第64話 ゼブラの過去
「これは······。俺が小さかった頃の記憶······」
アストラルに自身の記憶の中に隠れている景色を再現され、ゼブラは驚きの余り、キョロキョロと眺める。
しかし、景色は覚えているのだが、そこでの出来事に関しては、記憶の中は暗闇に包まれており、ハッキリとは思い出せない······。
アストラルは相手の心の中に入り、記憶の中の景色を再現する魔導術を使用したのだ。アストラルは高等クラスの霊体、精神魔導術の技術は高い。
そこは、お主がまだ小さかった頃の記憶だ。そこにいる男女はお主の両親、父はグレンサン、母親はクリアネル。子供はお主だ······。旅の途中で身ごもり、産み、共に旅をしている。
アストラルはトンッと地面に降り立ち、ゼブラの隣に歩み寄る。
過去の記憶の幻像は進行していく。
ーーーグレンサンとクリアネルは幼少のゼブラを連れ、林道を進む。
到着したのはゼブラの故郷、ナナテ村。事前に通告していたのか、ナナテ村の村長はグレンサンとクリアネルを前に神妙な様子を浮かべ、頷く。
ゼブラを、我が子をよろしく頼みます……。
と、二人は涙ながら頭を下げる。しかし、何の事か理解できないのか、幼少のゼブラは(何で、何で?)と、泣きわめき、両親に掴みかかる。
「これは……。どうゆう事だ?」
ゼブラは驚いた様子を浮かべ、アストラルに尋ねる。
これがお主の記憶じゃ……。見てみなさい……。
アストラルはゼブラに促す。
ーーーすると、クリアネルは詠唱し、左の人差し指をゼブラの額に突き立てる。
クリアネルは人差し指を離すと、ゼブラは何も覚えてない様子で泣き止み、村長を自分の親と思い、抱きつく。
クリアネルは記憶操作の魔導術を使用し、お主の記憶から両親の記憶を封印したのじゃ……。
アストラルは言う。
「何で?……」
ゼブラはわからない。
二人は流行り病に感染していた。当時の医療では治療不可な病にな……。お主にまで感染すると思い、置いていかざるを得なかったんだ……。
「なら、二人はもう……」
ああ、死んでいる……。しかし、二人は片時も、お主の事を忘れたりはしなかった。黄砂が激しく吹く荒野の中、二人は意識を失う間近、満足な様子でお主が元気に生きる様子を浮かべ、逝った……。
アストラルは見上げる。
「そうか……」
ゼブラは涙を拭い、納得。
お主は聞きたくないか、二人の旅の目的を……。
「両親の旅の目的?」
ゼブラはアストラルを見る。
ここまで話を聞いたんだ、何だって聞いて受け止めてやる……。
二人は地下世界アストラルで生を受け、地下世界を戦乱から救うため、予言者の命の下、地下世界アストラルを出て、ユーギガノスの剣を探し、選ばれし者を探すのが目的だった……。幾多の場所を渡り歩き、何度も命を狙われ、そして……。
「その選ばれし者が、俺……」
ゼブラは剣を鞘から出し、眺める。
選ばれし者を探す使命は、両親からフェイトに引き継がれ、使命は形となり、ゼブラに終着した。
ただの偶然か、それとも運命か……。お主の両親が生きていたら、どれ程喜んだか……。
アストラルはフワッと、足元を浮かばせ、龍老樹の太枝の上に降り立つ。
同時にゼブラの過去の記憶映像は消え、元の景色に戻った……。
「色々あったけど、今は感謝している。そのお陰で彼女と出会ったから……」
ゼブラは気にしていない笑みを浮かべ、後ろ頭をポリポリと掻く。
ユリア・クライアンの事かね……。
霊体アストラルは言いにくい様子。
「ユリアが何なんだ?」
ゼブラは不穏な様子。
彼女は……。ーーーッ!!。
何かを伝えようとした瞬間、霊体アストラルは青炎と化し、悲痛な叫びを響かせ、消滅。
消滅したアストラルの光の塵は枝上から地面にキラキラと舞い落ちる様子に、皆は沈黙。
「フフフフフ……」
全域に響き渡る不気味な声、そして……。
ーーー龍老樹の周囲に生え広がる草花は警戒色を示す紅に光り出し、スカーレットの花粉をブワッと舞い上がる。




