第50話 メンタリスト魔族ダンタリオン
「参るっ!!」
氷壁の前に立ち、ムサシは氷刀を脇に構える。
ーーーそして自身の属性である氷圧の粒子を全身に漂わせ、銃撃隊に向かい、斬りかかる。
「女かぁ……。殺すなよ、動けなくさせ、生け捕りにして我らの戦利品にしようではないかっ、ウシシシシ……」
魔界軍の銃撃隊はニヤニヤと笑い、狙撃ライフルを構え、銃弾を一斉放射。
相手は若い女だと知り、低い品格な笑みを浮かべ、捕らえた時が楽しみで仕方がない。
徹底的に弄び、自我を破壊してやる……。と、快楽性を露にする。
ーーーしかし。
「ーーーーーーッ!!」
一斉に放たれる銃弾を、ムサシは氷圧の粒子を全身に漂わせ、氷風のスピードで回避し、駆け走る。
「銃弾をかわすだとっ!!」
信じられない……。と、表情を浮かべ、銃弾兵の一人は驚きの声をあげる。
ーーー銃撃隊から数メートルの至近距離に、ムサシは氷風のスピードで駆け込み、接近。
「ーーーーーッ!!」
銃撃隊は断末魔の叫びをあげ、中型ライフルをカチャと、構える……。
「遅いっ!!」
ーーームサシは氷刀を振るい、1、2、3、4、5人と、一気に斬り伏せた……。
斬り伏せられた魔界軍の兵士は、身体を斬り断たれ、断面が凍結した肉塊が地面一辺に転がる。
ムサシのスピードは、常人の兵士では太刀打ちは不可能であり、力量が違う……。
………地面一辺には断面が凍結した肉塊が転がり、凍結の白煙が吹き立てる。
しかし、地底雲の蒸気により、凍結した肉塊は溶け、溶け水が混じった血が地面にドロドロと滴るのである。
「ふぅ…………」
刀に滴る血を、振り払うムサシ。
氷属性の付与術を解除し、元の状態に戻る……。
ーーーパチパチパチパチ………。
「いやぁ、なかなかのモノです。震える後輩に叱咤激励をし、奮起を立たせる。そして銃撃隊を一瞬で倒す実力と美貌、実に華々しい……」
拍手をし、木影から姿を現したのは魔界六人衆のダンタリオン。
黒の三角帽子、包帯でグルグル巻いた細い顔、黒の丸メガネ。上は黒の礼服にネクタイ、スラリとした黒ズボン、革靴。
「何だ貴様は?」
ムサシは鋭く尋ねる。
「私の名は、ダンタリオン。魔界六人衆の一人であり、モノマネ芸者である……。リクエストを下されば、望む者のモノマネを致しますぞ……」
と、ダンタリオンはステッキをクルクルと回す。
「ーーーーーッ!!」
ムサシは氷刀を振るい、氷の斬撃を放つ。
「おやおや、穏やかではありませんね……」
ダンタリオンの数センチの左側を、氷の斬撃が高速で通り過ぎる……。
氷の斬撃に直撃すれば氷結し、氷の造形となる。
しかし、ダンタリオンは顔色1つも変えず、穏やかな様子である。
「モノマネ何ぞに付き合ってられるか……。義勇軍の敵として、貴様を葬ってくれる」
ムサシは氷刀を突きつける。
「フフフフフッ……」
ダンタリオンはクスクスと笑い声をあげる。
「何がおかしい?」
ムサシは尋ねる。
「見える、気丈に張る主の心の中が……。もしかすると、アナタには好意を抱いているものがいる……。実に、可愛いモノではないかぁ」
「きっ……、貴様に何がわかるっ!!。私に、好きな人何かいないっ!!」
ムサシは頬を紅く染め、声をあげる。
ダンタリオンの声に、頭の中にはゼブラが浮かび上がっている。
ゼブラの奴に、自分はその気はない。と、自問自答で否定しているが、何故か浮かぶ……。
「無駄だよ。私の眼は、人の心を読む事が出来る……。どんなに気持ちを閉ざそうが、私の眼の前では丸見え同然です」
「うるさいっ!!」
ムサシは取り乱した気持ちで斬りかかり、中間距離から刀を振るう。
「ーーーーーッ!!」
気迷いしたムサシの刀を、ダンタリオンはステッキを右の片手で持ち、受け止める……。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
ムサシは気汗を額から滴らせ、刀をジリジリと押し込むのである。
しかし、力で押し込まれているダンタリオンはピクリともしない。ムサシを瞳から心の奥を覗き込むようにジロジロと観察し、睨む。
観察。と言うのが奴の武器であり、そして芸者技でもある……。
「汗、凄い流れていますよ……。本当の気持ちが激流し、乱れを現し、気の迷いを露にする……」
ダンタリオンは涼しい声をあげる。
「黙れ……。お前に、私の心が読めるモノか……」
ムサシは強がり、抵抗の声をあげる。
「アナタの見たい者を見せましょう。ワン、トゥ、スリー……」
ダンタリオンは左指をパチンと鳴らす。




