第49話 ムサシとカメレオン
ーーーその頃。
(…………)
ムサシは不機嫌な表情を浮かべ、沈黙。
隣にはカメレオン。運悪く、二人は一緒に転移されてしまったのだ。
会議室の件もあってか、二人の仲は犬猿だ……。
ーーー犬猿の二人は森林道を歩いていた。
ソワソワソワ………。
カメレオンは辺りを眺め、時計周りに動き回る。
敵の監察か、それともただ、落ち着きがないだけなのか……。
「さっきから何をしてる貴様はっ!!」
ムサシは激怒し、刀の鞘に手をかける。
「見ての通り、辺りに敵がいないか監察していたのですよ。大声を出すと、逆に見つかりますよ。それと、大声を出すと、身体から熱を出して汗をかきます。臭くなりますし、頭おかしい人と思われますよ……」
カメレオンは言う。
(このガキが……。言いたい事をボロクソに……)
当たり前の事を言われ、返す言葉が見つからないムサシである。
ーーー捕虜だったら、迷わず殺す所だ……。敵に捕まっても、絶対に助けない。
まぁ、情を持たなくていいから気楽だ……。
ーーードウッ。
その時、数発の銃弾が撃ち込まれ、ムサシとカメレオンが立つ地面に、撃ち込まれる。
撃ち込まれた地面から白煙が上り、火薬の匂いが敵襲を知らせてくれた。
「チッ。敵か……」
ムサシは鋭い表情を浮かべ、刀を構える。
「ムサシさんが大声を出すから……」
「黙ってろ」
ムサシはキレ気味な一言でカメレオンを黙らし、辺りを眺める……。
ーーードウッ。
さらに、数発の銃弾がムサシとカメレオンを高速で通過し、緊迫感が張り詰める。
「いたぞっ!!。義勇軍だっ!!」
ーーー木々の茂みから声をあげ、森林道に姿を現したのは魔界軍の銃撃隊である。
数百メートル先のムサシとカメレオンに狙いを定め、狙撃ライフルを一斉に構える。
隊列を崩れた所に、奇襲を仕掛ける。このタイミングを奴らは狙っていたのか……。
「こうなったら……」
ムサシは氷属性の付与術を唱え、氷圧を全身に漂わせ、氷刀を降り下ろす。
「ーーーーーーッ!!」
魔界軍の銃撃隊は狙撃ライフルを一斉放射。
ーーームサシが氷刀を一気に降り下ろした時、氷壁が具現化し、魔界軍の銃撃から防壁。
氷壁には銃撃の跡が残り、亀裂すら出来ない程、頑丈に造り出されている。
(…………)
カメレオンは沈黙……。
初の戦場か、足元がカクカクと笑い出し、震わせていた。
氷壁を撃ち込む銃撃の音が響き、破壊されるのも時間の問題だ……。
「どうした?。足が震えているぞ新人」
氷壁に背をもたれ、ムサシは尋ねる。
「震えてません。先輩の氷壁が、寒いんです……」
と、カメレオンは言い返す。
ーーーとは言うものの、表情が強ばり、言葉使いがどこか大人しい……。
ムサシの氷壁は、風邪を引かせる程の寒さは無い。寒いんです……。と、言い返したのはただの強がりである。
「へっ、強がりやがって……。えいっ!!」
ムサシはカメレオンの両頬をクイッと引っ張る。
「なななっ、何するんですかぁ?」
両頬を引っ張られ、カメレオンは困惑。
「お前のやるべき事は何だ?」
引っ張る両頬を放し、ムサシは正面からカメレオンの両肩を掴み、睨みつける。
「えっ?」
「やるべき事は何だ?。と、聞いているっ!!」
ムサシは声をあげ、尋ねる。
「信号弾を打ち上げ、平原に待機する義勇軍に進撃合図を送る事……」
「そうだ。チーム1人が失敗すれば作戦の失敗に繋がる。お前にあたえられた役割は重要であり、絶対失敗してはならない……。確かに緊張はする、私もそうだ。不器用な事しか言えないが、私やムジカさん、そして……、アイツも同じように緊張して、戦っている。だから、お前はお前の役割を果たせ、カメレオン……」
ムサシは真剣な様子で主張。
アイツとはゼブラの事であり、名前は言いたくないからアイツと言ったまでだ。
ーーー緊張しているのは、自分だけではない。ムサシ流の叱咤激励である。
義勇軍の戦士として鍛えられたからには、与えられた役割は、子供だろうが大人だろうが、果たさなければならない。
出来ない。と言う答えは、許されない……。
「はい……」
紅く染った頬のカメレオンは鼻をズズゥーとすすり、小さな身体、大きな決意で頷く。
そうだ、私は小さい頃からかくれんぼが得意で、自分の能力を活用し、隠密兵として戦場に赴く覚悟で勇軍に入った。
なのに今頃、自分は何を怖がっているんだ……。
「よしっ!!」
ムサシは感心気に頷く。
ーーーすると。
「あの、わかったかので離してくれませんか?。まさか先輩、そっちの気あります?」
「きっ……。貴様、少しは可愛い所があると思ったが、撤回だっ!!。さっさと行けっ!!」
ムサシは怒りで顔を紅く染め、カメレオンをドンッと、突き離した。
やっぱり、二人は犬猿の仲であり、仲良くならないらしい……。
「ハイハーーーイ。行ってきまーーす」
カメレオンはムサシの前から軽やかに走り去る。 木々の茂みに入り、道なき道を駆け走り、信号弾を打ち上げれる場所を探すのである。
ーーなお、カメレオンはかくれんぼで見つかった事はない。鬼役を諦めさせて帰らせた事がある。




