第2話 出会いの町クーデルカ
───《王国管轄の町クーデルカ》───
「ハァ……」
町の表通りに立ち止まり、ゼブラはため息を吐いて途方に暮れていた。時刻は昼過ぎ、もうすぐ夕方だ。彼がため息を吐いている訳、フェイトとはぐれた。一帯の建造物や行き交う人々、村とは比較にならない程に並ぶ露店に眼を奪われ、一辺を見回しながら歩いていたら、フェイトの姿は人混みの渦へ吸い込まれ、行方不明。
「どこ行ったんだ?」
辺りを散策するゼブラ。視界に映るのは町民、一帯に立ち並ぶ十階建ての集合建物、街灯。そして建物同士の密着により出来たトンネル。時間が時間であり、暗い日影が一辺を覆い、静寂を漂わせる。
そうだ、俺が迷子になったのではない。フェイトさんが迷子になった。と、思えばよい。ゼブラは前向きに解決。
───グルルルルッ……。
そう言えば今日一日、何も食べていない。空腹で腹の虫が鳴り、まず食堂を探すゼブラ。町の料理に少し期待を持ち、辺りを観光。田舎者のゼブラにとっては何もかも新鮮である。
「あっ!!」
ポケットに手を入れ、思わず声をあげるゼブラ。
財布を途中で落としてしまった……。フェイトとはぐれるより、財布を落としたのが一番恐ろしい。飯にありつけない、このままじゃ野垂れ死ぬ。
ゼブラは財布が落ちてないか探し、一辺を歩き回る。今はフェイトより財布だ。
ーーーーそして。
至る所を観光してるうちに、ゼブラは知らない並木通りを歩いていた。
道沿いには公園、歩き疲れた為、ひとまず休憩する事にする。公園には誰もいない、いるのは文無しのゼブラのみだ。
見ようによっては不審者だ……。
「アァーーーーー…」
公園のベンチに寝転がり、空腹で変な声をあげるゼブラ。姿は不審者、巡回兵に見られたら職務質問されるレベルだ。変な剣には呪われるし、迷子にはなるし、そして財布は落とす。
本当に今日はロクな事がない……。
(ハラが減ったぁ……)
ハラの音がうるさい。ゼブラの空腹が極限にまで達し、腹部が悲鳴をあげている。
もうだめだ、意識が……。と、目の前が真っ暗になり、ゼブラはベンチの上で意識を失った。
並木道を歩くロングヘアーの少女。
髪の色のクリーム、容姿は十代後半。買い物帰りの彼女は何気なく道沿いの公園に目を移すと、倒れているゼブラを発見。少女は驚き、慌ただしくゼブラに駆け付ける。
「大丈夫ですか?しっかりしてください!!」
少女はゼブラの体を揺らす。少女は誰かいないかと、辺りを見回す。しかし、誰もいない。
(助けなくちゃ……)
少女はゼブラを背負い、自宅に搬送……。
ーーーー夢の中、ゼブラは息を切らしながら疾走。
暗闇の景色、一辺の民家から火が燃え、壊滅。辺りに横たわる幾多の死体。視線の先にはリディクラと剣を構えるローブ男の部下達。ゼブラは敵意を剥き出し、剣を構える。すると…。
「ーーーーーッ!!」
ゼブラの足に掴み、身動きを封じる殺された村人達の怨霊。怨霊達は口を開く。
「よくも村を、関係のない私たちを、巻き込んでくれたな……」
強い怨みを漂わせる。
ローブ男達は一斉に剣を構え、身動きのとれないゼブラに突っ込む。そしてローブ男達は一斉に剣を構え、ゼブラに降り下ろす。
「ワアァァァァァッ!!」
悪夢から覚め、ゼブラは上体を起こして絶叫。
最悪な夢だ。額からは寝汗が滴る。
(ここはどこだろうか……)
ゼブラは思わず周りを見回す。知らない天井、知らない部屋に知らないベットで彼は寝転がっていた。
「気がつきましたか?」
部屋に入って来たのは、ホッと安心した様子の少女。ゼブラは思わず少女に視線を移す。
「公園で行き倒れになっていたんです。周りに誰もいないから、家までアナタを運びました」
少女は事情を話し、ゼブラに歩み寄る。
「君は?」
ゼブラは口を開く。
「私はユリア・クライン。この家でパン屋を営んでます」
少女は自己紹介。クリーム色のロングヘアー、優良な瞳。白布の半袖服、スカート。身長はゼブラより2センチ低く、乳がでかい。年齢はゼブラより一歳年下である。
「俺はゼブラ・ハルシオン。何で他人である俺を助けたんだ?」
ゼブラは言う。
「放っておけなかったからです。行き倒れている人を見過ごす事は、私には出来ないからです」
「簡単に知らない人を家に入れて、危険だと思わないか?」
「思わないです」
ユリアは笑みで答えた。
ダメだこりゃ、人が良すぎる。いつか変な奴に襲われるな……。と、ゼブラは呆れる。
「凄い汗ですね」
ユリアはゼブラの顔を観察。
「少し怖い夢をみてな。思わず起きてしまった」
ゼブラは言った。すると、ユリアはポケットからハンカチを取り出す。ユリアはハンカチをゼブラの額に押し当てる。
「そんな、悪いよ」
ゼブラは遠慮がちに顔を背ける。
「駄目です。風邪引きます」
ユリアは優しく叱る。仕方なく汗を拭いてもらうゼブラ。服の隙間から覗くユリアの胸の谷間。目のやり場に困り、ゼブラは顔を赤らめ、目を反らす。
ーーーーグルルルルッ……。
忘れた頃にやって来る腹の虫。ゼブラは腹が減っていた事を体で思い出した。
「お腹が空いてるのですね?」
「まぁな……」
ゼブラは正直に頷く。
「こっち」
ユリアはハンカチの手を止め、部屋を出る。ゼブラは彼女について行く。部屋の外は二階の廊下が伸び、他にも2部屋の空き部屋が存在。
結構、良い家だ。ゼブラの家とは大違い。
「この薫り……」
階段の下から香ばしい匂い。匂いに誘われ、ゼブラは階段を下る。匂いで余計、腹が減ってきた。
一階はリビング、床には絨毯が敷かれている。
ゼブラはテーブルの椅子に腰を掛け、待つ。本棚や食器棚が立ち、寒い季節に活躍する暖炉が設備されている。
扉の向こうは厨房。漂う香ばしい匂いを堪能しながら辺りを見回すゼブラ。
「お待たせ」
扉を開き、パンを入れたカゴを持ってユリアは戻ってきた。そしてパンのカゴをテーブルに置く。
「おぉ、美味そうだ」
腹が減っていた為、正直に口を開くゼブラ。
「沢山食べてください」
ユリアは優しく言った。ありがとう、君は命の恩人であり、天使だ。
「いただきます」
手を合わせ、ゼブラは沢山のパンを食らいつく。
「どうかしら?」
「うまぁ~~~~~~~~~~~~い」
ゼブラは両手で頬を押さえ、感激の笑み。空腹だからより美味いのだ。パンを食べるゼブラの様子を、ユリアは嬉しい笑みで見守る。
美味しいと言ってくれて、嬉しいのである。
「君は一人で店をしているのか?」
パンを片手に、ゼブラは何気なく言う。そういえば、彼女以外の従業員が見当たらない。
「はい」
ユリアは答えた。
「両親はいないのか?」
「2年前に亡くなりました」
「そうなんだ……」
ゼブラはパンを運ぶ手を止める。悲しい表情を浮かべ、申し訳なく思ってしまう。
「気にしないでください。もう、慣れました。まだ、パンありますよ。沢山召し上がってくださいね……」
ユリアは気丈な笑みを浮かべ、パンを勧める。
彼女の表情から伺えると、精神面が自立している。寂しくない、悲しくない、とかの問題ではなく、彼女は一人の大人として振る舞っている。
「このパン美味いね」
話を変えるゼブラはパンを口に運ぶ。
「両親には遠く及びません。私なんてまだまだ未熟者ですよ」
と、謙虚に返すユリア。
彼女の両親が作ったパンはどれだけ凄いんだろう。食べてみたいが、亡くなっているから叶わない。
「お嬢ちゃん、今日こそ借金全部返してもらうぞ!!」
その時、店の正門扉を乱暴に入る怒号。怒号はリビングまで響き、二人の耳に入ってきた。