第41話 悲劇と絶望の町リベリウス
ーーー〈エボルド森林〉ーーー
公道の両端に生い茂る森林、地底雲の蒸気が一辺に充満し、温暖な環境である。
エリゴールの蛇に貪られた魔界軍の兵士達の鎧が静に散らばり、鎧には蒸気の水滴が滴る……。
地面にポッカリと大穴が開き、ヴァンとエリゴールが空間転移の跡だ……。
「ーーーーーーッ!!」
地面にポッカリと開いた大穴に、数メートルの大きさを誇る黒球が黒雷を帯電させ、現出した。
ーーーそして黒球は消滅……。
「ぐうっ…………」
消滅した黒球から姿を現したのはヴァン。
衣類のコートはボロボロ、無数の蛇に噛まれ、痺れ毒が全身に走り、へたり込む……。
また、生き残ってしまった……。と、額に汗を滴せ、頭上を仰ぐ。
意識が飛びそうな痛覚、少しでも気を緩めれば倒れる状態であり、しばらく立てなくなる。
それに、敵地での長居は危険。いつ別の敵が出てくるかわからない……。
ーーーーそして。
激痛の身体に鞭を打ち、ヴァンはリベリウス方向の公道を歩いていた。
ヨロヨロと身体を左右にフラつかせ、飛びそうな意識を気合いで保ち、額から汗を滴らせる。
充満する地底雲の蒸気が一辺を曇らせ、痺れ毒による視界不良により、疲労感がのし掛かる。
今のヴァンには、戦う気力、マトモに動く体力すら残っていない……。
(どこか、休める場所を………)
辺りを眺めるヴァン。
両端の森林を揺らす微風に、神経を研ぎ澄ましながら公道を歩く。
エリゴールを倒した事により、奴の同志が広地に駆けつけている頃だろう。
そうなれば、ヴァンを捜索する。それに、魔族は魔力の察知力に長けており、下手すれば直ぐに見つかってしまう。
ーーーそして。
ヴァンの目の前に広がる光景。
広がる光景には、かつてリベリウスと言う名の町があった。昔、魔界軍の突然の侵略により、町は破壊され、多くの人達の命が失った……。
理由も分からず、一人、また一人と、女性や子供関係無く、兵士達は高笑いを響かせ、殺した。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
身体をフラつかせ、廃墟の表通りを歩くヴァン。
辺りに充満するカビ臭い褐色の塵、地面の土は死に、土の性質は固い。凄まじく破壊された民家、街路樹、数階の建物が並ぶ。
パキッ…………。
ヴァンは何かを踏んだ。
踏んだ足に眼を移し、確認してみると土汚れで乾燥した頭蓋骨である。
そして辺りを眺め、地面一辺には無数の白骨死体が地面一辺に転がり、禍々しい塵が充満。
ある白骨死体は無数に剣を突き刺され、ある白骨死体は首を斬られ、ある女性ドレスを身に付けた白骨死体は両肩、両脚を斬られ、転がっている。
白骨死体の骨の隙間をトカゲ、ムカデ、蛇が這い、小動物の巣窟と化している。
(酷い光景だな…………)
ヴァンは辺りを眺め、呟く。
白骨死体の正体は皆、魔界軍の侵略により虐殺された民達である。地面一辺に転がる白骨死体の数が、魔界軍の残虐性を物語る。
ーーーー〈中央広場〉ーーーー
しばらく歩くと町の中央市場。
中央には噴水、ベンチが設備されている。噴水には白骨死体が溢れ返り、町民の社交場とは縁遠い光景となり、血生臭い雰囲気である。
噴水の隣には木造の集団絞首台が設備され、干からびた4体の絞首死体が吊らされ、地面一辺に白骨死体が無惨に転がっている。
この光景を一言で例えると、地獄だ……。
(ガキまで、容赦なしか……)
ヴァンは足元の人形に眼を移し、呟く。
人形の隣には子供服を着用した白骨死体、後頭部にナイフが刺さっている。
ーーーヴァンは傷ついた身体をフラつかせ、廃墟の町リベリウスを徘徊。
店として機能している民家を探し、休憩したい。
一辺に充満する死臭を漂わせる塵、地面に散らばる白骨死体の山。大半の建物は破壊され、石作りの屋根が露出している。
ガチャ……。
ヴァンは古錆びたドアノブに手を伸ばし、大衆酒場に入る。
店内は埃を漂わせ、真っ暗。店のテーブルは破壊され、衣類を着用した数体の白骨死体が壁に串刺しにされ、床にバラバラに散らかっている。
(骨ばっかりだな………)
壁にもたれる白骨死体をドンッと蹴り伏せ、ヴァンは壁にもたれ、しゃがみ込む。
古びた店内の外から魔界軍の無数の足音が響き、埃で被ったボロのマントを羽織り、息を潜め、隠れる……。
麻痺の毒を全身から抜くため、休憩。微々たる物音すら、出さぬように神経を研ぎ澄ませる。
ーーー店の外。
「いたか?」
「いや、見当たらない」
外の兵士達の会話が店の中まで響き渡る。
早く店の周りから消え失せて欲しいモノだ。相手なら、麻痺の毒が抜けてから何度でも相手し、思い出にしてやる。
両腕、右足がまだビリビリし、意識が薄い身体状態である。麻痺の毒を抜かすのに結構、時間が掛かりそうである。
正直、よくここまで動けたモノだ……。並大抵の人間なら、地面を這っているハズだ。
皮肉にも、ヴァンは生きるのに無気力だが、生命力が強い。
(一体、どこまで俺に生き地獄を味わせれば気が済むというんだ……。クレア……)
息を潜め、ヴァンは過去を思い浮かべ、呟く。
冷や汗を額から滴せ、荒い息を何度も吐く。意識が飛ばない程度に仮眠を取り、瞳を閉じる。
敵が入って来た時に、いつでも対処が出来るからである。
もし、寝てしまえば敵にグサリと刺される可能性も否定できない。
ーーーーこうして、無事に時間だけが過ぎていく……。身体は休めるが、気は休まらない。




