第74話 敗北、その後……。
「龍老樹よ、目覚めるがいい。そなたに眠りし力を解放し、心身共に汚れなき乙女、そして我の魂を全て生け贄に、我に力を与えよっ!!」
ーーーアンドラスは、両手を掲げ、龍老樹に詠唱。
アンドラスの肉体はパキッと消滅し、同時に49体の霊魂に分裂。龍老樹中央部には、魔力水晶に閉じ込められたユリアがフワリと浮遊し、禍々しい光を輝かせる。
どれ程、待ち望んだ事か……。やっと願いが叶う……。力が、力が手に入る……。49体の霊魂、魔力水晶に閉じ込められたユリアは龍老樹に吸い込まれ、始動。
ーーー〈森林地帯〉ーーー
ーーーその頃、龍老樹の塔の外の森林地帯は、地鳴りが響き渡っていた。
森林地帯に住む小鳥の群れがギャーギャーと、一斉に飛翔し、逃げ惑っている……。茂みからは小動物が飛び出し、混乱。
「何だ、この揺れは?……」
ムサシは辺りを眺める。
先程から森林地帯の気温が高く、ヤバイ予感が全身から流れ落ちる汗となり、表している。
ーーーその時、ガサガサと森林の茂みが揺れる。
「誰だ?……」
ムサシは茂みに向け、刀を構える。
「先輩、ワタシです」
「よしっ……」
ムサシは表情を前髪の影から鋭く覗かせ、冗談気で刀を上段に構え、茂みから現れたらカメレオンに狙いを定める。
「ちょっとちょっとぉ……、よしって何ですかぁ……?。こんな時に、嫌ですよぉ、アハハハハ」
両手をパタパタと振り、苦笑いをあげ、ツッコむカメレオン。
ムサシは、カメレオンとは犬猿の仲であり、ピンチの時には見事に見捨てる程、嫌い。証拠に、ムサシの眼はマジである。
この戦いで、二人の関係を良くできたら……。と、思いたい。
ーーーカメレオンは数分間、ムサシを色々な条件を言葉巧みに使い、説得。
それから、二人は森林地帯の道を出口に向かい、駆け走る。
「ゼブラとムジカさんは?」
ムサシは尋ねる。
「分かりません。多分、龍老樹の塔の中だと思います。この揺れは、塔の中で何かあったと予想します……」
「確か塔の中って……」
「憶測ですけど、龍老樹の力を解放されたのかと……」
「だとしたら、ゼブラとムジカさんは?……」
嫌な予感を察するムサシ。
龍老樹の力を解放された事は、地下世界アストラルの危機を現している。
もしかして、二人は負けたのか……。と、思い浮かべてしまう。
ーーーーすると、二人は立ち止まる。
森林地帯の空気中にジワジワと充満し、言葉では表せない激臭が、鼻をツン刺す。
「何だ、この匂いは……」
ムサシはゲホゲホと、鼻を塞ぐ。
「先輩、こんな時に屁を出さないで下さいよ。一体、何を食べたら、こんな匂いになるんですか?……。臭いのは、体臭だけにしてくださいよぉ……」
カメレオンは鼻を摘まみ、幻滅な喋り方でヒラヒラと扇ぐ。
「減らず口が……。土に還るか?」
ムサシは前髪の影から鋭い瞳をギラリと覗かせ、刀をカメレオンの顔面の近距離に突きつける。
「冗談、冗談ですよ……」と、カメレオンはヘラヘラと、なだめる。
彼女の短所、それは相手に思い切った毒の発言を吐いてしまう所だ。それでよく、人を敵に回したり、友達を失ったり、イジメられたりもした。
ーーーすると、森林地帯にドス黒い粒子煙が吹き出していた。匂いは強烈、口では表現出来ない。
黒い粒子煙の正体は、最凶濃度に変化した龍老樹の魔力。一帯の植物や小動物を腐蝕させ、有害性をインパクトに現している。
「ヤバイ、走りましょう……」
カメレオンは口を塞ぎ、走る。
「ちくしょう。何だってんだっ!!」
ムサシは口を塞ぎ、カメレオンの後を走る。
ーーー森林地帯の道に並ぶ木々は紫に腐蝕し、ズウッと地鳴りを響かせ、倒壊。
黒い粒子煙を吸えば、間違いなく死ぬ……。2人は額から汗を滴らせ、吸わないように駆け走る。
ーーーその頃。
「ぐっ……。がっ……」
3人の義勇軍の兵士は黒い粒子煙を吸ったのか、道端に上体をヘタリ込ませ、口から嘔吐していた。
額から冷汗、遠退く意識、戦いにより傷ついた身体により、疲労困憊。青白く変色した唇がヤバさを物語る。
「先輩っ!!」
走る道中、カメレオンは3人の兵士を見つける。
「義勇軍の兵士……。おいっ、大丈夫かっ!!」
ムサシは3人の兵士に駆け付ける。
「ゲホゲホ……。息が……、苦しい……」
1人の兵士は咳き込み、微かな声を上げる。
「グフッ……」
2人目の兵士からは、黒い嘔吐物を吐き出し、ムサシとカメレオンを震撼させた。
彼の左目から黒血を滴らせ、言葉では表せないが、かなりヤバイ様子である。
龍老樹の魔力は、濃度によっては生命を作れるが、逆に毒になり、腐蝕させる。
「先輩っ!!、黒い煙がさらに充満してきます」
カメレオンは口と鼻を塞ぎ、辺りを眺める。
茂みからは、黒い粒子煙がジワジワと吹き出し、木々を腐蝕させ、長居はマズイ。
草花は黒く腐り、泥液と化している……。
「俺達を、置いていけ……」
3人目の兵士は、2人に告げる。
「何を言っている?」
ムサシは思わず声を上げる。
「俺達はもうダメだ……。この煙はただの煙じゃない事は、わかった。長居はマズイ、早く行け……」
1人目の兵士は言った。
自身を連れてでの脱出は2人の足手まといになり、助からない可能性が大きいからだ。
「簡単に諦めるなよ。義勇軍の掟、忘れたか?」
ムサシは1人目の兵士の胸グラをガシッと掴み、ギラリとした瞳で睨む。
「どんな状況でも、仲間を見捨てるな……。だろ?。けど、この状況は別だ。兵士と言うのは状況次第では切り捨てられる立場だ。今の俺達は、その時ではないのか?」
1人目の兵士は、冷静な表情で告げる。
自身らは、死を覚悟している。戦いで死ねるなら、本望である。
青臭い掟が通せる程、戦いは甘くないのだ。戦場を行き交う死神の鎌は、いつも気紛れであり、誰に降り掛かるかは、わからない。
「違う。切り捨てるのは兵士じゃない、その間違った志だっ!!。義勇軍の掟に切り捨ては存在しない、私達に教えてくれたのは、生きて帰る事だ。 簡単に、諦めるなっ!!」
ムサシは1人目の兵士の両肩をガシッと掴み、凄みな瞳を光らせ、叱咤。
昔、ムジカさんは言った……。必ず生きて帰れる事……、仲間を見捨てるな……。日々の厳しい修業は、誰も死なせない為の修業だって事を……。
「こんな底辺の兵士でも、生きて帰れ。と、言ってくれるのか?。そうだな、死んでもいい……。なんて、義勇軍の兵士、失格だな……」
ムサシの叱咤に、1人目の兵士は気力を絞り、立ち上がる。
「走れるか?……」
ムサシは尋ねる。
「なんとかな……。一人は言われなくても重症だ。もう一人は、左の太股を深く刺されて、歩くのがやっとだ……」
1人目の兵士は言った。
3人目の兵士の左太股は、黒い粒子煙により、化膿している。
「私が重症の兵士を背負う。カメレオン、お前は太股を刺されている方を頼む……」
ムサシは重症の兵士を立ち上がらせ、肩を組む。
「アイサーーーッ!!」
カメレオンは活気声を上げ、敬礼。
太股を刺された兵士をヒョイと、オンブ。助かった事に、体重は軽い……。
すると、一辺を漂わせる黒い粒子煙は勢いを加速させ、ジワジワと充満させる。
このままだと、病死は免れない……。
バキバキと倒壊し、死にゆく森林樹、地面は黒カビに染まり、浸食……。
ーーー5人は森林の出入り口に向かい、駆け走る。
ムサシは重症兵を肩を組み、カメレオンは負傷兵をオンブ。
1人目の兵士は口と鼻を塞ぎ、姿勢を低くし、走る。 黒い粒子煙を少し吸ってしまった為か、走るスピードが弱々しい……。




