第5話 ユリアの決意
(何だアレは……)
ガイは異形の姿に驚愕し、言葉を失う。
異形から漂う高い炎圧のオーラは、一辺から巻き上がる土煙を紅の熱煙に変え、魔力の高さを物語っている。
「ーーーーッ!!」
立ち上がる仮面の太刀使い。
異形の炎圧のオーラに臆し、全身を刺すような感覚が襲いかかる。彼は本能的に、後退る。するとジャックは声をあげる。
「何やっている、さっさと殺っちまえ!!。お前には魔導武器の太刀がある、倒せる!!」
ジャックの声に、仮面の太刀使いは太刀を横に構え、十メートル先の異形に斬りかかる。異形の性質は精神体タイプ、物理攻撃はダメでも魔導攻撃ならダメージを与える事は可能だ。
異形は炎の太刀を片手に構え、魔力を込める。刃身から炎が帯び、翼から生える紅刃の羽根から炎を纏わせ、炎の翼に一変させる。
「ーーーーーーッ!!」
仮面の太刀使いは臆気を誤魔化すような雄叫びをあげる。異形に狙いを定め、中間距離から太刀を振り下ろす。
ーーーーゴウッ!!
異形は一気に燃え上がり、炎の太刀を振るい、仮面の太刀使いに凄まじい剣撃を与える。
ーーーーッ!!
仮面の太刀使いは胸部に炎の剣傷が刻み込まれ、十数メートル後方に吹っ飛ぶ。
地面に一回、二回と叩きつけられ、奴は動かなくなった。
ーーーー空き地は静まり返る。
自慢の刺客を倒され、圧倒的な力を見せつける異形と化したゼブラに、ジャックとハリーは驚愕。
(鬼神化)ゼブラが異形に変身した能力の正体だ。 自身の闘志を本能で思い浮かべ、変身する能力だ。鬼神の名はフェニックス、それがゼブラが本能で思い浮かんだ闘志の形だ。
異形は炎圧オーラを漂わせ、ジャックとハリーに歩き進む。
「ひぃ……。お助け!!」
ジャックとハリーは異形に恐怖し、逃げる。
「おっと逃がさないぞ……」
瞬時に駆けつけ、不敵の笑みを浮かべるガイ。
二人の後ろの首襟を引っ掴んで捕らえ、二人をボコボコにドツき回している。二人の悲痛な叫び声が一辺に響き渡り、無様な光景である。
異形はユリアに近づく。ユリアは僅かに臆し、後退る。
(………)
鬼神化が解け、元の姿に戻るゼブラ。意識を失い、ゼブラはフラフラに体を揺らす。
「お疲れ様……」
ユリアはゼブラを両腕で支え、優しい言葉で抱き締める。ゼブラは彼女の胸の中で気絶。
ーーーーー〈診療所〉ーーーー
戦いの後、皆はゼブラを町の診療所に搬送されていた。ゼブラは応急措置を医者から施され、全身を包帯て巻かれた状態でベットに横たわる。
「アレ、ここは?」
室内の消毒液の匂いで目が覚め、ゼブラは上体を起こし、一辺を見回す。
「目が覚めたか?」
ゼブラを看病するのはフェイト。
「フェイトさん?。痛っ……」
起床と同時、戦いで蓄積したダメージが襲う。ゼブラは苦悶の表情を浮かべ、痛む腹部を押さえる。
「動かん方がいいぞ、何せ全治10日間だからな……」
フェイトは面倒臭そうに天井を見上げ、ため息を吐く。一方のゼブラは少し喜ぶ。何故ならユリアに会える時間が増えたからだ。
「お前のゴタゴタを途中から見ていたが、アレだな、鬼神化を覚醒させたようだな?」
「鬼神化?」
ゼブラは思わずフェイトに目を向ける。
「ゴタゴタの中で見せたお前の変身体だ。覚えてないのか?」
「変身してからは何か、気分が急激に熱くなって、変身を解いたら、ここに眠っていた。それだけかな……」
ゼブラは言う
「充分、覚えているな。次から本能で闘志の形を思い浮かべ、鬼神化と唱えろ。そうすれば使えるぞ」
フェイトは言った。
「本当か、よし使ってみよう」
ゼブラ瞳を閉じた。そして本能で闘志の形を思い浮かべ、試しに唱えてみる。
「オイ待て!!」
フェイトは思わず大声をあげ、ゼブラを止める。
ーーーーゴウッ!!
そのとき、室内は爆発。異変に気付いた医者が病室に駆けつける。
「何だコレは?」
入ってきた医師は驚愕し、声をあげる。
室内は爆発の跡。鬼神化に変身する際、全身から爆発を起こし、電灯やベット、医療器具が滅茶苦茶になっていた。室内にいるのは鬼神化フェニックスに変身したゼブラと、煤まみれのフェイト。
「アハハハ……」
ゼブラは苦笑いを浮かべ、鬼神化を静かに解く。
それから、皆は医師にペコペコと頭を下げ、病室の後片付けに入る。
「何で俺まで?」
病人であるゼブラは病室の床をモップで掃除。
「お前が原因だろ、さっさと片付けろ」
フェイトは面倒臭そうに口を開き、病室の器具を片付ける。何で俺まで、それはコッチのセリフだよ。と、フェイトは心の中でぼやく。
「あっ、すいません。俺、ちょっと用事を思い出しました。すぐに戻って来ます」
ゼブラは全身のダメージに鞭を打ち、病室を急いで飛び出す。
「オイ、ちょっと待て!!」
フェイトは引き止めようとするが、ゼブラは病室を飛び出した後だ。
ゼブラがいなくなった事に、掃除はフェイトに全て押しつけられた。アイツ、後で殺す……。と、フェイトは怒りを滲ませ、身を震わす。
ーーーーー〈西の町外れのパン屋〉ーーーー
昼過ぎの店内。勘定台に立ち、店番をするユリア。ちょうど、落ち着いた時間帯であり、店内はしずかである。今日は朝から色々あった為、疲れた。
「ふぁ~~~」
アクビをあげるユリア。
ガチャッ
「いらっしゃいませ」
気持ちを切り換え、入店して来た客に接客挨拶を交わすユリア。
「やぁ……」
入ってきたのはゼブラ、軽く手を上げる。
「ゼブラさん。目を覚ましたんですね」
安心の余り、ゼブラに駆け寄るユリア。
「君のパンが食いたくなったから起きてきた」
ゼブラは見栄を張り、胸をトントンと叩く。見栄を張りたい気持ちはわかるが、戦いでのダメージが全身に響き渡り、上体を崩す。
「無茶をしないで下さい。少し休みますか?」
ゼブラの上体を支えるユリア。
「いや、大丈夫。それよりも、俺のせいで君を危険な目に遇わせて、ゴメン……」
苦悶の表情を浮かべ、ゼブラはユリアに謝罪。
「そんな、謝る事はないですよ。逆に私はアナタに救われました。感謝しています」
ユリアは笑みを浮かべる。
「君がそうして笑っている顔、好きだな。痛いのを忘れるよ」
ゼブラは安心の笑みを浮かべる。
一方のユリア、恥ずかしかったのか、顔を赤くし、ゼブラから目を反らす。
突然、店内に入って来る二人組の男性客。
「てめぇら!!」
二人組の男性客に対し、思わず怒りの声をあげ、睨むゼブラ。正体はジャックとハリー。二人の顔はガイにボコられ、アザと腫れ傷だらけである。今度は何しに来やがった、場合によってはバトルになる。
「今まで、すいませんでした!!」
ジャックとハリーは横に並び、土下座。
奴らの行動に、二人は唖然するしかなかった。
「今日、ここに来たのはお願いがあってここに来ました」
ジャックは言う。
「お願いだぁ?。アレだけの事をして、何様のつもりで言っている?」
ゼブラは二人を高圧的に見下ろす。コッチは勝ったが、大ケガを負わされたから怒っている。逆にコッチがお願いを聞いて欲しい位だ。
「話を聞きましょう。お願いとは何ですか?」と、ユリアは柔らかな物腰で口を開く。
「俺達を、ここで働かせて下さい」
ジャックとハリーは言った。
「なにぃ?」
ゼブラは驚愕していた。
「アナタ方には迷惑をかけました。俺達は、償いをしたいのです。お金は借金以外、要らないとの誠意です。お願いします!!」
ジャックとハリーは床に頭を擦り付け、必死に頼み込む。
「どうする?」
ゼブラは言う。
様子から伺うと、二人はマジだ。しかし、誠意の形ほ簡単に作れる。本当に心を入れ替えたかどうかは不明に近い。ユリアは腕を組み、目を閉じて考える。そして答えを出す。
「構いませんよ。借金は毎月の売り上げから3万Gs引いていく形でいいですか?」
「ハイ。お願いします」
ジャックとハリーは正直に頷く。
「そういえば、お前ら名前は?」
ゼブラは言う。二人は双子のように顔が似ているから区別をつけておきたい。
二人は「ジャック」「ハリー」と、自己紹介。
やっぱり名前だけではわからん、名札でも欲しい位である。
「よろしくお願いします」
ユリアは頭を下げる。
「ハイ」
ジャックとハリーは返事。
ーーー1週間後……。
早朝、店内は開店準備の最中だ。
出来上がったパンを店内の商品台に置くジャックとハリー。働き出してからは性格的にも丸くなり、優しくなっている。様子から伺うと、これが本来の二人であり、パン屋の仕事は天職だ。
驚く事に、仕事の覚えが早く、すぐに慣れた。
「助かるわ。二人が来てくれたおかげで、仕事がはかどるわ……」
勘定台を整理し、安心の笑みを浮かべるユリア。
「ありがとうございますユリアさん」
ジャックとハリーは親切に頭を下げる。
働かせてもらっているユリアに対する感謝の気持ちと、今までの申し訳なさは忘れていない。
心を入れ替えたのは本当らしい……。
ーーーーガチャ
開店前、店の正面扉から入って来たのはゼブラ。
「ゼブラさん。おはようございます」
ユリアはいつもの笑顔で迎える。
「旦那、おはようです」
ジャックとハリーは親切な笑みを浮かべ、頭を軽く下げる。しかし、今のゼブラには、心地よい挨拶を言う気分ではない。思い詰めた表情を浮かべ、ゼブラは口を開く。
「ユリア、話があるんだ……」
「どうしたのですか?」
ユリアは少し不穏な様子を浮かべる。
「今日、町を出る事になったんだ。君に別れを伝えに来たんだ……」
ゼブラは言った。
「えっ?…」
突然の事に、ユリアは凍りついた。旅人だから、いつかは出て行くとわかっていたけど、いざとなると、心のどこかで寂しさを感じ、心が震える。
旅に出ると、ゼブラにはもう会えない……。
「じゃあ」
ゼブラはユリアから背を向け、正面口のドアを開ける。しかし、立ち止まる。
何だよ、この気持ちは…。と、心の中、ゼブラは何か迷っている。すると、ゼブラは意を決してユリアの方に振り向く。
「ゼブラさん?」
ユリアは首を傾げ、様子を伺う。
「なあユリア。一緒に旅に行かないか?」
言ってしまった……。
素直な気持ちをユリアに告白するゼブラ。ずっと一緒いたい。好きだ。とかの理由ではなく、彼女には自分に対する何かを感じた為、本能的に伝えてしまった。
「えっ?」
困惑するユリア。いきなり一緒に旅に行こう。と、言われたので無理もない。
思いを伝えた後、ゼブラは黙り込む。あとはユリアの答え次第だ……。
「うれしいです……」
ユリアは言った。
「じゃあ?」
ゼブラはユリアの承知を思い込む。しかし。
「私がついて行くと足手まといになるし、皆に迷惑をかけてしまう。それに店を放っておく訳にはいかないから、ごめんなさい……」
申し訳なさそうに、頭を下げるユリア。嫌ではないが、店の事や自身の足手まといを気にかけている。
彼女自身、世の中を見てみたい気もある。だが、断るとゼブラとは会えないし、旅をする機会も失う。答えは言ったが、今でも迷っている様子のユリアは不穏の表情。すると。
「店は俺達に任せて、どうですかユリアさん?」
ジャックは言う。
「えっ?」
ジャックの言葉にユリアは驚き、彼の方に目を向ける。
「お前ら、さては店を乗っとるつもりで言っているんじゃないだろうな?」
二人を疑うゼブラ。
「違いますよ、ユリアさんが少し迷っている様子みたいで、言ってみただけですよ!!」
ジャックは手を振り、否定。
「本当だな、もし、嘘だったらボコボコにして、広場の真ん中に全裸にして磔にしてやるからな…」
ゼブラは物騒なセリフで二人に釘を打つ。
ゼブラのセリフに、ジャックとハリーはビクビクに震える。これで、安全だ…。
すると、ユリアはジャックとハリーに目を向け、本音をぶつける。
「私、行ってもいいかしら?」
ユリアは言う。
「ハイ、店は心配しないで下さい」
ジャックとハリーは自信気な笑みを浮かべる。
何故なら、ユリアまでとはいかないが、店のパンの作り方はマスターしている。ユリアは安心の笑みを浮かべ、ゼブラの方に目を向ける。
「ゼブラさん。私も行きます」
ユリアはゼブラに言った。
「いいのか?」
ゼブラは言う。
「大丈夫、迷いは消えました」
スッキリした笑みを浮かべるユリア。そして、ユリアは店にしばらくの別れを告げ、二人はフェイトが待つ中央広場に向かうのだった……。