第73話 アンドラス、不覚
「えっ?………」
ーーーアンドラスは理解不能な様子を浮かべ、言葉を失った……。
前胸をバサッと斬られ、傷口から血が派手に噴出し、ゲハッと声を漏らし、吐血。
ーーー地獄の炎に焼かれる……。を、表した様なダメージが全身に行き渡り、ヨタヨタと後退。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
ムジカは息を切らす。
アメジストグリモアをゼブラ、ヴァンにでは無く、アンドラスに振り向き、振り下ろしていたのだ。
「何故だ?、何故……、私の魔力に操られていたハズなのに……」
アンドラスはグラりと身体をフラつかせ、睨む。
「ーーーーーーッ!!」
ーーームジカは、さらにアメジストグリモアを振り下ろし、斬撃。
「ーーーーーッ!!」
アンドラスはグハッと吐血し、後退。
「ーーーーッ!!」
ムジカは闇属性の魔力を宿したアメジストグリモアを振り下ろし、斬撃。
「ーーーーーッ!!」
アンドラスの胸はパックリと丸型に裂け、グロテスクな傷口を覗かせる。
「ーーーーーーッ!!」
ーーームジカは、アンドラスのグロテスクな傷口に、剣をグサッと突き刺し、そのまま前進。
「貴様……。私にダメージを与える為に、わざと操られていたのか?」
アンドラスは吐血し、ムジカを睨む。
鮮血を派手に浴び、髪と顔面はビチャビチャだ。全身には地獄のようなダメージ、反撃出来ない。
「ーーーーーーッ!!」
ーーームジカは、アメジストグリモアを片手で振るい、アンドラスの四肢を斬り、バラバラした。
空中に舞う肉塊が、地面にゴトゴトと生々しい音を響かせ、落ちる。
地面に転がるアンドラスの肉塊は、初めはピクピク脈を打っていたが、次第にピタリと止んだ。
「ムジカ……さん?」
ゼブラは驚きの様子を浮かべ、立ち上がる。
「あっ……、あぁ。すまなかったな、二人共……」
意識を取り戻したのか、ムジカは振り向き、正気な様子の声を上げ、ゼブラに歩み寄る。
相当、精神を使ったのか、額から汗がポタポタと滴り、全身に疲労がズシッと重荷となりる。
「良いって事よ。それより、どうやって、奴のコントロールから解放出来たんだ?」
ゼブラは尋ねる。
「奴にダメージを与える為には、奴と同等のパワーを手に入れるしかなかったんだ。奴が油断した所を狙う為、演技でお前達にパワーを加減して刃を向けたが、相当、傷つけてしまったようだ……」
ムジカは頭を下げる。
アンドラスに精神をコントロールさせたのは作戦。奴にダメージを与える為には、奴と同等のパワーでなければ不可能だ。
彼は、アンドラスの誘惑に乗り、精神コントロール、同時にパワーを授かり、自我と精神コントローのバランスを保ちながら演技を行い、油断した所をグサッと一撃を与える。のが、作戦……。
しかし、アンドラスの精神コントロールが強すぎて、自我を保つのが、至難。
精神と身体の言うことを聞かず、アメジストグリモアを装備していた事により、さらに苦労を増した……。
「けど、俺達は勝った。ホラ、お前も喜べよ……」
ゼブラは安堵の様子を浮かべ、ヴァンに視先を向ける。
「俺には、関係無いことだ……。これで、貴様とは、敵だ。今、ここで決着つけるか?」
ヴァンは剣を抜き、刃を向ける。
「おぉ、やるか?……」
ゼブラはヴァンを睨む。
「ウォッホン……」
ムジカは両手をワシワシと掲げ、不機嫌な様子を浮かべ、二人に見せつける。
ワシワシと、動く両手は、大事なトコロをガシッと捕まれる戦慄を奮い立たせる。
ムジカの握力は、片手でリンゴをグシャリと握り潰せる位のパワーを持ち、大事な所を一度、握られると、彼が手を上げた瞬間、痛くなる。
「あっ……。いや、何でもない。俺達、仲良し。なっ?」
ゼブラはトラウマを思い出し、愛想笑いの様子でヴァンの片肩を組み、仲良しアピール。
「あっ……、あぁ。そうだな……」
ヴァンはギコチナイ笑みでゼブラの肩を組む。
あぁ、胃が痛い、胃が痛い……。そして、大事な所が、ウズウズと行き渡る。
「それより、行かなくていいのか?」
ムジカは声をあげ、ユリアの方に促す。
「そうだ。ユリアッ!!」
ゼブラはヴァンを引き離し、龍老樹の太枝上に向き、魔力水晶体に閉じ込められているユリアに視先を向け、歩き進む。
一方、ユリアは魔力水晶体に閉じ込められ、スヤスヤと気を失っている。
よかった……、彼女が無事で……。と、ゼブラは安心するのである。
……何、終わったと思っている?
と、全体に奴の声が不気味に響き渡る……。
「ーーーーーッ!!」
ゼブラは転倒。
左足に奴の手部分がガシッと掴んでいた。
「フフフ……。久しぶりに、不覚の一撃を喰らってしまったよ。けど、残念だったね、私は魔族、50個の魂が宿っている。今ので、1個の魂が消滅しただけ、49回、倒さないと私は倒せないよ……」
ーーーバラバラの肉塊が空中を舞い、パキパキと生々しい音を響かせ、四肢を組み立て、アンドラスを再形成。
一撃を与えるのにも、やっとなのに、余りにも、理不尽な能力。もはや、絶望でしかない……。
「ーーーーーッ!!」
ーーーアンドラスの手部分に、ゼブラはポイッと投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「残念だけど、遊びはもう終わり。今から、フィナーレと言う所かな……」
「何っ!!」
アンドラスの言葉に、ムジカは険しい声をあげる。
ーーーーーッ!!
その時、ムジカ、ゼブラ、ヴァンの足元から詠唱陣が描かれ、白濁の魔力結界が現出し、スッポリと包まれ、閉じ込められる。
アンドラスの結界魔導術……。空間転移の能力を持ち、強固な結界力を誇る。
「楽しませた事に免じて、君たちは生きて返してあげる……。そして、見せてあげる。リサの生まれ変わりを生け贄に、龍老樹を手に入れた圧倒的なパワーを……。心配しないで、義勇軍との戦争は終わりにしてあげる。目的を果たせたからね……」
アンドラスは笑みで睨み、指をパチンと鳴らす。
ーーーーッ!!
3人は、光の結界に吸い込まれ、空間転移。
龍老樹の広間に、アンドラスの魔力が共鳴し、全体に地鳴りが響き渡る。
魔力水晶体に閉じ込められたユリアは、龍老樹の中心部にフワリと浮遊し、白銀の光が輝く……。




