第6話 悪魔が住む森
ーーー〈中央広場〉ーーーー
ゼブラとユリアは町の中央広場にて、フェイトにユリアを紹介していた。
「その娘を一緒に連れていきたいと?」
フェイトは言う。
「うん」
軽く返事をするゼブラ。
フェイトはユリアに目を向け、冷静な口を開く。
「あのなお嬢さん。旅に出ると言う事は常に気をつけなければならない。俺やコイツはある奴らに目をつけられ、命を狙われている。お嬢さんも、命を落とす可能性もある。奴らだけではない、凶暴なモンスターや盗賊、そいつらにも狙われる。コイツならともかく、二人を守るのは厳しい。もし嫌なら家に戻った方がいい……」
フェイトは厳しい口調で言った。コイツとはゼブラの事である。
「それはわかってます。自分の責任は自分で負います。世の中を見てみたいのです」
もう、決めた事だ。と、言わんばかりにユリアは言った。
ジャックとハリーに貰った千載一隅の機会を無駄にはしたくないのだ。
「店は?」と、フェイト。
「経営権は、信頼できる食材屋のおばさん夫婦に預けてますし、経営は二人に任せました……」と、ユリア。
パン屋の経営権は、生前、両親と親交がある行きつけの食材屋のおばさん夫婦に預けてあり、乗っ取られる心配はない。
定期的に、おばさん夫婦が様子見に来るようになり、ユリア曰く、おばさん夫婦は腕っぷしが強く、下手な事をしたら何するか分からない。
「俺からもお願いします。ユリアは俺が守る、彼女を旅に誘った俺にも責任がある。二人の責任を二人で補う。それなら文句はないだろ?」
ゼブラは真剣な眼差しで訴える……。
フェイトは誠意を確かめる為、ゼブラとユリアの目を眺める。フェイトは魔導師、人の属性魔力を読む事が可能だ。すると、フェイトはユリア自身に宿る属性魔力を察した。球体形に圧縮させた白銀の魔力が神々しく輝きを放っている。
(まさかな……)
フェイトは思い込み、見逃すのだった。
「フェイトさん?」
ゼブラは問いかける。
「ああ、すまん。娘の旅の同行は許可しよう。お前には鬼神化が使えるし、心配はないだろう。じゃあ行くぞ」
「ハイ」
フェイトの言葉に二人は元気よく返事。ユーギガノスの剣に選ばれたゼブラを、ある所に連れていく旅にユリアが仲間になった。
あくまでも、ゼブラをある所に連れていく期間までだ。その後は彼女の自己責任、町に帰るか、旅を続けるか、途中で死のうが、拉致られようが、彼女次第だ。
ーーーーー〈ミハイル平原〉ーーーー
三人は東の王都イザーク方面の街道を歩いていた。平原の青空は、町から眺める空とは違い、広大だ。ユリアは一帯の景色や空を首を振って眺める。彼女も町から出た事はない。
立場上、ゼブラと同じだ……。
(この娘も落ち着きがないな……)
忙しく眺めるユリアに、ぼやくフェイト。
一方のユリア、上空を飛ぶ野生の鳥に興味を示し、目で追っている。
「あの鳥はヤマドリと言って、群れを作らない鳥で山に生息する鳥なんだ。今、飛んでるのは雄の鳥、この季節になると平原の空で雌を見つけて繁殖の時期を迎えるんだ」
ゼブラは言う。
「物知りなんですね?」
ユリアは言う。
「俺が住んでる山に生息していて、上手かったからよく狩って食べていた。凶暴だったから捕まえるのに苦労したよ……」
「ヤマドリは数が減少し、今では捕獲は禁止されているぞ。もし破った者は禁固10年、罰金50万Gsらしいぞ」
ゼブラの言葉に、フェイトは冷静に忠告。
「えっ、マジ?」
ゼブラは焦る。
「嘘だ」
フェイトは冗談で答えた。
フェイトの言葉に、ゼブラは思わずホッとひと安心させ、胸を撫で下ろす。
(ククク、からかいやすい奴だな……)
フェイトは境中にて笑う。
しばらく街道を歩く三人。フェイトが言うには、数百メートル先に、東の道には王都イザーク方面、北の道にはザラキ森林方面、北東の道には宗教都市アフタヌーン方面の三つの看板が立ち、三つの街道に別れている。フェイトが示す目的地は北のザラキ森林方面だ。
そして三人は一キロを歩き進み、ザラキ森林に足を踏み入れる……。
ーーー〈ザラキの森林〉ーーー
ザラキ森林。数年前、自暴自棄になった一人の魔導師がモンスターと融合し、力を得た。異形と化した魔導師はモンスターと同じ立場で静かに暮らしている。
「クククっ。人間が三人……」
ザラキ森林の広地にてそびえ立つ高さ数百メートルの大樹。枝上に乗り、濁る声をあげるのは蜘蛛人間のショリ。両肩には子分の子蜘蛛が無数に登り、フェイト達が森林に侵入して来た情報をショリに報告している。
「人間、人間、人間。女がいいなぁ……」
大樹の根下には褐色肌のトロル、名前はダンボ。
すると、二体の声に反応し、パキパキと音を立て、大樹の根元が裂ける。
「何事だ?」
裂けた根元から起き上がり、現れたのは魔導師。生気の無さを漂わす白の長髪、黄色に渇いた肌。細い顔形に黒一色の鋭眼、頭部には二本の角。身長は175センチ、体格は細身。白の修道服を着用し、右手には尺杖。奴はモンスターと人間が融合した屍鬼。
「グリードさん、おはようございます。今、人間が迷い込んできたんで、どうしようかと話し合っていたんです」
トロルのダンボは言う。
「人間か。何がいる?」
グリードは訊く。
「男二人と、女一人の三人です」
ショリは言った。女と言う言葉に、グリードは反応した。
「そうか、オンナがいるのか?。フハハハハ、丁度人肌に飢えてた所だ。そいつらはどこだ?」
「ここから南東の1マイル先です」
グリードに答えるショリ。
「行くぞ。男二人は殺して食料にする。オンナは俺が貰う」
グリードは人間離れした飛脚力で樹から樹へ跳び移り、猛スピードで目的地に向かう。残りの二体はグリードの後を追い、地上を駆け走る。
ーーーー〈広地〉ーーーー
フェイト達は休憩。クーデルカを発ち、二時間が経過した。(ナナテ村)に向かう際、フェイトはザラキ森林を行きに通っている為、安全地帯と確信している。ゼブラは一辺を見張り、旅に慣れないユリアは太ももが疲れ、丸太の上に座り込む。
「疲れたか?」
ユリアを気にかけるフェイト。
「少し」と、ユリアは答える。
ゼブラは辺りを見回す。鬱蒼とした森林に鳴り響く鳥のさえずり、獣の声に警戒。いつモンスターが襲ってくる可能性に油断出来ない。
「ここの森には、モンスターと人間が融合した屍鬼が住んでいる。奴らは若い女を捕らえ、犯し、四肢を切断してから食い殺す。丁度、小娘のようなタイプが一番だ」
フェイトは怖い冗談話をユリアに向け、言ってくる。フェイトの言葉に、ユリアは「えっ?」と、声をあげ、怖がる。
「やめてくれよ、こんな時に。ユリアが怖がっている。もし、そいつらが来たときは俺の鬼神化で倒すから大丈夫だ」
ゼブラは自信気な笑みを浮かべ、ユリアを励ますのである。
「犯してから食い殺すのは冗談だ。けど、この森林には屍鬼がいるのは本当だ。しかし、奴は大人しく暮らしているから安心しろ。旅をするのに、そーゆーモンスターや人間がいるから気をつけろって事だ……」
フェイトは言う。
キツイ事を言ってるが、皆に旅をする厳しさを教えている。一方のユリアはホッとひと安心のため息を吐いている。
「いるのはわかっている。出てこい」
誰かに様子を見られている気配をフェイトは察知。左斜め数十メートル先に生い茂る森林に向かい、高圧的に言い放つ。すると、フェイトの言葉に応えるように、生い茂る木枝から何がか飛び降りた。
「俺の気配に気づくとは、なかなかな奴だ」
広地に現れたのはグリード。
「フェイトさん。コイツは?」
奴が現れたと同時にゼブラは剣を抜き、構える。
「コイツが屍鬼だ」
フェイトは答えた。
「人前に現れないのじゃないのか?」
「知らん。俺がこの森林を通った時には現れなかった。事情は奴に聞け!!」
フェイトは言った。
「今までモンスターの肉を食い過ぎて飽きてきたんだ。丁度、お前らが森林に侵入して来たと聞いて、そして食いたくなった。人の肉を、そして人肌が恋しくなった。女をよこせ!!」
狂喜のグリードは鋭い牙を晒し、尺杖を構える。人肉に飢え、そして性欲も飢えている。簡単にわかる。奴はヤバイ……。
「お前なんかにユリアを渡さない。二度と現れないように、俺が倒してやる!!」
ゼブラは強気に意気込み、ユリアの前に立つ。
「倒す、この俺を?。フハハハハ、面白いギャグだ。殺れるもんなら、やってみな!!」
グリードは狂喜の絶叫。尺杖を掲げ、詠唱。
奴が唱える魔導術は、地形と植物を成長させ、自在に操る合成魔導術だ。人とモンスターが合成され、体質が環境に適合した事により、一帯の地形や植物は奴の支配下となり、思うがまま活動する。
ーーーーッ!!
グリードの魔導術により、地面から植物触手がパキパキと音を立て、一斉隆起。同時に地鳴りが一帯に響き、地面が割れる。地面は断面を覗かせ、一辺に突出。地形変動により、皆は避難。そしてフェイト達は離れ離れになった。
「さて、狩りの始まりだ……」
狂気的な笑みを浮かべるグリードは木から木へ跳び移り、フェイト達を捜索。人数を分断させ、狩るのがグリードの趣味であり、狙いだ。