第39話 死闘パート2
グガァアアアアアアアッ!!
充満する紫の粒子煙が晴れ、詠唱陣から姿を現したのは緑鱗の大蛇。
体長は数十メートル、ギョロギョロした紫の眼、剥き出す牙から酸性の唾液がポタポタと滴り、青銅造りの地面を溶解し、強力な酸性を物語る。
表面の緑鱗はテカテカと白銀に輝き、気分が悪くなる……。
(………………)
鬼神化・重力の魔王は冷静に黒剣を構え、睨む。
「この、ヴェノミ・ナーガは私の最初の蛇です。十年間、百年と、この闘技場に住み、幾つもの敵を喰い、ここまで成長したのですよ……。アナタで、50 00人目の犠牲者です。何も恥じる事はありません、アナタはヴェノミ・ナーガに喰われ、そして血となり、肉になり、力になる……。さて、思い残す事は、ミスター…ッ!!」
途中、エリゴールの言葉は途切れた。
「ーーーーーッ!!
ヴェノミ・ナーガは右側から、パクりとエリゴールの上体を甘咬みでかぶり付き、振り回している。
ヴェノミ・ナーガは陽気な気性らしい……。
「やめなさいっ、やめなさいっ、ヴェノミ・ナーガッ!!」
エリゴールは絶叫し、何とかヴェノミ・ナーガの口から脱出し、地面に着地。
エリゴールの全身は唾液まみれ、魔族は皮膚が硬い為、濡れている程度であり、溶けていない……。
(何をやっているんだ……)
鬼神化・重力の魔王は黒剣を構え、様子を伺う。
「さて、アナタはこの状況をどうしますか?…」
染み付いた酸を拭い、エリゴールは不敵な笑みで声をあげ、尋ねる。
ヴェノミ・ナーガの辺りには無数の蛇が地面から噴出し、鬼神化・重力の魔王に向かい、ガラガラ声を響かせている。
(…………)
無数の蛇達の声に追いやられ、鬼神化・重力の魔王は闘技場の端にズルズルと後退。まさに、絶対絶命の状況である。
「さぁ、ヴェノミ・ナーガの餌食になるがいいっ!!」
エリゴールは勝ち誇った声をあげ、蛇の槍を鬼神化・重力の魔王に突きつける。
「それは無理な話だ……」
鬼神化・重力の魔王は黒剣を構え、詠唱。
鬼神化・重力の魔王(グラビティ・ロードの重力がズシリと漂い、全域に無数の詠唱陣を描き、紫の光線を闘技場一帯に狙いを向け、一斉放射。
「ーーーーーーーーッ!!」
鬼神化・重力の魔王の光線により、闘技場の地面は破壊され、ガレキ、蛇とヴェノミ・ナーガは大渦に吸い込まれ、落下…。
空中に、紫の粒子煙が充満し、熱圧が漂い、雷流がバチバチと流れる。
「まさか、闘技場を破壊し、蛇達を片づけるとはね……。やりますね……」
エリゴールは充満する爆煙に紛れ、移動。
浮遊岩に瞬時に跳び移り、闘技場の破壊される光景を見送り、腰かける。
辺りを眺めるが、鬼神化・重力の魔王の姿は確認出来ない。
恐らく、奴は死んだ……。死んだ蛇達に喰われなかったのは残念だ。
「勝手に殺してもらっては困るな……」
「おや?……」
重力属性の殺気に察知し、エリゴールは思わず振り向いた……。
後方、数十メートル先の空域に、ボロボロの鬼神化・重力の魔王が空中に浮き、黒剣を構えていた。
「しぶとい方ですね、アナタみたいな人間は初めてです。いい加減、死んだらどうなんです?……」
エリゴールは面倒臭そうに声をあげる。
「生憎、俺には何故か生き延びてしまう呪いが取り憑いている。出来れば人生終わらして欲しいモノだよ……」
鬼神化・重力の魔王はエリゴールに向け、黒剣を突きつける。
「ならば、お望み通りにしてあげますよっ!!」
エリゴールは荒げた声をあげ、残像を残すスピードで空中移動し、鬼神化・重力の魔王に突っ込む。
「ーーーーーーッ!!」
鬼神化・重力の魔王は察知、左側十数メートルに移動し、エリゴールの槍撃を通過させ、空中回避。
「人間ごときが空中でちょこまかと……」
十数メートルの距離を一直線に飛行し、エリゴールは振り向き、詠唱。
蛇槍の刃先に、蛇の死球を具現化させ、鬼神化・重力の魔王に狙いを定め、投げ放つ。
「ーーーーーーッ!!」
鬼神化・重力の魔王は紫の詠唱陣を描き、黒の光線を放ち、蛇の死球を熱滅。
「きぃっ!!」
空域に浮遊する岩々にピョンピョンと、跳び移り、エリゴールは奇声をあげ、鬼神化・重力の魔王の左側数メートルの距離から跳び掛かる。
「ーーーーーーッ!!」
反応が間に合わない為、鬼神化・重力の魔王はエリゴールの槍撃を黒剣で受け止める。
禍々しい火花が散り、ぶつかり合う……。
そしてお互い跳び下がり、数十メートルの距離に空中移動し、体勢を立て直す。
「わなわなわなわな……」
浮遊する一個の大岩に跳び移り、エリゴールは奇妙な声をあげ、蛇の槍をクルクル回し、詠唱。
4体の蛇の死球を具現化させ、鬼神化・重力の魔王に投げ放つ。
「重力の爆裂波ッ!!」
鬼神化・重力の魔王は初期段階である重力を空域に漂わせ、紫の詠唱陣を描き、重力の爆裂波の白銀の光線を放射。
重力の爆裂波は4体の蛇の死球の方向に曲がり、飲み込み、熱滅。
空域に紫の粒子煙が充満し、熱を漂わせる……。
「わなわなわなわなっ!!」
紫の粒子煙を切り抜け、エリゴールは蛇の槍を構え、鬼神化・重力の魔王の正面から飛び掛かり、槍突きを放つ。
「ーーーーーーッ!!」
鬼神化・重力の魔王はエリゴールの槍突きを中間距離から潜り抜け、黒剣を横に振り、斬り抜ける。
エリゴールの身体は両断され、大渦に落下……。
しかし、両断された死体は蛇の塊に戻り、偽物。
「これならどうですっ?。ショーーターーイムッ!!」
鬼神化・重力の魔王の前方、数十メートルの距離の先、エリゴールは一個の大岩に乗り、蛇の槍をクルクル回し、詠唱。
空中に、1体の蛇の死球を具現化させ、2体、3体、4体と具現化され、たった数秒の時間の間、無数の蛇の死球を空域を漂わせていた……。




