第52話 その名は明鏡止水
「それはどうかな……」
ハッタリ、もしくは考えがあるのだろうか……。つばぜり合いの中、ムサシは不敵に笑う。
ーーーしかし。
「ーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックス姿のダンタリオンは、諦めない表情にイラッとしたのか……。炎剣を押し込み、剣圧でムサシを吹っ飛ばす。
(私は未熟だ……。ゼブラ(アイツ)なんかに心が気迷いし、思うような戦いが出来ないとは……)
十数メートル後方に吹っ飛ばされたムサシは踏ん張り、己の未熟を自覚……。
鬼神化フェニックス姿のダンタリオンを見ていたら、ゼブラが思い浮かび、気が乱れる。
「ーーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックス姿のダンタリオンは炎紅のスピードで突っ込み、数十発の剣突きを放つ。
「ーーーーッ!!」
ムサシはギリギリに反応し、剣突きを弾き流すが、弾き流し切れず、2発、3発、4発、5発……。と、炎の剣傷が与えられ、全身が切り刻まれる。
衣類は焼け切られ、全身に紅の剣傷が痛々しく残り、焼ける痛みが行き渡る……。
「一閃っ!!」
ーーームサシがグラッと、体勢を崩した瞬間……。鬼神化フェニックス姿のダンタリオンは、ムサシに狙いを定め、炎紅のスピードで斬り抜ける。
「ぐっ……、あっ………」
剣撃を与えられた全身から紅炎が吹き出し、ムサシは意識を失い、ドサッと倒れ伏す……。
「ふん、他愛もない……。いくら手練れの人間でも、気迷いすればこの程度か……。人間は愛があるから強い。しかし、その愛までもが弱点になるとは、皮肉なものだ……」
ダンタリオンは鬼神化フェニックス姿を解き、元の姿に戻り、倒れ伏すムサシに振り向く。
ダンタリオンの尊敬の眼は、対象者の思いが強い者に姿を変える。……しかし、対象者が意識を失った事により、変身姿の維持が出来なくなり、ダンタリオンは元に戻った……。
ーーームサシはピクリと指を動かす……。
「おや?……」
ダンタリオンはムサシの微かな変化に反応。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
ムサシはフラフラになりながら、立ち上がる。
全身に凄まじい剣傷ダメージを負い、至る所に紅の斬傷、衣類はズタズタに裂けている。
ーーーゼブラ(アイツ)のせいで、くたばってたまるか……。と、怒りのプライドで立っている。
「まだ立ちますか?…… 。さっさと寝ていればいいものの……」
ダンタリオンは面倒臭さそうな声を上げ、ステッキを片手に構える。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
ムサシは苦悶に息を切らし、刀を構える……。
ーーームサシ、もう終わりか?……。
途中、ムサシは修行の光景を思い出し、ムジカさんの声が浮かんだ……。
ーーーいいか、こういう技がある。迷いや恐怖に打ち勝ち、一点の曇りのない清らかな水ような心。名は、明鏡止水……。
ムジカの思い出は以上だ……。彼は明鏡止水は知っているが、体質ではないから使えない。
「なら、望み通り、トドメを刺してあげましょう。アナタの思い人でね……」
ダンタリオンは再度、ムサシの心に入り込み、鬼神化フェニックスに変身。
(イチかバチか……)
ムサシは瞳を閉じ、氷刀を静寂に構える。
スウッ……。全身の力を抜き、感覚を流れに身を任せ、心の中を(無)を思い浮かべ、あらゆる考えを遮断し、集中。
余計な考えは禁物、少しでも気迷いしてしまえば明鏡止水は応えない。ちなみに修行では出した事はない。一か八かの賭けである……。
ガープ戦で使えなかったのは、緊張感が足らず、気持ちに余裕があったからだ。
「ーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックス姿のダンタリオンは炎剣を振るい、ムサシに炎の斬撃を放つ。
肝心のムサシは瞳を閉じ、体勢をピクリとも動かさない……。
ーーームサシの数センチ右横を、炎の斬撃がギリギリに通り過ぎ、爆発。
(……………)
ムサシは瞳をサファイアの色を輝かせ、開く。
「何だ、その眼は?」
鬼神化フェニックス姿のダンタリオンは尋ねる。
ムサシから漂わせる異様な威圧感、奴にとって嫌な予感でしかない……。
(これが、明鏡止水?……)
ムサシは全身からサファイアの粒子圧を広げ、精神を一体化させ、氷刀を構える。
何も恐れず、何も考えず、一点の青空のように曇りもない心……。それが明鏡止水。
ーーー全身の剣傷が癒え、刀身はサファイアの光りが輝き、小刻みのキィーンとした高音が響かせ、黒のロングヘアーをなびかせ、一辺の森林地帯を地鳴りのような風音を吹き立てる。
気持ちは極限に研ぎ澄まされ、同時にパワーがアップ。そして身体中が恐ろしい程、軽い……。
ーーーーすると。
「なっ……。バカな……」
鬼神化フェニックスの姿から、元のダンタリオンに戻った……。心が読めなかくなった事により、変身の維持が出来なくなったのだ。
(……………)
ーーー明鏡止水状態のムサシはサファイアの瞳を輝かせ、ダンタリオンに駆け走る。
「何故だ!?、何故だ!?。何故、貴様の心が読めない!?。何だ、あの大空はぁ!!」
ダンタリオンはムサシの心を読もうと試みるが、浮かび上がるのは壮大な青空だ……。
「ーーーーーッ!!」
明鏡止水状態のムサシは中間距離から氷刀を構え、振るう。
「タダでは終わらんっ!!」
ダンタリオンは凄む叫びをあげ、詠唱。
ーーー闇属性の魔力を使い、杖先から闇炎の刃を造形化させ、片手構えで振るう。
普段、尊敬の眼の能力で戦って来た為、普段、使用しないが、もしもの時の仕込み武器である……。
「ーーーーーーーッ!!」
ーーー明鏡止水状態のムサシは、斬り抜けた……。
戦場の森林帯に響き渡る斬音……。誰が斬られた事すら、分からない。




