を振るう。ユリアは右頬を殴られ、左側5メートル、吹っ飛ぶ。
「このクソアマァ!!。人が救済の道を差し出してんのにいらん格好つけやがって、状況をわかってんのかコラァ!!。俺が好きになった女共はいつもそうだ、ふざけんなよ。だから嫌いなんだよ、人間はよっ!!」
グリードは表情を凄ませ、詠唱。一辺から詠唱陣を浮かばせ、数多のツタを隆起させる。
「きゃあっ!!」
1本のツタはユリアの左足を巻きつき、逆さ吊りに持ち上げる。
「もう一度、言う。俺の妃になれ……」
グリードは言う。
「嫌です」
「やれっ!!」
と、グリードは凄み、数多のツタに命令。
「ーーーーッ!!」
ユリアは痛撃に絶叫。
数多のツタは逆さ吊りのユリアを数分間、バシバシと打ちのめす。ツタの先は尖り、打ちのめされるユリアの顔、衣服はズタズタに切り裂かれる。数分後、ツタ達は動きを止める。
「まだ嫌とほざくか?」
と、グリードは口を開く。
奴は恐らく、ハイと答えるまで続けるだろう。
一方のユリア。息を切らし、答えられない状態。
グリードはニヤリと笑みを浮かべ、尺杖を掲げる。数多のツタは1本の触手に変貌し、先端に尖削刃を具現化させる。
「ならばお前の大事な純潔を奪ってやろう。初体験には少し痛いが、その痛みが快楽になるだろう」
グリードは言う。
長い間、人外で暮らしていたから、性癖がイカれている。
さらに地面からツタが隆起し、ユリアの両手両足に巻きつく。触手は逆さ吊りのユリアの股下からウネウネと狙いを定める。ユリアは死の覚悟を決め、目を閉じる。
「ーーーーーッ!!」
その時、状況は一変した。一辺は炎上し、空気中には火の粉が漂う。
両手両足を縛るツタは燃え、ユリアは地面に落下。これで彼女の貞操は守られた。
「何だ。どう言うことだ?」
焦るグリード。強い気配は後方からだ。グリードは思わず後方に目を移す。 数十メートル先には鬼神化フェニックスが低い体勢で立ち上がっていた。
姿は凄まじく異様だ。全身からは火の粉が舞い、強力な炎圧を漂わせる。上体は炎の衣を纏い、翼部は炎上し、炎の羽根と化す。理性が飛んでいるのか、鋭い眼は紅一色に染まっている。
「ヴヴヴゥ……」
濁った吐息を吐く鬼神化フェニックス。刃先は炎を燃え上がらせ、強い魔力を漂わせる。
「バカな。あの状態から立ち上がるなんて、あり得ない。何が起こっている?」
強い魔力に、グリードは恐怖を覚える。
「ーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスは突っ込む。
「クソッ!!」
グリードは尺杖を掲げ、詠唱。
無数の棘を一辺の地面から隆起させ、一斉に放流させる。
ゴウッ
鬼神化フェニックスは炎剣を振るい、押し寄せる棘を一瞬で焼失。
「ちぃ」
と、声を上げ、グリードは詠唱。
今度は鋭い牙を剥いた十メートルの大きさを誇る蕾の触手が5体、地面から隆起。蕾の触手は鬼神化フェニックスに狙いを定め、一気に伸びる。
「グルァァァァア!!」
鬼神化フェニックスは飛脚。炎剣を振るい、炎の斬撃で二体の蕾の触手を焼失させ、撃破。
次、触手の蕾に跳び移り、左手を押し当て、魔力を注入させる。三体目の蕾の触手は炎上。
「シャアアアアアーーーー!!」
鬼神化フェニックスの背後から、二体の蕾の触手が一気に襲いかかる。
鬼神化フェニックスは察知し、振り向く。同時に飛脚し、襲いかかる二体の蕾の触手の間を通り抜け、回避。
地面に降り立ち、鬼神化フェニックスは二体の蕾の触手の根元に狙いを定め、炎太刀を振るう。
ゴウッ
二体の蕾の触手は炎斬され、パキパキと燃えて倒壊した……。
鬼神化フェニックスは十数メートル先のグリードに向かい、倒壊する蕾の触手を通り抜け、ゆっくりと歩き進む。
一辺は炎上、空気中を舞う火の粉。全身からは炎圧を漂せ、紅一色の鋭い眼は、鬼神そのものだ。
「この死に損ないがぁ!!」
と、グリードは次の術を唱えようと、尺杖を掲げる。
「ーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスは飛脚、グリードに飛びかかる。左手を伸ばし、グリードの首元をガシッ掴む。
「ぐうっ……、あっ……」
首元を掴まれ、苦悶の表情を浮かべるグリード。
鬼神化フェニックスはグリードの首元を掴み、片手で全身を持ち上げる。
「やめてくれ……。俺が悪かった、お願いだ……」
息が出来ない状態で、グリードは精一杯の命乞い。鬼神化フェニックスは笑みを浮かべ、裁決を下すのである。
ゴキッ………。
鬼神化フェニックスはグリードの首をへし折り、静かにさせた。 グリードは瞳を開けたまま絶命し、ピクピクと死体を痙攣させる。
「ーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスはグリードの首元に魔力を注入し、奴を火葬。戦いは、ゼブラの逆転劇により幕を閉じた。
「ゼブラさんっ!!」
安心し、ユリアは鬼神化フェニックスに駆け走る。しかし。
「ガァ!!」
鬼神化フェニックスは炎の太刀を振り下ろし、ユリアを斬風で吹っ飛ばした。
ユリアは十メートル後方へ吹っ飛び、一回と二回、転ぶ。
「ウゥアアアアアア……」
鬼神化フェニックスは左手で頭を抱え、何かに苦しむ様子で身体をフラつかせる。
「ゼブラさん。私です、ユリアですっ!!」
と、ユリアは呼び叫ぶ。
「ーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスは我を忘れ、ユリアに斬りかかって来た。
「危ないっ!!」
次の瞬間、謎の人物が広地に現れ、ユリアの所に駆け走る。謎の人物はユリアを背負い上げ、数十メートル駆け走る。
鬼神化フェニックスの剣は空を切り、ユリアは背負う謎人物に命を救われ、回避。
「怪我は無いかい?」
と、背負うユリアを降ろす謎の人物。
「アナタは?」
「自己紹介は後にして貰いたい。今は、アレをどうするかが問題だ……」
謎の人物は表情を曇らせ、ユリアの質問を遮る。
キチンと整った前髪、髪の色は緑。
中性的な細い瞳、シャープな顔。身長は175センチ、体格は柔らかい筋肉質だ。後背には黒マント。ヒラリとした茶色の長袖の服。両手には革のグローブ。下は紺色のフワッとしたズボン、皮のブーツ。肩にショルダーバッグ、右手には短弓。姿は吟遊詩人、もしくは狩人。年齢は20代後半だ。
鬼神化フェニックスは唸り声を上げ、炎圧を漂わせる。
「君は少し離れた方がいい。今から危険な戦いになる……」
と、謎の人物は右手をユリアの前に出し、軽やかに忠告。
ユリアは(ハイ)と頷き、大人しく後退。謎の人物は、自身の闘志の異形を本能で浮かべる。
「鬼神化っ!!」
謎の人物は唱え、鬼神化に変身。
銀色に輝き、ツンツンに尖った長髪。身長は178センチ、瞳には黒のサングラス、シャープな顎、口。そして後背には巨翼。筋肉質の肉体に、袖無しの銅の甲冑、両肩には銅のショルダーアーマー。両肘から羽毛が生え、両手には茶布のハンドグローブ。腰部にはベルト、銀のウェストアーマー。フワフワした羽毛のズボン、脚には羽根つきのブーツ。
右手には樫の弓を装備、全身から緑の風圧を漂わせる。鬼神の名はシルバーウィンド、属性は風、狩人タイプの鬼神化だ。