第1話 旅立ち
魔導師は、冷静な表情を浮かべる。敵の数に臆さないのは気持ちの強さと戦場馴れをしている証だ。
「殺れ」
リディクラは手刀を掲げ、命令。ローブの男達は剣を構え、一斉に魔導師に斬りかかる。
(フンッ)
軽く笑い、魔導師は詠唱。
魔力を込め、両手は灼熱の紅と化す。紅と化した両手からは白い熱煙、術者には熱さは感じない。
「烈火の熱壁ッ!!」
魔導師は詠唱し、左の紅手を掲げる。
――――三体のローブ男の足元から紅の詠唱陣が浮かび、詠唱陣から炎の渦が現出し、2体のローブ男を飲み込む。
残り一体は状況に紛れ、数メートル後退。そして再び突っ込み、飛び掛かる。
「ふん、馬鹿が…」
鼻で笑う魔導師は詠唱、両手をパンッと合わせる。
魔導師の全身には雷圧、地面からはバチバチと魔導雷流が波を打ち、流れる。
魔導師は飛び掛かるローブ男の剣を左の雷手で払い弾き、右手でローブ男の頭部をガシッ掴み上げ、詠唱。
「ーーーーーッ!!」
ローブ男の頭部に雷の魔力を流し込まれ、バチッと音を響かせ、全身から雷流が一気に暴発し、ローブ男は黒焦げに感電死体。
「汚い焼き肉だ…」
魔導師は呟き、感電死体を一辺に投げ捨てる。
彼は息を乱さず、本気すら見せてない。
「コイツ…」
リディクラは焦りの表情を浮かばせ、威圧されて後退。
「後は貴様だけだ」
魔導師は雷圧を漂わせ、リディクラを不敵に睨む…。
言っちゃ悪いが、リディクラと謎の魔導師とは格が違う。
「次こそは剣と貴様を破壊してやる!!」
勝ち目が無いと見たリディクラは捨てセリフを吐き、この場から逃走。
これで事態は収束、しかし代償は大きく、辺りは死体、炎上する建物、かつて賑わっていた村の面影は無い。
(………)
ゼブラは魔導師の実力に驚き、沈黙。すると、魔導師は倒れ伏すゼブラに歩み寄る。
「立てるか?」
魔導師は冷静な口振りでゼブラに手を差しのべる。ゼブラは魔導師に差しのべられた手に掴まり、立ち上がり、口を開く。
「アンタは?」
ゼブラは全身の激痛に耐えながら訪ねる。特に右肩が痛く、左腕で押さえる。
「治癒」
魔導師はゼブラの頭に手を掲げ、詠唱。
ゼブラの足元に翠の詠唱陣が浮かび、凄まじいダメージを負ったゼブラの全身からみるみると塞がり、衣類と体力が回復。魔導師の彼は一応、回復術も熟知している。術のレベルが高いのか、衣類まで回復している。
「ありがとう」
ゼブラは頭を下げ、礼を言う。
「俺はフェイト。フェイト・ナルバエスだ。お前の持っている剣を探し、ある末裔の所に持ち帰る為に奴らと同じように幾多の商人を渡り歩き、ここに来た。やっと宛を辿ったのだが、一足遅かったな…」
魔導師のフェイトは言う。
「アンタも奴らと同じ目的を持った輩か?」
ゼブラは言う。
「いや、奴らとは目的は反対だ。剣、又は選ばれし者を守り、ある所に送り届けるのか俺の役目だ」
フェイトは言った。
先程の状況から伺うと、奴らとは敵対関係であり、こちらの敵ではないらしい。ゼブラは安心した。
「教えてくれ、この剣は一体何なんだ?」
ゼブラは気持ちを爆発させ、フェイトに掴みかかる。剣の呪いから解放される方法を聞きたい。そうすればアノ変な奴らから狙われずに済む。
あんな思いは、もう嫌だ…。
「それは古代ユーギガノスの遺産の1つ。ある封印宝を破壊する為、もしくは祖先の運命の人と巡り会う為に、選ばれし者にしか持てない剣だ」
フェイトは冷静に答える。またユーギガノス。
「この剣から解放される方法は?」
ゼブラは恐る恐る聞いてみる。
「無い。お前はユーギガノスの剣に選ばれた者だからな…」
考えたくなかった答えをフェイトは言った。
「嘘だろ…」
ゼブラは気持ちが折れ、掴むフェイトを放し、へたり込む。
「お前に出来る事は、まず俺と来い」
フェイトは言う。
フェイトの言葉にゼブラは5分、6分と苦の表情を浮かべ、地面のジャリをかきむしりながら考え込む。俺のせいで村は無くなった、今の俺には何も出来ない。それなら答えは1つしかない。
「アンタに着いていけば、剣から解放される方法がわかるのか?」
ゼブラは言う。
「ここにいるよりは、可能性はあるな…」
「ゼブラ・ハルシオンだ。フェイトさん、この剣や奴らの事を全て知りたいから、俺はアンタについて行くよ」
「よろしく。そうと決まれば行くぞ。ユーギガノスの剣に選ばれたお前をある所に連れていく」
フェイトは村の出入口の方向に視先を向ける。
「待ってくれ。村の人や皆をこのまま放っておけない。皆を弔っておきたい。協力してください」
ゼブラは頼み込む。
野晒しの死人は報われないし、可哀想だ。それに村の人達にはお世話になったし、モンスターに貪られるのも気分は悪い。ゼブラの頼みに、フェイトは少し考える。
「いいだろう」
フェイトは答える。
「ありがとう」
ゼブラは礼をするのだった。
それから、二時間。二人は一帯に横たわる死体を集め、掘った地面に死体を埋葬。
ゴメン……。と、ゼブラは死体達に心から謝罪し、木造の十字架を墓標とし、埋葬した場所に突き立てる。
「気がすんだか?」
フェイトは言う。
「ああ」
ゼブラは一帯に並び墓を見渡し、決意の眼差しで答える……。村のみんな、さよなら。そして、俺をここまで育ててくれてありがとう。
と、ゼブラは感謝を胸に納める。時刻は昼過ぎ、二人はかつての村を後にした…。戻ってくる事はもうないだろう。
ーーーーー〈山道〉ーーーーー
渇いた地面の山道を下る二人。
崖上、崖下には幾多の木々が一辺に生い茂り、小動物の鳴き声か響き渡る。状況はのどか、しかしゼブラの心境はのどかではない。道中の看板には、(一キロ先、ミハイル平原)と記されている。するとゼブラは口を開く。
「村に襲ってきた奴らは一体何者なんですか?」と、ゼブラは質問。
「奴らは恐らく、破壊神の力を狙うチンピラだろう。お前の持っている剣、選ばれし者は破壊神に対等する力を手に入れる為の鍵。だから狙われる」
フェイトは言った。
訳ありの代物は、あまり買うものではないな。それがこの結果、気をつけよう。
「破壊神?」
知らない様子のゼブラ。
「それは今から話すのは面倒くさい。気が向いたら話してやる。それと言っては何だが、お前に良いことを伝えてやる…」
フェイトは立ち止まる。
「良いこと?」
ゼブラも立ち止まり、フェイトに視線を向ける。
「古代ユーギガノスの戦士が使っていた能力だ。俺は使えないが、お前なら使えるかもしれない。言い伝えでは(自身の闘志の異形を本能で思い浮かべよ、さすば力は目覚めん)と言うことだ。頑張れ」
軽い言葉でフェイトは他人事に説明。
(頑張れって…)
と、ゼブラはため息。
一時間後、二人は山道の出入口前に辿り着く。視界に広がる緑の平原、昼過ぎの青空、漂うそよ風。 平原の景色に、日常的な空が広く感じるのは気のせいか…。ゼブラは思わず立ち止まり、景色に目を奪われる。
「おい、行くぞ」
フェイトはゼブラを抜き、先頭を歩む。多少せっかちな気質な持ち主だ、ボヤボヤしてると置いてかれそうだ。
ーーーーー《ミハイル平原》ーーーーー
一直線に伸びる渇いた地面の街道。少し歩いた先には東と西に分かれる街道。
東は王都イザーク方面、西は港町トリエット方面。今日は色々と疲れた為、二人は一キロ先のクーデルカの町に向かう為、西の港町トリエット方面に進む。高い山々がそびえ、外に出たことが無いゼブラは見渡し、景色を堪能。
(落ち着きが無い奴だ……)
田舎者から出てきたゼブラの姿に新鮮に感じるフェイト。
一キロ歩いた所に3つの街道、3つの看板。左側の道には(モレノマウンテン)直線の道には(港町トリエット)右側の道には(この先、クーデルカ)と記されている。
「来い」
フェイトは言う。
「そんな囚人を連れていくような言い方しなくても、わかってますよ」
少し不快な気持ちでゼブラは返す。
「ある意味、囚人だ。剣の意志に選ばれし者と言う名の囚人だ……」
フェイトは皮肉に言った。
「なら、あげるよ」
ゼブラは剣をフェイトに差し出す。しかし。
(…………)
フェイトの手元に剣を差し出した途端、剣は宙に浮き、ゼブラの手元に帰還。
「残念だったな」
フェイトは言う。
「まだだっ!!」
ゼブラは諦めず、剣を放り投げる。だが、何度も放り投げても剣は宙に浮き、ゼブラに舞い戻りる。最後に投げた剣が戻ってきた時、柄がゼブラのみぞおちにバチ当りにヒットし、悶絶。フェイトは黙って見学。気持ちが疲れた為、ゼブラは一旦、諦める。
二人は右側の道を進む。数百メートル進んだ先には石造りの防壁、解放された門。門の向こうには広場、露店や建造物が立ち並んでいる。
(クーデルカ)と言う名称の町だ。二人は門をくぐり、町の中に足を踏み入れる……。