第7話 迷宮のザラキ森林
緑が生い茂り、デコボコの道をフェイトは歩いていた。小鳥の囀り、小動物の鳴き声が強く響き渡る。道一帯には鬱蒼した木々が生え並び、同じような風景が所狭しと続いている。グリードとか言うフザけた屍鬼に森林街道を狂わされ、北部地方面の出入り口まで行き着くのが困難になった。
(さて、どうした事か……)
フェイトは歩きながら冷静に考える。まずは、ゼブラとユリアの二人と合流したい。出入り口まで行き着く先に、二人を探し出すのが先だ。先の事を考え、集中のフェイトの肩に小鳥が止まっているが、気にしない。
「見つけたぞ、人間……」
フェイトの前方十メートル先、生え並ぶ木々をかき分け、ドスンと足音を響かせ、現れたのはトロルのダンボ。地面からは、土に潜っていた蜘蛛人間のシュリも姿を現す。
「俺達二人に出くわすとは、ついてないな。安心するんだな、綺麗に食ってやるから……」
シュリはギリギリと歯ぎしりを響かせる。
一方のフェイトは目を閉じる。首を左右にコキコキと鳴らし、冷静にストレッチ。
「俺達と戦うらしいな。まずは肉を柔らかくする為、切り刻んでやるか……」
と、シュリは鋭い爪を光らせる。
「叩き叩き!!」
ダンボは食欲に我を任せ、フェイトに向かい、ドスンドスンと足音を響かせ、突っ込む。
フェイトは青の詠唱陣を足元に浮かばせ、詠唱。
「叩き叩き!!」
と、5メートルの距離からダンボは太腕を振りかぶる。直撃すれば身が砕かれ、グチャグチャの肉となる。
「ブリザード!!」
フェイトは左手を掲げ、氷属性の衝撃波を唱える。一方、数百キロの巨体を誇るダンボは氷属性の突風に、十数メートル吹っ飛ぶ。
「さてと……」
氷の微粒を全身に漂わせ、フェイトは詠唱。
ダンボは怒り状態。ドスンと立ち上がり、辺りの木をなぎ倒し、突っ込む。
「氷結の裁決!!」
フェイトは右足を軽く踏み、唱える。同時にダンボの足元に詠唱陣が現出し、詠唱陣から氷が纏い、凍結。
「ーーーーーッ!!」
辺りに血肉がぶち撒かれる。詠唱陣から氷棘が無数に隆起し、ダンボの肉体を破壊。一方のダンボは一瞬にして絶命し、形がエライ事になってる。氷結の裁決は相手の動きを止め、隆起する氷棘で破壊する氷の魔導術だ。
「次はお前だ……」
氷が張る地面をパキパキと足音を鳴らし、歩き進むフェイト。そして詠唱し、掲げる右掌に炎属性の球を現出させ、威圧感を漂わせる。
「コイツ、調子に乗りやがって……。出てこい。子グモ達よ!!」
シュリは一帯に声をあげる。すると、地面から子グモが無数に現れる。子グモは一辺を包囲し、フェイトに狙いを定める。シュリが従える子グモは毒は無いが、肉食性であり凶暴だ。
「俺はダンボと違い、下僕はたくさんいるんだよ。噛みちぎってミンチにしてやるよ」
シュリは自信気に声をあげる。
(森を焼くが、仕方ないか……)
と、一帯を見渡し、フェイトは冷静に判断。
「かかれ!!」
シュリは叫び、子グモ達に指示。血に飢えた子グモ達は一斉に這い進み、フェイトに襲いかかる。
「ーーーッ!!」
フェイトは右掌の炎球を掲げ、詠唱。
炎球は拡散し、炎の衝撃波が一帯に広がる。30メートル範囲の木々は燃え、子グモは一瞬にして燃え散る。
(…………)
シュリは一辺の焼け野原に目を奪われ、唖然。
「どうする?」
一帯は炎上、木々が倒壊。炎を背景に、フェイトは不敵の笑みを浮かべ、歩き進む。
「ヒィ………。化け物ーーー!!」
戦意を喪失したシュリは絶叫。戦場から逃走する為、背を向ける。しかし……。
「お前が言うな!!」
フェイトは思わずツッこむ。そして詠唱し、左掌に炎球を現出させる。走るシュリに狙いを定め、炎球を投げ放つ。
「ーーーーーーッ!!」
炎球が直撃し、シュリの全身が炎に包まれる。炎の身と化したシュリはジタバタと暴れるが、力無く倒れる。シュリの体が黒ずみの焼け跡になるまで、そんなに時間はかからなかった。
肩に付着する灰をパンパンと、静かに払い、フェイトはその場を後にした……。
ーーーーその頃。
一方、ゼブラは辺りを見回しながら森林の道を歩いていた。グリードの地形変動により、ユリアとは離れ離れになった……。
最悪だ。守ると、言った約束を破ってしまった。
ゼブラは必死に捜索。木の影、茂みの中、あらゆる道を突き進む。両手は草や木々をかき分けた事により、切り傷だらけだ。彼女は武器おろか、戦いした事はない。一人の森林は危険、見つけないとモンスターに喰われる。
「クソッ……」
悔しく声をあげるゼブラ。しばらく歩き進むと、数十メートル先に日光が差す出口が見えてきた。
ゼブラは出口に向かい、走る。
ーーーーー〈広地〉ーーーーー
出口を抜けると、一帯は草が生い茂る広地。
全域の広さは300メートル、奥には数十メートルの大きさを誇る大樹がそびえている。
「こんな物騒な森にも、いい場所があるんだな」
ゼブラは一辺を眺める。日の光が奥の大樹を照らし、自然の神秘を引き立てる。
「ーーーーッ!!」
ゼブラは大樹に視線を向けた先、驚愕。何故なら大樹にはユリアの姿を確認。両手両足をツタで縛られ、気絶している。
「ユリア!!」
ゼブラは駆けつける。彼女を縛りつけるツタを手に力を入れ、引っ張る。
しかし、ツタは頑丈に彼女を巻きつけ、ビクともしない。
「無駄だ……」
枝の上に立ち、ゼブラを見下ろすのはグリード。
「彼女に何をした?!」
と、ゼブラはグリードに向け、声をあげる。
「道端に倒れていたから俺が保護した。いい具合に巻きついているだろ、身動きがとれない姿に、見てると興奮しないか?」
グリードは言う。
「思わん。どうやったらほどける?」
「簡単だ。俺を倒せばツタはほどける。倒す事が出来たらな……」
人間離れした不気味な笑みを浮かべるグリード。
「そうか、ありがとう。あいにく俺は難しい事は苦手だが、簡単な仕掛けで安心したぜ」
ゼブラは剣を抜く。
「上等だ」
と、グリードは狂喜。
枝の上から飛脚、ゼブラの後方、数十メートルの距離にてドスンと着地する。
「何故、モンスターに?」
と、ゼブラはグリードの方に向き、訊く。
「俺は人間が嫌いだ。人間は自分より劣る者をバカにし、虐げる。そんな毎日に、俺は人生に疲れた。だからモンスターと融合し、森の中で暮らす事にした……」
グリードは尺杖を片手に構える。
「今からでも、人生やり直す気は無いのか?。お前が見てきた人以外、良い人もいると思うぞ?」
「残念だが、俺の人生はあの日以来、詰んだ。貴様を殺し、そしてあの女を俺の嫁にする。そして森林で余生を過ごす」
「何を言ってもムダのようだな……」
と、ゼブラは真剣な様子で剣を両手で構える。
負けるワケにはいかない。ユリアの為に……。
「クケケケケ、血が疼くわ!!」
グリードは尺杖を片手で構え、詠唱。一辺に詠唱陣が浮かび、褐色のツタが伸びる。ツタはゼブラの方へ一斉に襲いかかる。
「ーーーーッ!!」
ゼブラは鬼神化フェニックスに変身。右側に十数メートルの距離を跳び、一斉に伸びるツタを回避。
鬼神化フェニックスは体勢を立て直し、炎の太刀を横に構える。体勢を低く構え、駆け抜ける。
「面白い能力を持ってるな!!」
グリードは唱え、地面一帯から幾多の太触手が隆起し、十メートルの高さまで伸びる。1本の太触手にグリードは跳び移りる。尺杖を掲げ、太触手達に命令。太触手達は鬼神化フェニックス狙いを定め、一斉に波を打つ。
「ーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスは一段、二段、三段と飛脚し、太触手を回避。そしてグリードが乗る太触手に跳び移り、一直線に突っ込む。
「バカめ、木の上は俺の土俵だ!!」
グリードは左側の太触手に跳び移り、詠唱。
「ーーーーーッ!!」
太触手の表面から詠唱陣。詠唱陣から数多の花が生え、種子が鬼神化フェニックス放射。
鬼神化フェニックスは魔力を消費。刃身、翼部に炎を広げ、降りかかる種子に炎剣を振るう。
鬼神化フェニックスの剣撃に、種子はパンっと音を鳴らし、一斉に暴発。鬼神化フェニックスは暴発の衝撃に十メートル程、後方に吹っ飛ぶ。
鬼神化フェニックスはバク転、体勢を立て直す。
「ーーーッ!!」
数メートル右側、瞬時に回り込むグリードは尺杖を振りかぶり、鬼神化フェニックスに跳びかかる。
ギィン
瞬時に察知、鬼神化フェニックスは受け止める。
そして互いは中間距離まで跳び、下がる。
「ーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスは力任せに炎剣を振るう。
「キキキキッ……」
グリードは嫌な笑みを浮かべ、左側に跳ぶ。体勢を立て直し、空いた所を尺杖で突きを打つ。
「ーーーーーッ!!」
空いたスキに2発の突き負い、衝撃で鬼神化フェニックスは後方に吹っ飛ぶ。
体勢を立て直す為、鬼神化フェニックスは後方の太触手に乗り移る。
「逃がすかぁ!!」
と、グリードは尺杖を振りかぶり、鬼神化フェニックスに跳びかかる。
「ーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスは左側、十数メートルの距離まで跳び、回避。炎剣を横に構え直し、グリードに斬りかかる。
「性質変化!!」
グリードは尺杖を構え、詠唱。表面から鬱蒼した鋭い草柱が一斉に波を打ち、隆起。
鬼神化フェニックスに押し寄せる鋭い草柱を跳び越え、回避。
「甘いわっ!!」
鋭い草柱を跳び越え、鬼神化フェニックスと同じ高さに待ち構えていたのはグリード。
グリードは詠唱し、尺杖の先に緑の光刃を具現化させ、振るう。
ギィン
グリードによるカウンターの斬撃に、鬼神化フェニックスは数十メートル後方に吹っ飛ぶ。そして体勢を立て直す。
「性質変化!!」
グリードは唱える。すると鬼神化フェニックスの右側の真横に十メートルの大きさの蕾が現出。
「ーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスが蕾に目を移すと同時、蕾は爆発。鬼神化フェニックスは爆発で吹っ飛ぶ。
「棘の壁!!」
グリードは詠唱。一帯に50メートルの円形を誇る詠唱陣を展開し、詠唱陣から無数の棘を一斉隆起。無数の棘は鬼神化フェニックスを巻き込み、無数の烈撃を与える。
「終わりだ……」
グリードが口を開くと同時、一辺の太触手と(棘の壁)アイヴィウォールは消滅した。(棘の壁)アイヴィウォールの烈撃に、鬼神化フェニックスの姿はズタズタ。
ドスッ………。
地面に叩きつけられる鬼神化フェニックス。同時に鬼神化は解け、ゼブラはうつ伏せに意識を失った。全身は引き裂かれ、至る所から血が滲み出している。どうしたゼブラ、こんな所で終わるのか。果たして、ユリアの運命は……。