第65話 アンドラス
「誰だっ!!」
ムジカは周囲を眺め、声を響かせる。
「こっち、こっち……」
ーーーその時、全身を隠す程の茶布のマントをクルッとなびかせ、龍老樹の太枝の上に出現したのは小柄な幼年。
身長は140センチ弱、フードの影で顔を隠し、紅の鋭眼をギラリと覗かせる。
「神聖なる龍老樹に土足で踏み入れるとは、なんたる無礼、マントを脱ぎ捨て、降りてこいっ!!」
ムジカは剣を抜き、幼年に威圧的な声をあげる。
「フフフフフ……」
幼年は聞き覚えのある笑い声を響かせ、マントをバサッと、脱ぎ捨てる。
マントはヒラヒラと宙を舞い、ゆったりと、地面に落ちる。
「ーーーーーーッ!!」
ーーーその時、ムジカとゼブラは言葉を失い、驚愕した……。
何故、何故……。どうして?……。と、信じられない気持ちが、ポタポタと滴る冷や汗となり表れ、目の前の光景となり、映る。
「どうしてそんなに驚いているの?」
龍老樹の枝上に、チェルシー。
しかし、チェルシーはサイモンの町で警備を任せている為、不参加だ。それでも、サイモンの町から砦までかなり距離があり、短時間で足を運ぶ事は不可能だ……。
それに、仮に強引に砦まで来たとしても、町から報告が送られるだろう。
「ええい、魔界軍の新たな魔族かっ!!。龍老樹の間の封印を解いた所に入って来たかッ!!。チェルシーに化けよって、姿を解けっ!!」
ムジカは大剣を突きつける。
チェルシーではない……。と、気持ちに留めるしかない。魔族は相手の心を惑わし、喰らうのが一般戦術。マトモに気を留めたら、命取りに成りかねない。と、長年の経験が頭と感覚に染み込んでいる。
「姿を解けって?、これが私の姿、何にも化けていないよ……」
チェルシーは軽く手を上げ、本物をアピール。
「何っ?」と、ムジカは表情を尖らせる。
「私の名は、アンドラス……。魔界を支配する為、この地下世界アストラルに眠る龍老樹の力を求め、魔界のゲートを使い、来訪した」
全身から凄まじい紫の熱圧を漂わせ、アンドラスは龍老樹の枝上から跳び、足元をフワリと浮遊させ、舞い降りる。
凄まじい熱圧は奴の常時の能力値を示し、これでも数百体の兵士すら簡単に片付ける事も可能だ。
「ーーーーーッ!!」
ーーーーアンドラスが舞い降りる。と、同時に、ムジカとゼブラは応戦の体勢を立てる。
「恐い顔だね?。そんなに信じられないかな?」
アンドラスは不敵に眺める。
「チェルシー、嘘だと言ってくれ。お前、ユリアの事があんなに好きだったんだろ、なのに?……。待てよ、サイモンの町は、町の人やユリアはどうなっている?」
ゼブラは受け止められない様子。
もしかして……。と、想い込み、グチャグチャな気持ちを冷たく震わせる。
「サイモンの町なら、少し賑やかになっているよ。私が兵士の人格を操り、現地の魔界人に暴行を加えさせた。それが火種になり、前々から差別環境のあった為か、モンスター並みの団結力を発揮した魔界人は怒りの如く暴徒化し、残った義勇軍が対応しているよ。その動乱に紛れ、私は町から脱出した、お姉様とね……」
「何っ!!」
アンドラスの言葉に、ゼブラは驚きの声を響かせる。
「上を見てごらんよ……」
アンドラスは龍老樹の枝上に視先を向ける。
そこには催眠状態のユリアが結晶体に閉じ込められ、眠っていた……。
「ユリアっ!!。お前、ユリアをどうする気だ?」
「彼女は、力を手に入れる為の生け贄、大丈夫、今は眠っているだけだよ……。教えてあげるよ、ここまでの全てを……。私は大勢の人間や魔族を魔力球に変える大量虐殺により、魔界では最高危険度の魔族として軍に毎日のように追われていた。魔界から逃げる為、地下世界アストラルに浸入した。しかし、魔界軍は追ってきた。逃げる事は不可能だと悟った私は、ある事を考えた……」
「ある事だと?」
ゼブラは不穏な様子で首を横に傾ける。




