第69話 ムジカ、乗っ取られる
「ククククク……」
アンドラスは前髪を垂らし、ギラついた紅眼を輝かせ、笑い声を響かせる。
「ーーーーーッ!!」
ーーームジカは気にせず、グリグリと虹色の剣をアンドラスの胸部に突き刺さす。
アンドラスの足元に、毒々しい黒血がビチャビチャと垂れ流れる。
手応えはあった……。奴に魔力を宿らせた武器なら、ダメージは抜群だ。
「ムダだよ……」
と、アンドラスは小さく声を響かせ、サクリファイスロータスを地面に突き立てる。
「ーーーーーッ!!」
どう言う事だ……。と、思わせる表情を浮かべ、ムジカは驚愕。
ーーーと、同時にアンドラス左手でムジカの首輪をガシッと掴まれ、持ち上げられる……。
「アナタのような、少し強い人間ごときに、私にダメージを与えられると思った?」
アンドラスは、垂らした前髪から覗かせる紅眼から、ムジカをギロリと、睨む。
アンドラスのような高等魔族級にダメージを与えるには、聖属性の魔力、又は奴と同等のパワーがなければ、ダメージを与えられない。
「グゥッ……。アァ……」
ギュッと喉を絞められるムジカ。
絞められる握力が強すぎて、マトモに呼吸が出来ず、骨が砕かれそうだ。
ヤバイ、手足がピクリとも動かせない……。
「私と取引しない?……。もし、私に協力してくれれば、今まで死んでいったアナタの仲間を生き返らせてあげるよ……」
(…………)
喉を絞められ、遠退く意識の中、ムジカの頭の中、アンドラスの声が響き渡る……。
今まで死んでいった仲間を生き返らせてあげる……。と、アンドラスの言葉にムジカは思わず、仲間を思い浮かんできた……。
妻を早く亡くし、一人息子は地下世界アストラルから地上に旅立ち、今はどうしているか不明。
そして、死んでいった仲間に気に病む記憶、それがムジカの弱い心。
ーーー私に全てを任せて、そうすれば、願いを叶えてあげるよ……。
アンドラスは、ムジカの瞳の中から心の奥に入り込み、弱い心にジリジリと、偽りの理想と言う名の闇霊となり、支配する。
「ムジカさんっ!!」
鬼神化フェニックスは炎剣を構え、ムジカの安否を伺う。
「さて、面白いモノを見せてあげる……」
アンドラスはムジカの喉をパッと解放し、地面に落とした……。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
ムジカはアンドラスと同属性、同パワーを会得。
全身から闇の熱圧を漂わせ、辺りに展開し、黒い炎を燃え盛らせる……。
瞳は鋭く白濁、顔面に血管がビキビキと浮かび上がり、鋭い牙並びを晒す。
「嘘だろ……。ムジカさんっ!!」
鬼神化フェニックスは炎剣を構え、臨戦態勢。
ムジカが支配された事に戸惑っているのか、僅かに後退……。
「これ、使いなよ……」
アンドラスは、右手のアメジストグリモアを突き立て、コントロール状態のムジカに譲る。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
ーーームジカはガシッと、アメジストグリモアを掴み、禍々しい熱圧を漂わせ、構える。
契約者のアンドラスと同属性、同パワーを得ているムジカは、アメジストグリモアを使用する事が可能である……。
「私は高みの見物とするよ。同士討ちのショーを楽しませてもらうよ……」
アンドラスは跳び上がり、龍老樹の枝上から見下ろす。
「まずは、アノ変態を片付ける……。どのみち、今は戦らざるを得ない」
鬼神化・重力の魔王は黒剣を構える。
「やめろ。ムジカさんを殺す気か?」
鬼神化フェニックスは、鬼神化・重力の魔王の肩を掴む。
「知った事ではない……。奴は協力関係であったが、今は敵の支配下になった。アノ変態なら、自分が敵に堕ちたら、迷わず殺せと言うだろう。この戦いが終れば、次はこちらに憎しみの剣を向けるといい。今、決断しなければ、コッチが死ぬぞ……」
鬼神化・重力の魔王は重力属性の熱圧を漂わせ、黒剣を鬼神化フェニックスに突きつける……。
正直言えば、ユリアを確保出来れば、誰が死のうが、どうでもよい。
残念だが、ヴァンにはアンドラスには勝てない。何だかんだで奴を倒し、どのみち後でゼブラと戦う事になるから、そして始末し、連れ出せばよい。
「なら、俺は俺のやり方で何とかする。頭を叩くなり、何とかして奴のコントロールから解放してやるっ!!」
鬼神化フェニックスは決心を固め、ムジカにギロリと睨みつける……。
(…………)
アンドラスと同属の闇属性の魔力を宿し、ムジカは魔剣アメジストグリモアを片手に構える。
全身から黒曜の熱圧をジリジリと漂わせ、人魔の威圧感を示している。
(ウシシシシシ……。アメジストグリモアを片手で持てるとは……。操られているからとは言え、さすがムジカさんだ……)
龍老樹の太枝の上で足を組み、アンドラスは興味深く見物。
魔剣は、人が使用すれば使用するほど、力により心を蝕まれ、最後には何も残らない。
魔剣アメジストグリモアは、魔剣の中でもパワーの強い部類にはいるが、パワーが高い分、タチが悪い……。
ーーーさて、どうなるだろうか……。




